第十三章 ハジ村異変顛末 1.おかしな二人
「う~ん……やっぱり山の中にいるんですかねぇ……」
「そりゃ、村の中にも周りにもいないんだし」
「他所では被害が出ておらぬと言うのだから、潜んでおるなら山中であろうな」
行商人の護衛をする形でナジオの宿場まで乗せてもらい、翌日歩いてハジ村までやって来たマモルたち。村人たちから事情聴取しての結論がこれであった。
「けど……最初のうちはコソ泥みたいだったのが、最近は結構荒っぽくなってんな。ヤギの被害も二頭目が出たっていうし」
「その一方で、ちっぽけな野菜泥棒も無くなってはいないんだよね」
どうもチグハグな感じが拭えないが、ともあれ山の中を調べてみれば何か判るだろう。そう考えてマモルたちは山へと分け入った。
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「……すまぬ……拙者にわかに催したようだ。……しばし雉撃ちに行ってくるので、マモルたちはここで待っていてくれぬか?」
不意の便意に襲われたというソーマを、マモルたち二人は呆れて見ていた。要領が悪い間が悪いとの自己申告はあったが……。
「こんなところで待ってるのも嫌だし、先へ行ってようぜ」
「だね。踏み分け径があるから迷う事は無さそうだし。ソーマさんもそれでいいですか?」
「す、すまぬ。……事を済ませたらすぐに追いつくゆえ……」
「焦って服なんか汚すなよ? 兄ちゃん」
「然様な粗相はせぬわ! ……う……」
「いいから行って下さい」
斯くの如き仕儀で子供二人が先行する事になったのだが……
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「おい、子供たち。この山はお前らみたいな子供が入っていい場所じゃない」
「そうだぞ、さっさと引き返せ」
マモルたち二人の前に怖い顔をして通せん坊をしているのは、いかにも山賊でございといった風体の二人組……ひょろりと背の高い痩せっぽちと、逞しいが背は低くずんぐりとした堅太りの二人組……端的に言えば凸凹コンビであった。ただし、凄んで見せている割りにはこちらを害する気配は見えず、どちらかと言うと子供だけで山へ入るのを心配しているような気色も見える。
ただ、中身が日本の高校生であるマモルだからそこまで気付けるのであって、まだ小学生相当のヤーシアにはそこまで気が廻らなかったようだ。売り言葉に買い言葉の諍いになって、今も堅太りに捕まったところを……
「――痛っ! このじゃじゃ馬、甘い顔をしていりゃあ!」
「へ、へーんだ、お前みたいな薄鈍に捕まってたまるかい!」
――角手で反撃して拘束を脱したところである。
(……どうしたもんかなぁ、これ? 敵意とか底意とかは感じないんだけど……)
身形からも言動からも、この辺りの住人でない事が明らかなこの二人をどう扱うべきか。睨み合っている三人の傍らで独り頭を抱えていると……
「待たせたな……何が起きているのだ?」
「ソーマの兄ちゃん! こいつらがあたしを――」
「何? ソーマ?」
「これは……ソーマ殿ではござらんか。お懐かしや」
「お主たち……一体、何がどうなっておるのだ? マモル?」
「こっちが訊きたいですよ……」
マモルたちの調査行は、のっけから妙な展開になりそうであった。




