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なりゆき乱世~お姫さまと埋蔵金~  作者: 唖鳴蝉
第三部 旅と謎解き 篇
48/56

第十四章 カノン神殿 1.解読の試み(その1)

「これが噂の碑文かぁ~」



 セトの町を発って一週間後、マモルたちはアブートのカノン神殿で問題の碑文を目にしていた。

 途中馬車に乗せてもらったり、ギルドでの依頼をこなしたりして、どうにか一週間でここまで辿(たど)り着いたのである。何もせずに歩き通せば一日ほど早く着いたかもしれないが、それはあまりにも味気無い。折角の旅なのだから楽しむべきだし、周りと同じペースで進まないと人目を引く。

 そんなわけで平均的なペースを守って旅を続け、ようやくにして碑文の現物を眺めているわけだが……



「……あれ?」

「ん? どうかしたのかよ? マモル」

「うん……ちょっとね」



 マモルが碑文を見て気付いたのは、そして碑文の現物を見るまで気付かなかったのは、刻字面の縦横比であった。



(これって……碑文の刻字面と絵図面の縦横比が同じじゃないのかな?)



 自分のマジックバッグから、マモルは絵図面を取り出した。

 ちなみにマジックバッグは、セトに行く途中で殲滅した盗賊の所持品――軍需物資付き――を三人で一つずつ分配してある。中身は支援物資としてユーディス姫に提供した(おしつけた)が、マジックバッグの方は――姫が欲しがったが――自分たちで使う事にしたのである。マモルが持っていたマジックバッグは性能が良過ぎて表には出しづらいし、普通のマジックバッグはマモルにとっても重宝なのであった。


 ともあれ絵図面と碑文を見較べてみると、確かに縦横比が同じように見える。そうすると絵図面に付いている六つの印は……?



「おいマモル、さっきから何やってんだよ?」

「……ヤーシア、碑文の写しを持ってるよね? 今から言う場所の文字に印を付けてくれる?」

「あ? ……まぁいいけどさ。……よし、いいぜ」

「じゃあ……四番目、それから……十三番目……」

「ちょっと待って……いいぜ」

「じゃあ次は……」



・・・・・・・・



(う~ん……)



 宿の部屋の片隅で、マモルはさっきから頭を(ひね)っていた。


 絵図面と碑文の縦横比が同じである事から、地図に擬装してあるが、絵図面は所謂(いわゆる)グリル暗号の格子窓ではないか――そう思い付いたところで、絵図面を透かして碑文を読むようにして六つの文字を拾い出す事ができた。そこまではよかったのである。

 問題なのはそこから先であった。肝心の文字――恐らくは(かえ)()式の暗号文字――を、普通の文字に復号するところで(つまづ)いたのである。



(問題は、この二十八の暗号文字をどう並べるかって事なんだよね。並べ方さえ判れば、それをアルファベット順に読んでいけばいいと思うんだけど……)



 各文字が(へん)(つくり)から成っている事を考えると、四つの(へん)、七つの(つくり)を組み合わせた表として考えるのがよさそうである。(へん)の方はカーシンが言っていたように地水火風を表すとすれば、それに対応したト・ス・ヒ・フの並びで間違い無いだろう。問題は(つくり)の方であるが……



(……やっぱり虹の七色じゃないかなぁ……丁度頭文字もそれに対応してるし……)



 (つくり)となっている七つの文字はb・g・i・o・r・v・y。

 マモルが憶えている虹の七色――(レッド)(オレンジ)(イエロー)(グリーン)(ブルー)(インディゴ)(ヴァイオレット)。こちらの世界でも綴りは概ね同じ――の頭文字に対応するとすれば、一応きちんと収まりはつく。



(単純にアルファベット順に並べたら駄目なんだろうな。虹の配色順に並べないと。ただ……波長の長い順なのか短い順なのか……虹の上から下に並べるのか、下から上に並べるのかで、二通りの可能性があるんだよね……)



 (へん)の方もそれは同じだが、こちらは慣習的に地・水・火・風の並びを使っているようだから、それをそのまま使うとしよう。しかし配色の方は、二通りを試してみるしかないだろう。



(もう一つ問題なのは……どちらを縦にどちらを横に()()めるかなんだよね……)



 (へん)(つくり)の組み合わせで表を作るにしても、どちらを縦にどちらを横に持ってくるかで、四×七と七×四の二通りの表が作られる。ただ、マモルはこちらにもある程度の目処(めど)は付けていた。



(あの碑文、横に七文字、縦に二十文字が並んでたよね。二十は四の五倍って事だから、横七文字×縦四文字が五つ繋がってると考えれば……とりあえず、横に(つくり)の七文字、縦に(へん)の四文字で表を作ってみようか)



 余った二文字分はコンマとピリオドに当てるとしても、それらをアルファベットの前に置くか後に置くかの問題はあるが、ここは素直に後置きにしておく。


 これらの手順を経て拾い出された六つの文字。色の並べ方が二通り考えられるので、とりあえずそれを考慮して二組。


 マモルはそれらを書き出すと、さっきからジリジリと待っていた二人の方に向き直った。

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