第三章 シガラ 4.教会の神官(その2)
「まぁ、そこは〝わけあり〟という事で何とかなるだろう」
「そうだね。深く事情を詮索しないのが、冒険者のマナーというやつだから」
案外何とかなるものらしい。問題なのは次の箇所であった。
「【鑑定】持ちなのか……」
「それもレベル2……子供にしては高いね」
「あの……何か拙かったでしょうか?」
確か【鑑定】はそこそこ保有者も多いスキルだった筈。これについては明かしておいた方が、仕事の幅が広がるだろうと踏んでの事だったが……
「拙いと言うか……【鑑定】スキルは引っ張りだこだからな。仕事を受ける上では好都合なんだが……子供のうちは逆に面倒だ」
「皆、【鑑定】持ちを取り込もうと狙ってるからね」
「子供ならどうにでもなるだろうと騙しにかかったり……最悪奴隷化される危険もあるからな」
思いがけない落とし穴に、うわぁと顔が引き攣るマモル。
「……これについちゃギルドに釘を刺しておく必要があるな。カマル、頼めるか?」
「解った。マモル君も、くれぐれもこの件については口に出さないようにね?」
「身の安全を願うなら、そうしておくんだな」
「わ……解りました……」
しかし、セールスポイントと思っていた【鑑定】が使えないとなると、何の仕事をすればいいだろう?
「そりゃ、子供でもできる雑用は色々とあるからな」
「それとも、君の故郷ではできて当たり前だけど、こちらではそうでない技術とか、何か心当たりはあるかい?」
「え、え~と……そう言われても……あ、読み書き計算とかは……?」
恐る恐るという感じで口に出したマモルであったが、大人二人の食い付きぶりは見物だった。
「何だ!? マモルは字が書けるのか?」
「え、えぇ……あまり上手くはありませんけど……」
「こっちの国の文字も大丈夫かい?」
「た……多分……同じようなものじゃないかと……」
「迷い人」という設定にしておきながら、会話や文字に不自由しないという矛盾に気付かなかったマモルはしどろもどろであったが、なぜか二人の方はそれを不思議とも何とも思っていないようだった。
「よし、何か書いてみろ」
「ペンと紙はこれを使って」
「え、えぇ?」
いきなり何か書いてみろと言われても、はてさて何を書けばいいのやら。「平家物語」や「方丈記」の冒頭を書いても通じないだろうし……思案に余ったマモルであったが、偶々頭に浮かんできた「マザー・グース」の一節を書く事でどうにか切り抜けた。
「おぉ……思った以上に綺麗な字じゃないか……」
「そうだね……これなら教会でお願いしたいくらいだ」
「冒険者ギルドでも書類仕事を任せたいと言ってくるかもな」
「これで仕事は決まったようなものだね」
「え? え? え?」
実はマモルの……と言うか、遊行寺護の亡き母は、青蓮院流の書家であった。そのためにマモルも子供の頃から字の稽古はさせられていたのであるが……今回それが功を奏した形である。ちなみに、スキルとしての解放がなされていないのは、習字が道具を使うスキルであるかららしい。
ともあれ、マモルはシガラの町での仕事を得る事ができたようだ。