第十五章 謎解き
「マモル! 説明してもらうぞ!」
獰猛とすら言えそうな笑みを浮かべてマモルに詰め寄っているのはユーディス姫。ここはカーシンの館である。
「説明と言われても……まだ正解なのかどうかも判らないんですから……」
〝探偵は みんな集めて さてといい〟
――などという川柳もあるが、マモルにしてみれば、まだ謎解きは終わっていないのである。自分の解釈が正しいかどうかも確かめていない以上、あやふやな仮説を話しても意味が無い。少なくとも現場へ赴いて、何かの手掛かりが残されていないかどうかを確かめてから、というのが探偵のあるべき姿であって……などという主張が通じない相手もいるのであった。
「マモルの考えが合っているかどうかなど、後で確認すればいい! それよりも、だ。今までにあの碑文から、ナワリなどという文字を拾い出した者はいないんだ。どうやってそれを引き出した!?」
胸ぐらを掴まれ締め上げられて、きりきり吐けと責められているような気がする。
「いえ……ですから、まだ決まったわけではなくてですね……今の段階で不確実な仮説を披露するのは……あぁ……はい……解りました……」
ぎらぎらと眼を底光りさせ、それこそガルル……という唸り声が聞こえてきそうな様子のユーディス姫を見て、これは駄目だと諦めるマモル。そんな様子を見て、カーシンが取りなすように説明を買って出る。
「いや、姫がああまで固執しておるのには事情があってな。ナワリというのは、フォスカ家の先祖の一人が討伐したダンジョンのある場所なのだ」
――ダンジョン!?
一転して俄然前のめりになったマモルを見て、少しばかり引き気味になるカーシン。なぜにこうまで食い付くのだ?
「ま、まぁそうだ。スタンピードなど起こしては堪らんというわけで、領内の安全のために討伐したのだが、さして有名なダンジョンでもないため、今では知っている者はほとんどいない筈だ」
「その、知られていない筈のナワリを、どうやってマモルは引き出した!?」
すっかり観念した様子のマモルが、訥々と解読作業の説明を始める。
「えぇと……姫様から戴いた絵図面をですね……」
・・・・・・・・
「……むぅ……虹の色とはな……」
「あたし、赤黄緑青の四色とばかり思ってました」「うん」
呆れたように呟いたサティとカフィであったが、今度はこれが大いに物議を醸す事になった。
「……はて? 五色ではなかったか?」
訝しげに言うカーシンに同調したのはソーマであったが……
「いや、拙者も五色と教わりました。赤黄緑青紫の五色だと」
「何? 赤橙黄緑青の五色ではなかったのか?」
「え~? あたし、赤黄紫だとばかり思ってた」
わいわいと騒ぐ一同をよそに、独り浮かない顔をしているのはなぜかユーディス姫である。
「……姫様?」
「む……? どうなされた?」
怪訝そうに心配そうに問い詰められたユーディス姫は……
「いや……子供の頃に母から聞いたお伽噺の事を思い出したのだ。今の今まですっかり忘れていたが、虹は七人の妖精が飛んだ跡なのだと……フォスカ家だけが知っているお話だから、妄りに口に出してはいけないと言われていてな……」
ポカンとした顔の一同であったが、姫の告白を聞いて、その顔は更に変化する事になる。
「……その妖精たちの名前も聞いた筈なのだが……どうにも思い出せなくてな……」
姫を見つめる一同の視線が、残念な子供を見る者のそれに変わった。
話の中に出てきた川柳は、横溝正史(1946;角川文庫1973)「蝶々殺人事件」に、推理作家S.Y氏の作として登場します。




