第一章 異世界不思議発現 1.初日
僕がこちらの世界に転移――転移なのかな?――したのが日本時間の十一月十一日。来た早々にバランティスというカマキリの化け物に出くわして詰んだかと思ったけど、なんとか逃げ延びているうちに小さな洞窟を見つけた。ここなら雨風くらいは避けられそうだと思って中に入ると……先客がいた。
――いや、正しく言えば、前の住人だったらしい白骨が僕を迎えた。
一瞬ビクッとなったけど、また外に出てあんな化け物と鉢合わせするのは御免だったから、覚悟を決めて骨に一礼すると、洞窟の中に入って行った。
入口が狭い割に中は思ったより広くて、前の住人の手作りらしい家具……の、ようなものが置かれていた。埃の具合などから見て、他に住人はいないようだったから、僕はここを使わせてもらう事にした。
そうなると先住者のご遺体をこのままにしておくのは、僕たち双方にとって宜しくない。洞窟の外にお墓を作って、そこに埋葬してあげよう。ただ……穴を掘るための道具が何も無いんだよね……。
ご遺体の持ち物を検めさせてもらったけど、少しでも使えそうなのは剣と短剣だけ。これは後で僕が使わせてもらおうと思ってるから、穴掘りなんかで傷めたくはない。仕方がないから試しに手で掘ってみたら、これが思ったより簡単に掘れた。……いや……幾ら何でも簡単過ぎない? 訝っていたら何か頭の隅にメッセージのようなものが流れた気がしたけど、確かめようがないから後回しだ。何であれ素手で穴掘りができるなら、今の状況では歓迎こそすれ厭う理由が見当たらない。ご遺体の埋葬は急いだ方が良いからね。
どうにか墓穴を掘り終えて、次はご遺体を移すんだけど……遺品一式を回収しておきたい僕としては、ご遺体からとは言え追い剥ぎみたいな真似はしたくない。祟られるかもしれないしね。そんなわけで、地球にいた頃――この言い方にももう躊躇いは無いな――に覚えた般若心経を唱えておく。いい加減にではなく真面目に真摯に、迷わず成仏して下さい、ついでに僕に祟らないで下さいと。真剣に祈りを籠めてお念仏を上げていると、またしても頭の隅に何かが流れた。
……後で確認すべき案件だな。
ご遺体を埋めた場所には、本当なら墓標とか建てるべきなんだろうけど、そのせいで隠れ家となる洞窟が目立つのは好くないような気がした。なので、大きめの石を墓石代わりに置いておく。これならあまり不自然じゃないだろう。
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ご遺体に感謝しつつ遺品を検めさせてもらったけど……身許を示すようなものは何も無かった。持ちものからするといかにも「冒険者」って感じがしたんだけど……ラノベなんかだと定番のギルドカードも持っていなかった。身許が判るのなら、遺品は遺族の方に返さなくちゃ駄目だろうかと思ってたけど、現状ではそれも無理みたいだ。ありがたく僕が使わせてもらう事にしよう。
その遺品だけど、虫喰いでボロボロになったマントと衣服、靴――これらは僕も使いようが無いので、ご遺体と一緒にお墓に埋めた。使えそうで貰っておいたものは、少し錆びかかっている剣と短剣が一振りずつ、革鎧に見えるけど虫が喰っていないので使えそうな防具――サイズは合わないけど、埋めるのも勿体無い気がしたので取っておいた。それから水筒みたいな容器――中は空――と、あとは小さな革袋が一つ。中は空っぽみたいで、逆さにして振っても何も出てこない。何となくサインペン――手帳と一緒に持ち出したやつ――で名前を書いたら、一瞬ぼうっと光ったように見えた。光はすぐ消えたけど、少し気になって中に手を突っ込んでみたら……
「……何? これ……」
確かに空だった筈なのに、僕の手の上には堅焼きビスケットみたいなものが乗っている。わけが解らなくてじっと見てたら、今度は……
《堅焼きパン:冒険者が持ち歩く標準的な携帯食料。味については褒められたものではない。製造から十年ほど経過しているが、マジックバッグに収納されていたため変質しておらず、食用可能》
マジックバッグ!……って何?
解らない事が増えたため、改めて問題の小袋を見てみると……
《マジックバッグ:収容能力は小屋一つ分ほど。一種の異空間収納であるので、重量については問題にならない。使用者固定機能付き。マモル・ユゴーを新たな使用者として登録済み》
……うん……多分【鑑定】ってやつなんだろうけど、鑑定結果が全然イミフだよ。
そろそろ暗くなってきたし、色々あって疲れてもいるので、もう寝る事にした。試しにマジックバッグの中身を確認したら、寝具代わりに使えそうなマントがあったので、それを引っ被って寝る事にした。
おやすみなさい。
次話は約一時間後に公開の予定です。