第十四章 カノン神殿 2.解読の試み(その2)
「お待たせ。二人に見てもらいたいものがあるんだけど――」
「解けたのか!?」
マモルの発言を遮るように食い付いたのはヤーシアであった。
「……いや、それが判んないから見てもらいたいんだけど……」
鼻息の荒いヤーシアを宥めながら、マモルは二枚の紙を差し出す。それぞれの紙には六つの文字が書いてある。碑文から読み取った六つの文字を、二種類の換字表でアルファベットに読み替えたものである。
「……何だ? これ」
「うん。その文字を並べ替えて、何か意味のある単語ができないかなって思って」
意味のある単語と言っても、恐らくは固有名詞……地名か何かの可能性が高いため、マモルの【言語学】もあまり当てにはできない。ここは現地人の二人に期待しよう。意味のある単語が出てこなかったら、最初からやり直しという事になる。
そう言い含めて二人に一枚ずつ紙を渡してみたのだが……
「あ! これってワナリって読むんじゃないか!?」
しばらくして頓狂な声を上げたのはヤーシアであった。
「ワナリ?」
「あぁ。シガラの南の……あぁっ、面倒臭い! マモル、地図出して!」
「あ、うん」
ヤーシアが地図で示してくれたのは、現在のマナガ領、かつてはサイカ領と呼ばれていた地域に接する辺りであった。ワナリ家という領主が治めている地域だという。
「う~ん……wanariかぁ。確かにワナリと読めるけど……埋蔵金の位置を示す単語としては、範囲が広過ぎないかな? それに、姫様の先祖が態々他所の領地に宝を隠すかな?」
「その頃は他人の領地じゃなかったのかもしれないぜ?」
「その可能性もあるか……」
悩んでいたところに口を出したのがソーマであった。
「口を挟んですまぬが、その文字ならnawari……ナワリとも綴れるのではないか? 確かユーディス殿を密告した村の辺りがそういう地名であったように記憶しているが……」
「あ、そっちの方がありそうですね」
「ソーマの兄ちゃん、自分の方は終わったのかよ?」
口を挟んだソーマに不機嫌そうなヤーシアであったが、
「……いや、それがどう並べてみても、地名どころか単語にすらならんのでな」
「あ~……そっちは確かに可能性が薄いですね」
「どれ……何だこれ? マモル、これって無理じゃね?」
ソーマに渡した紙に書いてあったのはg・g・h・m・rにコンマを加えた六文字。確かに、どう並べてみても意味のある単語が綴れそうにない。六文字の中に母音が一つも無い時点で絶望的である。おまけに文字の一つはコンマ。そもそも単語の中に含まれるような記号ではない。仮にコンマでなくてピリオドだとしてもそれは同じ。ヤーシアもこれには納得せざるを得なかったようだ。
「それじゃ、第一候補がナワリ、第二候補がワナリって事でいいかな?」
解読自体が間違っている可能性もあるが、とりあえずはいけそうな単語から当たってみるのが筋だろう。
「いいぜ」
「拙者も同感だが……ただ、これ以上の検討は、ここにいる者だけでは無理ではないか? ナワリなりワナリなりに、フォスカ家として何か意味があるのかどうかを確かめぬ事には、どうにもならぬだろう」
「ですよねぇ……カーシン先生に相談してみますか」
・・・・・・・・
『ナワリだと?』
「ワナリかもしれませんけど……何か思い当たる節がおありですか?」
『ふむ……マモルはアブートのカノン神殿にいるのだったな?』
「今いるのは宿屋ですけどね」
『……解った。明日の午、神殿で待っておれ。あの近くには密かに転移のマーカーを打ってある。入り組んだ話になりそうだし、儂が迎えに行くとしよう』




