プロローグ 2.異世界?
霧の中を随分歩いた気がしたけど……ここは一体どこなんだろう。
少なくとも、僕が入院していた病院の中庭じゃないみたいだ。霧が晴れたのに、病院どころか建物が一軒も見当たらないし……僕が今立っているのは、草に覆われたなだらかな斜面で、後ろには森が迫っている。
「……どう考えても市内じゃないよな。日本かどうかも怪しいし……」
そう呟いた声が自分のものとは思えなくて、一瞬怯む。妙にかん高いと言うか……ボーイソプラノみたいだったんだけど……
「……パジャマの袖丈もズボンの裾も、何だか長くなってるみたいだけど……」
確かめようにも鏡なんか持ってない。とりあえず動き易いように、袖と裾はたくし上げておいた。
「そう言えば……霧の中を歩いている時に……何か聞こえたような気がしたな……」
聞こえたというか……頭の中に直接響くような感じだったな。確か……〝――を解消〟とか〝補償ポイント〟とか言ってたような気がするけど……。
いや……その前にも、誰かが何か言ってなかったか……?
相変わらず僕の声はかん高く聞こえる。何か慣れないな……。
見渡した範囲には人家も無いようだし……こんな原っぱじゃ雨も風も避けられないし……覚悟を決めて森の中に入ってみるか。
・・・・・・・・
間違い無い。ここは異世界ってやつだ。少なくとも日本では……いや、地球ではない。絶対に。
――地球には、熊ほどの大きさのカマキリなんていない。
(来るなよ……来るなよ……どうか見つかりませんように……神様……)
一心不乱の祈りが通じたのか、カマキリの化け物はこちらへ向かう歩みを止めて、何か当惑したみたいに周りを見回している。……何かを見失ったみたいな感じだけど……この場合、僕を見失ったって事なのかな?
僕に気付かないみたいなので、少し落ち着いてカマキリを観察していると、突然目の前……と言うか、頭の中に、文字のようなものが浮かんできた。
《バランティス:捕食性の巨大昆虫。前胸は細長く伸展して自由に動き、前肢は折り畳み式の鎌のような捕獲肢に変化している。頸も細くなっており、頭部を自由に動かす事ができる。視覚に頼って狩りを行なう》
……うん、もう一々驚いてなんかいられない。ラノベで読んだよ、こんな展開。
間違い無い。ここは異世界だ。僕は異世界に転移したんだ。……見た事も聞いた事も無い世界に。神様が僕の願いを聞いて下さったんだろうか。
……けど、神様。これって少しハード過ぎません?
本日はあと三話公開します。次話公開は一時間後の予定です。