第十六章 ナワリ 1.到着
「あーっ、もう! あの爺さん、ダンジョンの近くに転送するって――全然近くじゃないじゃんかよ!」
「まぁ……予想はしてたけどね」
当該ダンジョンの〝比較的近く〟であるという触れ込みの素材採集ポイントに転送してもらった後、またも延々と山中を彷徨う事になったのである。ヤーシアの呪詛も解ろうというものだ。何しろここは素材採集用のポイント、「素材」として最適なものが得られる場所である。問題は、その「素材」が何なのかという点なのだが……
「カーシン殿の言う『素材』の中には、このヘルファイアリンクスも含まれているのであろうか……」
「さぁ……持って帰って問い質してみますか?」
「持って帰んのかよ……?」
「そりゃ、これだけの魔獣だし……先生が引き取ってくれなくても、冒険者ギルドが引き取ってくれるんじゃないかな。マジックバッグに入れておけば傷まないし」
「あぁ……マジックバッグがあったんだっけ。つい忘れてたわ」
「まさしく、一介の冒険者が持ち歩くようなものではないからなぁ。拙者もついつい忘れがちになる」
などとぼやきながら、地図とコンパスと首っ引きで山の中を歩く事一日。三人はようやく目的のダンジョン跡に辿り着いていた。切り立った崖の中腹に、洞窟が口を開けている。
「あれみたいだね」
「やっと着いたのかよ……」
「良かったではないかヤーシア。今回は割と〝近かった〟ようだぞ?」
「まぁ……こないだは丸一日かけてようやく村外れだったからな……それに較べりゃ少しは近いけどさぁ……」
ぼやいている二人――ソーマの口調にもどことなくウンザリしたものが感じられる――を尻目に、マモルは魔動通信機でカーシンに連絡を入れる。
「入口に到着しました。これより進入します」
『マモルか、少し待て。……これ以上姫を押さえ込んでおけん。そちらに転移するから、マーカーの設置を頼む』
「……空振りかもしれませんよ?」
『それならそれで諦めもつくだろう。とにかく少しは落ち着いてもらわんと困る』
溜息を吐いて通信機を切ったマモルに二人が話しかける。
「カーシン殿と連絡はついたのか?」
「あ、はい。何か、姫様たちまでやって来るそうです。マーカーを設置するように言われました」
「あー……やはりそうなったか」
「マモルも予想はしてたんだろ?」
「予想はしてたけど……一応僕たちが下見して、何かそれらしいものを見つけたらって話だったんだよ。最初から同行するって……空振りかもしれないのにさぁ……」
「解ってないなマモル。それも含めてこその宝探しじゃんか」
「まぁ……それは解るような気がするけど……」
「ぼやいてないで、さっさとマーカーってやつを作れよ」
「色々と条件があるんだよ。そもそも全員で転移して来るんだから、それなりの広さがないと拙いわけだし――」
辺りを見回したマモルは、入口から少し入った場所がそこそこ広くなっているのを確認すると、そこにマーカーを設置する事にした。
「真っ暗で何も見えないな……」
「ヤーシア、先生から貰った【暗視】を使ってる?」
「あ……忘れてた……」
カーシンほどの魔導師になると、簡単なスキルを他人に付与する事もできるらしい。実はマモルの【肖る者】にデフォルトで含まれているサブスキル【講師】でも同じような事はできるのだが、現在のマモルではレベルが足りていなかったりする。
「さて……何とか設置も終わったし、先生たちを呼ぶとしようか」




