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なりゆき乱世~お姫さまと埋蔵金~  作者: 唖鳴蝉
第二部 巻き込まれ謀略 篇
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第八章 魔術師の館 4.マモルとカーシン

「異世界からのお客人を迎えたのは、かれこれ七百年ぶりになるな」

「あ、やっぱり判りました?」



 七百年という数字に驚きはしたが、自分の正体を見破られた事自体には驚かないマモル。自分に向ける視線から、こういう事もあろうかと予想はしていたのだ。



「ふむ……他の者はどこまで知っておるのかな?」

「姫様とサティさんは、僕が『迷い人』であるという事だけ。ヤーシアは他所(よそ)の土地から流れて来たという事しか知らない筈です。ソーマさんとカフィさんには何も言ってません」

「ふむ……他の大陸から『迷い人』がやって来る事もままあるのでな。その説明で問題無いだろう」



 カーシンの話では、この世界には数百年おきに異世界からの転移者が現れるらしい。カーシン自身は会った事が無いが、三百年ほど前にも現れたという。そして、この世界にやって来た異世界人は、何かとこの世界を大きく動かす傾向があるのだとか。



「いえ、僕はそういうの、望んでませんから」

「望む望まざるに(かか)わらず巻き込まれておるようだがな。マモルもその口なのではないか?」

「う……」



 マモルとしては、ユーディス姫を逃がした後は、何食わぬ顔で町に戻るつもりでいた。それが手違いで姫と一緒に逃亡する羽目になったのだから、カーシンの言葉にも説得力がある。



「異世界よりの『迷い人』は、ほぼ例外無くユニークスキルを得ているという。そのスキルが災いして騒動に巻き込まれるのだと思うておったが……マモルの様子を見るに、必ずしもそうとは言えぬようだな?」



 カーシンの口調に好奇心は感じられるが、下心や打算といったものは感じられない。長い入院生活で医者や看護師――病状については中々本心を表さない――を相手にしていたマモルは、ある程度なら人の本心を読む事ができた。とは言え七百年などという年季の入った相手に、自分の小技ごときが通じる筈も無い。

 そう考えたマモルは、自分の事情を打ち明ける事に決めた。ただし、真名を知られると支配されるという魔法の定番を知っていた事もあって、何となく日本人としての本名だけは言わずにおいた。カーシンも特には訊こうとしなかったが。



「ふむ……聞くだに奇態なスキルよな」

「多分、本来は人の持つ技術を真似して盗み取るようなスキルなんだと思います。それが人間以外にまで拡張されたため、こんな事になったんだと……」

「まぁそうであろうが……技術の体系ではなく、単一のスキルだけ習得するというのがまた微妙だな」

「その辺はまだ確定できていません。道具を使わない技術体系を持った、そんな相手の技術を見せてもらう機会に恵まれなくて」



 マモルのスキルレベルでは、まだ道具を使うスキルを学び取る事はできない。可能性があるのは体術の類だろうが、生憎(あいにく)とシガラの町に体術の達者はいなかった――少なくとも、マモルが知り合う機会は無かった。



「ふむ……マモルよ、一つ(わし)の魔法を盗んでみんか?」

「は?」



 いきなり真顔でとんでもない事を言いだしたカーシンに、マモルも()(げん)な口調で返す。この爺様は何を言い出した?



「お主が今後どうするかは知らぬが、魔法を覚えておいて損になる事はあるまい。……そうよな、比較的習得者の多い土・水・火・風の初級魔法を見せてやろう。それで同じ魔法が使えるかどうか。また、そのまま修練していけば普通に中級魔法が使えるようになるかどうか。……魔術を究めんとする者として、興味があるのでな」



 カーシンは魔術師としての好奇心からこういう提案をしたらしいが、マモルとしても(いな)やは無い。魔法を学ぶ機会があるなら、習っておいて損は無い。万一習得できない事が判れば、それはそれで今後の指針になる。そう考えて、マモルはカーシンに初級魔法の手解きをしてもらう事にした。その結果……



「ふぅむ……一応初級の魔法は習得できたようじゃな」

「けど……見せて戴いたのに較べると、あからさまにショボいですよね?」



 習得できた魔法スキルは、何れもかなり劣化したバージョンのようであった。水魔法の【ウォーターボール】に至っては、【水鉄砲】の方が数段威力が高い有様(ありさま)である。まぁ、これには【水鉄砲】が攻撃特化という事も関係しているのかもしれないが。



「今後修練を積んだ場合に、中級魔法に進化するかどうかが問題じゃな」

「進化しない可能性もあると?」

「まぁ……色々と規格外のスキルのようだからな。普通の進み方をするのかどうか、全く予想が付かん。そういう可能性もあると考えておいた方が無難だろう」

「なるほど……」

「ただし、お主が自分で工夫して身に付けた技術はその限りではあるまい。マモルの故郷では色々と魔術によらぬ技術が発達しておったと言うではないか。それらを敢えて魔法で再現するよう、工夫してみるのも面白かろう」

「……お(こころ)(づか)い、ありがとうございます」



 その後はカーシンからこの世界の状況や魔法についての講義を受けたり、逆にマモルが現代地球の技術について解説したりで、二人して夜更けまで話し込む事になった。魔法、魔獣、ダンジョン、古代遺物(アーティファクト)……ラノベなどでは知っていても、この世界の実際の(・・・)知識としては知らない事ばかりであった。例えば……



「え? 古代遺物(アーティファクト)って……?」

「うむ。マモルが思っているほど万能なものではないな。使い方が判らずに持て余す事も多いのだ」



 ――などは予想しなかった現実(・・)である。……少なくともラノベなどには出てこなかった。


 マモルとしても自分の事情を打ち明けた上で相談に乗ってもらえる相手というのはありがたいもので、久々に胸のつかえが下りたような思いであった。

 また、マモルがマジックバッグを拾った事を話すと、カーシンがその容量を拡張してくれるなど、色々と恩恵も被った。



 ……この二人が完全に失念している事があった。


 カーシンはユーディス姫奪還の際に広域の闇魔法を使用しており、マモルもそれを目の当たりにしていたという事である。


 マモルが【(あやか)る者】のプルダウンメニューを開けば、そこには土・水・火・風の四魔法に混じって、ひっそりと「闇魔法」の文字が並んでいたのだが……マモルとカーシンがそれに気付くのは、もう少し後になってからの事になる。

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