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なりゆき乱世~お姫さまと埋蔵金~  作者: 唖鳴蝉
第一部 新天地と新生活 篇
17/56

第六章 角手 1.試作

〝チビッ子のうちは隙を()いて逃げる事を考えるべきだ〟



 冒険者登録の時にドルフから言われたこの言葉は、その後もずっとマモルの頭にこびり付いていた。日本で入院生活の長かったマモルは、自分の運動能力には欠片(かけら)ほどの自信も幻想も抱いていない。ドルフの言葉に(もろ)()を挙げて賛同したのである。


 そうなると、問題はいかに効率良く〝隙を()く〟事ができるかにある。虚を()く事に失敗すれば相手の怒りを買うのは(ひつ)(じょう)。それはそのまま我が身に降りかかってくるのだ。



(かん)(しゃく)(だま)とかは効果高そうだけど、肝心の火薬の作り方を知らないしなぁ……非力な子供でも何とかできるとなると……やっぱり(かく)()かなぁ……)



 (かく)()とは所謂(いわゆる)忍者の武器で、刺の付いた指輪のようなものである。刺を拳の外側に出して殴るための道具……に見えなくもないが、実際の使い方はその逆で、指の腹側に刺がくるように()めた手で相手の手首を掴んだり、あるいはビンタを喰らわせるようにして使う。一見しただけでは武器を持っているように見えないため、不意を()く効果は高い。その分威力はお察しなのであるが、子供が隙を()いて逃げるために使うのなら、そこまでの威力は考えなくていい。



(……うん、構造も単純だし、頼んで作ってもらっても、そんなに高くはならないだろ)



 こういった判断の(もと)に、マモルは(かく)()の製作を依頼する事にしたのである。



・・・・・・・・



「よぉ、マモルじゃねぇか。今日は何かのお使いかい?」

「あ、いえ。今日は僕個人の用事です。作ってもらいたいものがあって」



 本日マモルが訪れたのは、鍛冶屋兼鋳物師(いもじ)鋳掛(いか)け屋……要するに、金属加工関連の何でも屋のような事をしているエーモンという男の工房であった。彼もシャムロの部下のようなものらしいが、膝を痛めて以来荒事からは手を引いたと言っている。(もっと)もドルフなどに言わせると、膝を痛める前のエーモンは、普段はともかく暴れる時には手に負えないくらい暴れたらしい。しかし現在では気の好い何でも屋の職人であり、住人からも便利重宝に頼られている。



「うん? 作ってほしいもの? ペン立てか何かか?」

「いえ……こういうものなんですが」



 そう言ってマモルが差し出した設計図を見て、



「何だ? ……こりゃ鉄拳か? これを()めて人をぶん殴ろうってのか?」



 感心しないという目付きのエーモンであったが、



「あ、いえ、逆です。ここが指の腹に来るように()めて、捕まった時に相手の腕とかを掴んでやると……」

「……ほぉ……相手は痛みに一瞬驚いて、掴んでいる手を放すって寸法か……」

「放さなくても握りが(ゆる)めば、振り(ほど)いて逃げる事はできるかなぁ、と」



 う~んと感心したエーモンは、(かく)()の試作を了承した。



・・・・・・・・



 マモルから試作の依頼を受けてから三日後、エーモンはシャムロの家を訪れていた。



「……それで、こいつがその試作品ってやつか?」

「へぇ。マモル坊の言う事じゃ『(かく)()』っていうらしいんですが、試しにあっしが使ってみた感じでも、不意を()くにゃあ充分使えそうで。……(かかあ)にゃぶん殴られましたが……」



 シャムロはちらりとエーモンの顔の(あざ)に目を()ったが、この話題には深入りしない事に決めたらしい。



「……刺が外向きになるように()めて、殴る事はできるのか?」

「そっちは上手くありやせん。殴った拍子に輪っかが回って、刺の位置がズレちまう事があるんで。指一本に()めるようになってるせいですかね」

「ふん……完全に不意打ち特化か」

「組み討ちなんかの時ゃ、腕を取るだけでも痛めつけられそうですがね」

「……チビッ子どもが人買いに(さら)われたりしねぇように、持たせておくってのはありかもな」

「へぇ。あっしもそれを考えたんで」

「安くあがりそうなのか?」

(だんびら)と打ち合うわけでもねぇし、鋳物で充分でやすからね。何なら木を削っただけでも作れそうですし。案外チビッ子にゃあ、そっちの方が軽くて使い易いかもしれやせん」



 シャムロはしばらく考え込んでいたが、やがて顔を上げると、



「この件はカマルにも相談してみる。チビッ子どもの安全確保と言ってやれば、あいつの事だ、乗ってくるだろう。……マモルにはいつ渡すんだ?」

「へぇ。坊にゃ明後日渡すようにしています」

「よし。その時は俺も立ち会う事にする。そのままマモルを冒険者ギルドまで引っ張って行こう。お前にも同道してもらうぞ?」

「へぇ、承知しやした」

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