第十三章 ハジ村異変顛末 2.野菜泥棒?
「何? 野菜泥棒だと? 怪しからん。誰がそんな真似をするものか」
「そうだぞ。痩せても枯れてもこのハルス・アーヴェイ、七百五十年続いた我が家柄に賭けても、そのような無道の振る舞いに及びはせん」
(無道ねぇ……)
真っ赤になって野菜泥棒の嫌疑を否定しているのは、ソーマとは旧知の仲だという凸凹コンビ、名をハルス・アーヴェイ(のっぽの方)とサブロ(ずんぐりの方)の二人であった。二人はイーサ家に仕えていたが、マナガにイーサ家が滅ぼされてからは追っ手を避けて山に逃れ、盗賊の真似事のような事をしているそうだ。ソーマと出会ったのもその頃らしい。盗賊とはいってもマナガに与する者しか襲わないのだと嘯く二人であるが、本当のところはさてどうなのか。疑念を抱くマモルであったが……
「けどなおっちゃん、マナガの手下なんてそう頻繁には通んないだろ? それでちゃんと食ってけんのか?」
「なに、そういう時は村へ行って薪割りでもなんでもやってやれば、芋の切れっ端くらいは貰えるからな」
「山に入れば獣を狩る事もできるし、無道な真似をせずともやっていけるのだ」
……思った以上に善良な「盗賊」であったようだ。
山へ入ろうとするマモルたちを咎めたのも、山の様子が少し危なくなっているからだという。
「……ゴブリンが?」
「そうなのだ。我らがこの辺りにやって来たのは一月ほど前なのだが……」
「ゴブリンどもが現れたのは、一週間から十日ほど前の事だな」
一週間。ヤギが最初に襲われたのが丁度その頃だ。
マモルたち三人は互いに目配せを交わすが、凸凹コンビはそれにも気付かずに山の危険を訴える。
「――だから、子供たちだけで山へ入っては危ないと思ったのだ」
「ゴブリンに出くわしたら、お前たちなど頭からバリバリと喰われてしまうぞ」
「……ご厚意とご忠告はありがたいですけど、僕たちもギルドからの調査依頼を受けているもので」
「ソーマの兄ちゃんもいるし、マモルはこれでも頼りになるし、大丈夫だって」
「……これでも……って、どういう意味? ヤーシア」
「……うむ……まぁ、ソーマ殿が一緒なら心配は無いと思うが……」
「一頭や二頭ではなかったからな。くれぐれも注意して下されよ?」
「あぁ、それからそこの娘。威勢が良いのは認めるが、誰彼構わず喧嘩を売るような真似はするなよ?」
「俺たちみたいに気の好いやつばかりではないのだぞ?」
「ちぇっ……解ってるよ、そんな事は」
この辺りにはマナガの関係者もあまりやって来ないようだし、シカミ領の方まで戻ってみるという凸凹コンビと別れて、三人は山の奥へと分け入った。
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「なぁソーマの兄ちゃん、あの二人を誘わなかったのは理由があんのか?」
マナガに恨みを抱く落ち武者であれば、ユーディス姫に紹介しても良かったのではないかと言うヤーシアに、
「うむ……悪い連中ではないのだが……些か頼りにならぬ部分があってな。裏切るような真似はすまいが、形勢危うしと見れば逃げ出しかねんところがあるのだ」
「あぁ……そういう事か」
話しつつ進んでいた三人であったが、スキルで強化されたマモルの聴覚が、何者かが枝を伝って移動している音を察知した。




