表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
なりゆき乱世~お姫さまと埋蔵金~  作者: 唖鳴蝉
第一部 新天地と新生活 篇
7/56

第二章 逃げ出したお姫さま 2.身の上話(笑)

「なるほど……『迷い人』か……」

「あたし、初めて会いました……」


 迷い人――って言ったよな、この人。この世界では稀に出現するらしいけど……普通に知られている事なのか? ……少し探ってみるか。


「はい。変な霧に迷い込んで、気付いたらここに……自分のいたところと違うようだとは判っていたんですけど……ここがどこなのかは……」

「何という村に住んでいたのだ?」


 ……村じゃなくて、一応は市だったんですけど……どう答えようか。もしも過去に転移者がいたとしたら……


「ニホンという土地です」


 こう答えておけば無難だろう。もしも過去にも日本人が来ていたら、何らかの反応があるかもしれないし。


「ニホン……聞いた事の無い地名だな。サティは知っているか?」

「いえ、あたしも聞いた事がありません」


 年下のお姉さんはサティさん、男勝りのお姉さんはユーディさんと名告(なの)った。サティさんはともかく、ユーディさんの方は本名かどうか怪しいけどね。僕も一応名前だけは名告(なの)っておいた……マモルとだけ。


「私もだ……ひょっとすると、マモルは別の大陸から飛ばされて来たのかもしれないな」

「名前もこの辺りでは珍しいですし、遠くから飛ばされて来たのは確かみたいですね」


 おぉ……この世界にも「大陸」という概念があるのか。……いや、問題はそっちじゃなくて……


「あの……この国は何という……」

「あぁ、この国……と言うか、ここから近いのはマナガ領だな。……かつてはフォスカ領と呼ばれていたが……」


 ユーディさんは苦々しげにそう言ったけど……追っ手とか言ってた事と考え合わせると、戦国時代とか下克上とかいう感じなのかな?


「まぁ、私の事はいい。マモルはこういう地名に聞き覚えはあるか?」


 ……自分の事って言っちゃったよ、この人。……無自覚に口が軽そうな二人だな。こっちの事情についても、明かす情報は絞っておいた方が良いか……


「いえ……残念ながら」

「そうか……とすると、やはりかなり遠くから飛ばされて来たようだな」


 ……さっきから気になってるんだけど、この二人の言う「迷い人」って、この惑星表面上の転移の事なのか? 僕みたいな異世界転移じゃなくて?


「あの……さっきおっしゃった『迷い人』って……?」

「む? マモルは聞いた事が無いのか? この辺りでは時々現れるのだ。どこからともなく飛ばされて来たらしい者たちがな」

「……僕の故郷では、『神隠し』っていうのがありました。突然姿を消してしまう人が(たま)に出るんで……」

「おぉ、ならばやはりマモルは、その……『神隠し』に()ったのだろうな」

「……それって……遠くに飛ばされるものなんですか……?」

「あぁ。判っている限りでは、別の大陸から飛ばされて来た者もいたようだ。マモルもかなり遠くから飛ばされて来たようだから、その点は覚悟しておいた方がいいぞ」

「……そんな……」


 うん。我ながら中々の名演技じゃないかな。こう、力無く(うつむ)いたりしてね。

 そんな僕を気の毒そうに眺めていた二人が、口々に僕を慰めようとしてくれる。好い人たちだ。少し危なっかしいところもあるけど。……罪悪感が湧き上がってくるなぁ……。


「……やはりシガラの町へ行くべきだな。マモルの故郷についての情報を集めるにも、ここで引き籠もっていてはどうにもならないだろう」

「そうですね、姫様……お嬢様のおっしゃるとおりです」


 ――あ、姫様って言っちゃったよ、サティさん。ま、そんな些事(さじ)には突っ込まないのが、大人の気配りってやつだね。


「……でも、町に行っても、僕のような子供にできる仕事があるでしょうか?」


 ――後で知ったんだけど、この世界では、十を超えたら子供でも働くのが当たり前なんだそうだ。そのせいなのか、ユーディさんは僕を面白そうに見た後で、冒険者登録を勧めてきた。


「……荒事には全然自信が無いんですけど……?」

「いくら冒険者ギルドでも、子供にそんな事をさせるものか。見習いのうちは町の雑用が精々だ」


 ……それなら大丈夫かな?

 冒険者として登録できるのは本来十三歳からだけど、孤児救済政策の一環として、登録年齢を十三歳から十歳に引き下げているらしい。(もっと)も、十三歳未満は見習い扱いで、登録に際して保証人が必要だとの事。


「保証人については心配要らん。紹介状にその事も書いておこう」


 それからは、こちらの世界……と言うか、この国の事情を色々と聞かせてもらえた。姫様たちの事情は訊かなかった。僕が聞いてもどうにもならないだろうしね。



・・・・・・・・



 翌朝起きてみると、もう二人はいなかった。残されていたのは約束の紹介状と手描きの地図、それと干し魚の代金には多過ぎるような金貨だけだ。紹介状の方は後で読ませてもらうとして……僕を起こさなかったのは、見送ってほしくないって事なんだろうな。自分たちがどっちに行ったのか、知られたくなかったんだろう。けど……【嗅覚強化】を使えば、大体の方向くらい判るんだけどね。

 ま、二人の希望を忖度(そんたく)して、跡を()けるような無粋な真似はしないけど。

次話は約一時間後に公開の予定です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ