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なりゆき乱世~お姫さまと埋蔵金~  作者: 唖鳴蝉
第三部 旅と謎解き 篇
32/56

第十章 旅立ち 2.ソーマ

「そう言えば、ソーマのおっさんは何であたしたちに()いてきたんだ?」

「……おっさんではなくお兄さんと呼んでくれぬか? ヤーシア。……そうさな、一言で云えば、マモルに仕えると決めたからだな」

「「……はぁっ!?」」



 いきなり(とっ)(ぴょう)()もない事を言い出したソーマに、マモルとヤーシアの二人が揃って奇声を上げた。この兄ちゃんは一体何を言い出した?



「拙者はこれでも地方領主の嫡男であったのだがな、実家は他の領主に滅ぼされて、一族は離散となった。まぁユーディス殿と違って正々堂々の駆け引きの結果だから、別段遺恨など持ってはおらんが……」

「「…………」」

「生き残った者の大半は、拙者より出来の良い弟の方に()いて行った。まぁ、拙者もその方が良いとは思うしな」

「「…………」」

「何しろ、拙者はどうも人並み外れて要領だか間だかが悪いようでな。ある者に言わせると、もはや天稟(てんぴん)と言ってもいいくらいなものらしい」

「「…………」」

「カーシン殿と会ったのも、()()ぎも辻斬りも上手くいかずに、どうしたものかと考えてあぐねていた時でな。あのカフィという娘の警護を請け負ったのだ」



 ここまでくると、同情すべきか呆れるべきか――それともいっそ腹を立てるべきか、マモルにもヤーシアにも判断が付きかねた。大体、()()ぎや辻斬りが上手くいかないというのは、どういうわけだ?



「いやな、覚悟を決めて最初に出くわしたのが、盗賊どもを引っ立てて行く兵士の一隊でな。次に通りかかったのが屈強の冒険者五人組、最後に現れたのが――」

「「……現れたのが?」」

「息も絶え絶えに蹌踉(よろ)めきつつ歩いている年寄りでな。村へ戻る途中で力尽きたという事なので、仕方がないから村まで負ぶってやった」



 鐚銭(びたせん)一枚も持っていそうにない年寄りに、(すが)るような目で見られたら仕方ないだろうと力説するのだが……



「そりゃ……そうかもしれないけどさ……」

「今までずっとそういう目に遭ってきたとなると……随分と微妙な星回りに生まれたんですねぇ……」



 ……他に言いようが無い気がする。



「まぁ、その代わりにだ、拙者これでも人を見る目だけは確かでな。生まれてこの方人を見損なった事が無い」

「「へぇぇ」」

「その拙者の見るところ、マモルは人の上に立つ相がある。君主や名将、もしくは大軍師……所謂(いわゆる)英傑の素質があると見た」

「はぁっ!?」



 いきなりとんでもない話が飛び出て、目を白黒させるマモルであったが……



「あ、それ、あたしにも何となく判るな」

「で、あろう?」

「ヤーシアまで!?」



 無責任に同意するヤーシアに咎めるような視線を送ると、マモルはその任に非ざる事を力説する。いや、素質云々などどうでもいい。要は、そんな生き方は真っ平だという事だ。傍観者のままではいたくない――確かにそうは言ったが、それは危険の()直中(ただなか)に飛び込んで行くという意味では断じてない。



「――平凡平穏に好きな事をして生きるのが望みなんです。乱世で立身出世の下克上とか、そんな命を縮めるような生き方は真っ平ですから」

「いやマモル、あんたなら命を縮めるようなヘマはしないだろ? 要領良く舵を取って生きていけそうじゃん……こっちの兄さんと違ってさ」

「できるできないの話じゃないよ。そういう面倒は御免だって言ってんの!」

「けどさマモル、お前が嫌がっても、騒ぎの方で寄って来るかもしんないだろ?」

「――なんて事言うのさ!? ヤーシア!」

「いや……何となくそんな気がするぜ? ……あたしの勘だけどさ」

「うむ。それこそが英雄の相というやつだな」

「冗談じゃない!」



 ぎゃんぎゃんと喚き立てるマモルをそっちのけで、ヤーシアはソーマに問いかける。



「――で? ソーマの兄ちゃんはマモルにくっ付いてどうするつもりなんだ?」

「うむ。これでもそれなりに武芸は心得ているのでな。侍大将あたりを狙っておるのだが」

「へぇぇ……じゃあ、あたしはどうするかな?」

「む? ヤーシアは正室か側室ではないのか?」



 悪びれ無く言ったソーマの台詞(せりふ)を聞いたヤーシアは、少ししてから真っ赤になって反駁(はんばく)する。



「だっ、誰が側室だって!? あたしはそんな――」

「む? 違うのか? では、近習(きんじゅ)か側近狙いというところか?」

「……キンジュって何だよ……?」

「常に主君の傍に控える腹心の者だな。側近もまぁ同じような意味だ」

「おぉっ、それいいな。あたしはそれにする」

「ふむ。これで侍大将と側近が揃ったわけだ。あとは勘定方とかが欲しいところだな」

「ソーマの兄ちゃんには心当たりとか無いのか?」

「遺憾ながら、拙者の心当たりは大抵弟に()いて行ってしまったのでなぁ……新規に召し抱えるしかあるまいよ」

「そうかぁ……」



 主君(予定)を差し置いて、勝手に計画を立て始める家臣(予定)二人。



「……二人とも……僕を放って勝手な事を言ってるよね……」



・・・・・・・・



 英雄になるなどという不吉な予言――言霊(ことだま)というのを知らないのか――をされてぶん()くれのマモルを、何とか二人して(なだ)(すか)し、一行は山を下りて行く。



「……そう言えばさ、ソーマの兄ちゃんは、何で冒険者にならなかったんだ?」



 腕が立つならそっちの方が良いだろうと言わんばかりのヤーシアであったが、



「だから……拙者は要領が悪いと言ったろう?」

「「?」」

「冒険者の規約には、何ヶ月かに一度仕事を請け負わぬと降格という条文があったであろう。……拙者が冒険者になった場合、何かが起きて更新が上手くできず、降格される未来しか見えぬのでな……」

「「あぁ……」」



 筋金入りの要領の悪さ間の悪さというのは大変だなぁ――と、慨嘆する二人であった。

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