第九章 軍資金 2.埋蔵金(その1)
ユーディス姫が【収納】から取り出した――何と、姫は【収納】スキルの持ち主だったらしい――のは、古びた絵図のようなものであった。
「――! 姫様、それは!」
「言うなサティ。マモルは二度にわたって我らの危難を救ってくれたのだ。その恩に報いずして、どこにフォスカ家の矜恃がある」
「で、でも――それはフォスカ家に代々伝わった……」
「えーと……盛り上がってるところすみませんが、それは一体何なんですか?」
首を傾げたマモルの問いに、ユーディス姫は――些か得意そうに――笑って答える。これは「宝の地図」であると。
「……はい?」
「先程の話に出てきた、当家に代々伝わる絵図だよ。〝この謎を解く者は、フォスカ家が秘するところの宝を得るであろう〟……そう言い伝えられてきたのだがな、代々の当主が知恵を絞っても、手掛かりすら見出せなかった厄介物だ」
「……それを僕に下さると……?」
「厄介物ではあるが、首尾良く謎を解いた暁には、国一つ購い得るとまで言われた財宝はマモルのものだぞ?」
ユーディス姫の申し出に、ぐらりと気持ちが傾くマモル。異世界で好きなように生きると決めたマモルにとって、埋蔵金だの宝探しだの暗号だのは、涎の出そうなご馳走である。ふと見ればヤーシアも、なぜかソーマも目を輝かせているようだ。ただ……
「……ありがたく戴きたいんですけど……先祖代々伝わってきたものを頂戴するというのは、何か申し訳無く……」
「おぉ、ならば儂が複製を作ってやろう。それなら構わぬであろう?」
――となれば、マモルにしても否やは無いわけで、
「……ありがたくお受けします」
「うむ。ならば詳しい解説をしてやろう。まずこの絵図だが、実在する場所が無いのではないかと言われている」
「「「――は?」」」
いきなり図面が贋物ですと言われたのかと思ったが、事実はそう簡単なものではないようで――
「少なくとも、この大陸に存在しないのは確かだと言われている」
「あ……だから僕に?」
「それもある。しかし、我が祖先が他の大陸に行ったという記録は無いし、第一、他の大陸などに隠す理由がまず見当たらん。なので、これは地図に擬装した別の何かだろうという見方が優勢だ」
「ははぁ……」
カーシンが複製してくれたものを手に取って見ると、確かに絵地図の体裁をとっている。何より奇妙なのは、地図に印が付いている点で……
「あの……何でこんなに印が?」
「あぁ、それも謎とされている点だな」
全部で六つの点が、絵図面のあちこちに打たれているのだ。
「……こういう地図の点って、普通は宝の在処を示すもんじゃないのか?」
「本物は一つだけで、他は全部ダミーという可能性もあるけどね」
ヤーシアの疑問に答えたマモルは、複製を作ったカーシンに視線で問いかけるが、
「……いや、魔術でも調べてみたが、それぞれの印に違いは無い」
「インクの古さとか成分とかでは、区別できないって事ですね?」
「……となると、何か別の手掛かりがあるのではござらぬか?」
「あー、姫様が言ってた言い伝えってやつか?」
いつの間にかナチュラルに謎解きに参加しているヤーシアとソーマ。まぁいいか――と、済し崩しにそれを容認するマモル。何となく、今後もこの三人組で動く事になるような気がするし。
「……で、何か言い伝えのようなものはあるんですか?」
「残念ながら特には無い。ただ、いつの頃からか知らんが、アブートのカノン神殿にある碑文が関係しているのではないかと言われている。埋蔵金を残したと言われている先祖が、そこに行った事があるとかでな」
「カノン神殿? 碑文?」
またしても知らない単語が出てきて困惑するマモルであったが、他の面々には意味が通じているらしい。
「あー……あれかぁ」
「確かに……埋蔵金の謎には打って付けの場所でござるな。しかし……あの碑文はフォスカ家よりも古くからあったのでは?」
「うむ、そこがまた要を得んところでな」
「???」
一人困惑しているマモルにカーシンが説明してくれたところでは、件の神殿には組成不明の金属板があり、そこに意味不明の文字が刻まれているのだという。金属板は巨大なもので、やはり巨大な岩にしっかりと繋がっており、今もそのまま公開されているとの事であった。
「それ自体は古代文明の遺物ではなかろうかと言われておるが……何の手掛かりも残っておらん。二千年以上前から彼の地に在ったとされておるが、そこまで昔のものとは思えんほどの技術で作られておるし、組成自体も全く不明だ。しかも、刻まれておる文字もまた他に類を見ぬものでな」
〝失われた古代文明〟
これはこれで中二心をいたく擽るワードであるが、
「二千年という事は……その碑文に秘められた謎とフォスカ家の埋蔵金は、直接には関係無いという事でしょうか?」
「碑文の謎をフォスカ家の先祖が解いたという可能性はあるがな」
「う~ん……」
これはとにかくその神殿とやらに行って、碑文の現物を見なくては駄目か。そう思ったマモルであったが……




