エピローグ
些か疲れたような思いで、マモルは目まぐるしかったこの五ヶ月――呆れた事に、この世界に転移してからまだ半年も経っていない――を振り返っていた。
ここはフダラ山地にあるカーシンの館、マモルに与えられた一室である。
(……転移早々に若返ったり、魔物に出くわしたり、変なスキルが発現したり、冒険者に登録したり、お姫様を助けたり、盗賊を殺したり、埋蔵金を探し出したり……日本で普通に生きていたら、一生かかっても体験できないような事のオンパレードだったなぁ……)
着の身着のままでこちらへやって来た時はどうなるかと思ったが……そう考えていたマモルは、日本から持って来た数少ない荷物の事を思い出した。
もうずっとマジックバッグの奥に放り込んでいたが、どうなっているだろうか。
「……あ……マジックバッグに入れてたせいかな? まだバッテリーは残ってる」
マモルが取り出したのはスマホである。異世界に来たらしいと判ってすぐに確かめたが、案の定表示は圏外になっていて、どことも通話はできなかった。
一抹の寂しさを覚えてスマホを弄くっていたマモルであったが、相変わらず通話はできないものの、なぜかメールなら送れそうな気がし始めた。
――誰かが〝できる〟と言っているような気がする。
「え……? 本当にできるの……?」
理由が解らずに混乱したが、理由が解らないのは今に始まった事ではない。それより――もしもメールを送れるのなら、是非とも連絡しておきたい相手がいる。
僅かの間考えていたマモルは、徐に自撮りの写真を撮ると、それを添付したメールを送信した。このメールが本当に届くのかどうか判らない。けれど、もし届くのなら、今の自分の事を知って欲しいと願いながら。
そして……まるでそれを待っていたかのように、スマホの電源が落ちた。充電器の無いこの世界では、もうこのスマホを使う事はできない。けれどその前に、たった一つの大事な仕事をやり遂げてくれた。
・・・・・・・・
その日、日本のとある町で、受け取ったメールの画面を凝視しながら、無言で涙を流す男の姿があった。
もう会えないと諦めていた相手、それでも会いたいと願っていた相手からのメール。
添付されていたのは、少し若返ってはいるが紛れもない甥の姿。日焼けして少し逞しくなった甥の姿。そして……健康そうに楽しそうに微笑んでいる甥の姿。
どこから来たとも判らぬそのメールには、ただ一言だけが記してあった。
『僕は 元気です』
本作品はこれでひとまず完結とします。続編の構想も一応はありますので、機会があればお見せできるかもしれません。
お付き合いありがとうございました。




