プロローグ 1.日本
新作です。拙作にしては短めですので、最後までお付き合い戴ければ幸いです。
子供の頃は探検家になりたかった。アマゾンの密林やアフリカのサバンナで、珍しい動物を観察したり捕まえたり。
とある冒険活劇のDVDを観てからは、考古学者にも憧れた。本当の考古学者はあんな事はしないと知ったのは、ずっと後になってからだ。
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「じゃあな、護、また来るからな」
「うん。ありがとう、叔父さん」
「病気なんかに負けてないで、さっさと退院するんだぞ」
「うん」
「じゃあな」
いつもと同じ挨拶をして、叔父さんが帰って行った。
叔父さんはああ言ってくれるけど、僕は成人式を迎える事はできないだろう。
小さい頃からの白血病に加えて、数年前に発病した自己免疫性の多臓器不全。今は薬で抑えてるけど、もうじき薬も効かなくなる。……看護婦さんたちがそう話しているのを聞いた。
子供の頃は、まだ行った事の無い国に行きたかった。
父さんと母さんと一緒に、見た事の無い生き物と触れ合って、食べた事の無いものを食べて、遺跡を巡って宝を探して……。
もう、父さんも母さんもいない。僕を見舞いに来た帰りに、居眠り運転のトラックが……
それ以来、叔父さんと叔母さんが僕の後見人になってくれている。
僕の世界はこの病室だけ。人生は僕の目の前を流れて行く。僕は最後まで、ただ傍観者であり続けるだけ。人生に参加する事は許されない。
もしも人生をやり直す事ができたら……
〝――やり直せるとしたら、どんな人生を望む?〟
どこかでそういう声がした。
……もしも人生をやり直せるのなら、傍観者にだけはなりたくない。楽しくても、苦しくても、とにかく人生に参加したい。たとえ見知らぬ世界に行く事になっても、たとえ戦乱の中に身を置く事になっても……
〝――丁度好かった〟
誰かの声がした気がして、ふと窓の外を見ると、いつもと違う景色が目に入った。
「……すごい霧だな。こんなの、初めて見た……」
ずっと入院していても、いつもと違う景色に出会えたのが何か嬉しくて、いつもと違う事をしてみたくて、僕は病室を抜け出した。
いつもの習慣でスマホや手帳をついポケットに突っ込んだけど……まぁ、邪魔にはならないだろう。
「ふわぁ……全然見えないや……まるで、違う世界に紛れ込んだみたいだ……」
何だか楽しくなって、僕はそのまま霧の中を歩いて行った……
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《二〇XX年一一月二一日付 海陽新聞 地方面
十日前、市民病院から姿を消した遊行寺護君(十六)の行方はいまだ不明のまま。当局は身代金目当ての誘拐の可能性を考えて非公開で捜査を行なっていたが、いまだに何の連絡も無い事から公開捜査に踏み切った。護君は自己免疫性の多臓器不全に罹っており、投薬が遅れると生命の危険がある事から、当局は広く情報を求めている……》
プロローグ二話分を同時公開しております。