第十一章 盗賊退治 3.破の段(その2)
「ふ~ん……あの洞窟が夜盗の隠れ家かぁ……」
「生意気に見張りなど立てているな」
「どうすんだ? 乗り込むのか?」
「まさか。向こうに出て来てもらうさ。……あの辺りが好いかな」
入院生活の徒然にと読んだ冒険小説や軍記物、果てはラノベから得た知識で、狙撃と迎撃に向いた地形の場所を見定めると、マモルは二人に指示を出す。
「ヤーシア、ここからあの見張りを斃せる?」
「はっ! マモルに貰った投石紐を使えば余裕だぜ」
片手の投石紐を揺らしながら答えたヤーシアの目には、何やら剣呑な色が浮かんでいる。女を攫って悪さをしようなんて屑どもなど、生かしておく気は無いと言いたげだ。
「だったら、僕の合図でやっつけて。中の連中が出て来たら、この岩陰から同じように狙い撃って。ソーマさんはヤーシアの護衛をお願いします。弾幕を抜けて来るのがいると思うので」
「解った。マモルはどうする?」
「僕も最初は【水鉄砲】で狙い撃ちしますよ。その後は、姿を隠して適当に。投石の射線には入らないよう気を付けるから、ヤーシアは気にせず撃ちまくって」
「解った!」
「心得た」
「それじゃ……ヤーシア」
「おらよっ!」
ヤーシアの投石で見張りの二人が相次いで沈むと、異変に気付いた夜盗たちがわらわらと外に出てくる。――が、様子を見る間もあらばこそ、間髪を入れぬヤーシアの投石で、次々と倒れ伏す事になった。
「敵襲っ!」
「畜生っ! 追っ手か!?」
「判らねぇっ! 何が何だか――ぐはっ!」
「あそこだ! あの岩陰から狙ってやがる!」
「おいっ! 弓を持って来いっ!」
弓を抱えた者が現れてヤーシアを狙おうとするが、
「――っ!」
「何だっ!?」
「どっから狙ってやが――っ!」
【隠身】で姿を隠しての【水鉄砲】に撃ち抜かれ、夜盗たちは為す術も無く斃れていく。
「畜生っ!」
鎧兜に身を固めた一人が、投石を掻い潜ってヤーシアに迫ろうとするが、
「ぐはっ!」
鎧の隙間を狙ったソーマの一刀に、血煙を上げて斃れる事になった。
「に、逃げ……っ!」
「どうしたっ!?」
「わ、判らねぇ、何かに掴まえら……れ……咬ま……」
「お、おい……ど、どうしたんだよ……?」
「し……痺れ……苦し……毒……」
「お……おぃっ!?」
マモルの持つ凶悪スキルの一つ、【毒手】。
本来は毒蛇の知識が元になって解放されたスキルであるが、咬むだけでなく手で掴む事によっても毒を打ち込む事ができるようになったのは、これも本で読んだ「毒手」の知識が影響したのだろうか。剣呑至極なスキルであるが、敵意を持って強く意識しないと発動しない安全設計なので、日常生活を送る上での支障は無い。本来は近接格闘用のスキルであろうが、【隠身】を身に付けたマモルの場合、暗殺めいた使い方も可能になっている。
「う……うわぁっっっ!」
姿の見えない敵に襲われる恐怖に耐えかねたのか、白刃を闇雲に振り回す賊徒。巻き添えを食らって仲間の夜盗が傷付くが、それに気付くゆとりも無いようだ。マモルは安全な距離を保ったまま、冷静に【水鉄砲】で喉笛を撃ち抜く。
(大体片付いたかな? ヤーシアの投石を喰らって息があるのはソーマさんが留めを刺して廻ってるみたいだし……あ、そうだ。この際だから試しておこう)
数名で固まって身を守ろうとしている集団に、カーシンから習った火魔法をぶつけてみる。
「ぐわっ!」
「火球っ! 魔術師がいるのか!?」
「畜生! どこに――ぐわっ!」
(う~ん……やっぱりまだ威力が低いな。【水鉄砲】の方がまだマシだよ)
ここまで毎日更新を続けてきましたが、8月からは週2回の更新とさせて戴きます。火曜と金曜の20時に更新の予定です。次回の更新は8月2日の20時となります。




