第四章 冒険者ギルド 1.新人登録
翌日、マモルは神官カマルに連れられて冒険者ギルドを訪れていた。
「見習いの登録ですか? 神官様」
「そう。少々わけありの子供でね」
「……解りました。ギルドとしては、神官様がこの子の為人を保証して下さる以上、余計な詮索はいたしませんので」
「助かるよ」
「それでは……僕? この玉に手を当ててくれる?」
にこやかに微笑んだ女性職員は、完全にマモルを子供扱いして、手取り足取りという感じで登録の仕方を教えてくれた。が……やがて魔道具に浮かび上がったらしいマモルのステータスを見たのだろう、僅かに表情を動かした。
「……少し遠くから流れて来た子のようでね。多少変わっているところがあるかもしれないが、宜しく」
「……承知致しました」
「あぁそれから、これでもこの子は読み書き計算ができる……と言うか、大人顔負けに達者だ」
「……そうなんですか?」
「あぁ。正直言って、なぜスキルとして表示されないのか疑問なくらいなんだが……この子に言わせると、これくらい自慢できるものではないそうだ」
昨日のうちに簡単な読み書き計算の能力を確かめたカマルが太鼓判を押す。
「なので、当分はうちの教会で事務仕事をお願いする事になる。その手続きも宜しく頼むよ」
この発言を聞いて、女性職員は少しばかり顔色を変える。一部とは言え教会の仕事を任されるほどの事務能力なら、冒険者ギルドとしても見逃すわけにはいかない。推し並べて冒険者とは荒事上等の脳筋ばかり。頭を使う仕事の担い手は、慢性的に不足しているのだ。
「……少々お待ち下さい」
その後、ギルドマスターの前でも読み書き計算の能力を披露させられ、新たに週三日ほどの契約――昼食休憩込みで一日六時間。契約は毎週明けに更新。ちなみに教会と同条件――で冒険者ギルドでの勤務が決まったのであった。
・・・・・・・・
見習い冒険者への登録――と就職――は何の問題も無く済ませたが、こっちの世界の常識を知らないマモルが何の騒ぎも起こさずにいられる筈もなく……
「なっ! バランティスの素材だとぉっ!?」
「坊主っ! こんなものをどこで手に入れやがった!?」
ギルドで素材の買い取りをやっていると聞いて、それならばと始末に困っているものを提出したのが悪かった。グロテスクで凶悪な外見に似ず、蟹に似た風味で美味であったバランティス。その鎌と甲殻、翅が余っており、【鑑定】によれば素材として使われるとの事であったので、ついうっかりと取り出してしまったのである。
ちなみにマジックバッグについては、隠すと色々不便であるという事で、容量を誤魔化して使う事に落ち着いている。この国では珍しいほどの教育を受けている事を明かす以上、所持品もそれなりでないとおかしいだろうという、シャムロとカマルの判断によるものだ。冒険者ギルドと教会で働いているという事を知らしめておけば、妙な振る舞いに出る者はいないだろう。そういう気安さからバランティスの素材を取り出したのだが……これが失敗だったようだ。
「おぃ坊主、バランティスなんて化け物の素材、一体どっから手に入れた?」
「C級パーティだって討伐に難儀するような魔物だぞ?」
【隠身】で姿を隠して不意を衝けば、さして苦労せずに斃せていたため、攻略難度を見誤ったようだ。
「い、いえ、狩ったわけじゃありません。偶々新鮮な屍体を見つけてですね……」
腐食動物よろしく屍体を漁っただけだと弁解し、半信半疑の視線を浴びながらも――他に説得力のある説明が無かった事もあって――何とか職員たちの説得に成功したのであった。