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なりゆき乱世~お姫さまと埋蔵金~  作者: 唖鳴蝉
第三部 旅と謎解き 篇
31/56

第十章 旅立ち 1.地図

 ユーディス姫の救出から五日後、しばしカーシンの館で静養したマモルたちは、ひとまずカーシンやユーディス姫たちに(いとま)を告げて旅立つ事にした。ヤーシアが一緒に行くのはまだわかるが、なぜかソーマも当然のような顔をして同行する事になった。まぁ、マモルにしてもヤーシアにしても、子供二人の旅というのは(いささ)か不安なものがあったので、腕の立つらしいソーマが同行してくれるのは歓迎である。カーシンたちもこれは同感であったらしく、快く三人を送り出してくれた。


 マモルたちは相談の上で、まず問題の碑文のある神殿に行く事に決めていた。マモルの指摘で碑文の解読には黄信号が灯ったものの、フォスカ家の先祖が訪れた事自体は確かなようだし、他に手掛かりとて無かったからである。

 その計画を聞いたカーシンが、神殿のある町に比較的(・・・)近い場所に転送してくれる事になったのであるが……



「……ったく、どこが近い(・・)場所なんだよ……」

比較的(・・・)って言ってただろ? 地図によれば近いのは確かみたいだし。素材の採集に来ていた場所らしいから、山の中なのは仕方がないんじゃない?」



 そう。かれら三人が送られた先は、人跡稀(じんせきまれ)……どころか人の気配も無いような山の中であった。



「マモル殿、その地図はカーシン殿より(たまわ)ったものか?」

「マモルでいいです。この先は一緒に町に出て行く事になるし、子供に敬語なんか使ってたら、目立っちゃいますよ」

「――そうか。なら、そうさせてもらおう。正直、堅苦しいのは苦手でな。代わりにマモルも敬語を使う必要は無いぞ」



 あっさりと態度を変えるソーマは、しかしそれでもこのチームのリーダーはマモルである事を疑っていないようだ。自分で二人を率いていこうとする素振りなど露ほども見せず、マモルの指示に従う構えである。



「僕のは半分癖みたいなものなので……。話を戻しますけど、この地図は確かにカーシン先生から戴いたものです。何でも古代遺物(アーティファクト)の写しだとかで、普通に出回ってる地図よりも、地形に関しては精確らしいですよ?」

「……何か引っかかる物言いだな。地形以外に関してはどうなんだよ?」

「あ……うん。そこはほら古代遺物(アーティファクト)だから、古代以降の町とかの位置は載ってないそうなんだよ。これには先生が手描きで場所を書き込んでくれてる。大体間違ってはいない筈だって言ってたけど……」



 ヤーシアとソーマの二人からすれば地図の本義が疑わしくなりそうな話であったが、元・現代日本人のマモルからすれば、人家の無い場所の地形図など珍しくもない。この世界の常識としてはマモルの方が異質なのだが、生憎(あいにく)マモルがそこに気付く事は無かった。

 異質と言えば、マモルが見ている地形図自体、この世界の標準で言えば異質な描かれ方をしていた。



「……よぉマモル、これって本当に地図なのか? 変にゴチャゴチャしてるけど……」

「あれ? ヤーシアは見た事無い? 等高線表示だよ、これ。同じ高さの地点を線で結んで示してあるんだけど……肝心の標高が載ってないね。これだと地形しか判らないじゃないか……縮尺も方位も載ってないし……随分不親切な地図だなぁ……衛星写真をそのまま等高線表示でプリントアウトしたみたいな……」



 説明の途中から不平に変わってブツブツと(つぶや)いているマモルを奇異の目で見ていた二人であるが、



「なぁ……マモルはその……ト、トコーセンってのが載ってる地図を、見た事があるのか?」



 ()()ずと問いかけるヤーシアに自分の失言を悟ったマモルであったが、



「あー……うん、故郷にいた頃、似たような地形図を見た事があるんだ」

「へぇ……?」



 マモルの主観では(・・・・・・・・)怪しまれる事無く切り抜けたのだが、如何(いかん)せんマモルは顔に出る(たち)である。日本にいた頃の入院生活で、内心の退屈や諦観を隠して明るく振る舞う技術だけは身に付けたが、今回のような不意の驚きは依然としてそのまま顔に出る。

 なのでヤーシアもソーマもマモルの説明には納得しなかったが、それでも肝心なところでは信頼できると思っているので、そのまま聞き流す事にした。



「――で、この印が、今あたしたちがいる場所か?」

「うん。カーシン先生が素材採集用に転移の目印(マーカー)を残していた場所らしいよ。ここから、こう山を下っていけば麓に出るみたいだから……やっぱりこの地図も上が北か……」



 後半はまたしても意味不明な(つぶや)きに変わったが、とにかく進むべき方向は見当が付いた。



「よしっ! じゃあ、さっさと山を下りようぜ!」

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