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カワラナイ朝  作者: 白空
18/25

第18話 少年と過去 3

 「はーい席についてー。授業を始めるぞー」

 「「はーい」」


 担任の田島先生が一声かけるだけで、あれだけ騒がしかった教室が一斉に静かになる。教室の後ろで遊んでいた俺と圭も渋々と席に着く。


 俺、北見龍太は神谷圭と小学生のころから仲が良かった。別に家が近かったわけでも席が近かったわけでもなかったけど、自然と俺のほうからあいつに話しかけていた。何かと不器用だが真面目な圭は話してみると意外にも馬が合うタイプだったようで一緒に行動することが多かった。


 そのままの流れで俺たちは小学校六年間を共に過ごし、同じ中学校に入学した。中学に入って小学校の時よりも格段に人数が増えたが、運良く俺と圭は一緒のクラスになることができた。


 中学に入ってからも俺たちは小学校の時と変わらず一緒に行動していた。とはいっても俺はサッカー部、圭は陸上部だったから会う時間はどうしたって短くなっていたが。


 「――今日の授業はここまで。分からないところが会ったら先生のとこまで来るように」

 「先生ー。ここわかんないから教えてよー」

 「私もー」


 休み時間に入るなり大勢の女子生徒が田島先生のもとに集まっていた。田島先生は俺たちが二年生になった時のクラスの担任だった。先生は若いにもかかわらずその優秀さを認められて担任を任されていたらしい。イケメンで人当たりもよかったこともあってクラスの女子はこぞって先生の虜になっていた。もはや崇拝しているといっても過言ではなかった。


 だからだろうか、教室に一人ぽつんと残っている女子生徒がひどく気にかかった。確か名前は、片桐さん、だったはずだ。彼女は静かに本を読んでいる。時折、先生をちらっと見ては興味をなくしたかのように読書に戻る。あのイケメン教師にあまり興味を持たない珍しい生徒だった。


 片桐さんはおとなしい生徒だった。今みたいに基本的には席に座って本を読んでることがほとんどで、クラスの子たちと一緒に行動しているのをあまり見たことがない。いじめ、というよりは自然にいないものとして扱われているようにも感じる。


 まあ俺も積極的にかかわろうとは思わなかったからあまり気にしなかった。そのまま圭のほうに向き合って話しかける。


 「先生人気だな、圭はいいのか?行かなくて」

 「んー、今聞きたいこともないし、どうせ部活で会えるから」


 俺は直接かかわりがないから詳しくは知らないが、先生は陸上部の顧問を務めていて、全国出場経験もあるらしい。そのうえ今どきには珍しく生徒に熱く語りかけてくれるタイプの人だ。それもあって圭はえらく先生のことを気にいっている。


 「ほんと、圭は先生のこと好きだよなー」

 「好きとかじゃねーよ、ただ尊敬はしてる」


 そういう圭はなんだかうれしそうだ。本当に先生のことを尊敬しているのが傍目からにもわかる。


 「ちゃんと宿題はやっとけよー」


 そう言って田島先生は教室を出ていく。女子生徒たちは名残惜しそうにしていたが渋々教室に戻ってきた。


 ☆


 「これでHRを終わります。みんな、気をつけて帰れよ」

 「「はーい」」


 先生の声にみんなが元気よく返事をする。放課後にもなるとみんなそれぞれの部活があるのか、教室を急いで出る人が多い。それでも何人かは教室内に残っているようだ。


 「俺は部活に行ってくるけど、圭はどうする?」

 「俺も部活に行ってくるよ。終わったら連絡してくれ」

 「わかった」


 そう言って俺は荷物をまとめて教室を出ていく。



 部活に加え、日課のシュート練習も終えたところでようやく俺はボールを片付け始める。友達や顧問の先生に挨拶をしてから俺も帰る準備をする。


 すべて帰る準備が整ってから俺は圭に一言『終わった』とメッセージを送信した。俺たちはいつもお互いの部活が終わってから連絡を取り合って一緒に下校している。小学校時代の習慣が中学でもそのまま習慣づいていた。


 だが、その日は少し変だった。圭は陸上部だが、本来この時間には練習が終わっているはずだし、余分に自主練もやったぐらいだから待たせて申し訳ないなとさえ思った。だが一向に返信が返ってこない。

 

 「あいつ、もしかして携帯を持ってきてないのか?」


 確かにそれだったら連絡を返せなくても仕方がない。少々面倒だが陸上部の部室まで行くしかないだろう。俺は頭を掻きながら渋々と目的地まで向かった。



 「おーい、圭ー、いるかー?」


 俺は部室の扉に手をかけながらそう声をかける。この時間だと大体陸上部も部活が終わって部室にいるはずだ。

 

 だが、数秒待ったが中から返事がない。他部活の部室というのは不可侵の領域のように思えて躊躇ったが、返事すらないのを不思議に思って引き戸を引いて中に入ると圭はおろか、他の陸上部員や顧問の田島先生の姿さえも見当たらなかった。


 「今日は部活が休みだったのか?でも圭は今日部活に行くって言ってたしなあ」


 そう思いながら近くの机に目をやると何か見たことのあるものがそこには置いてあった。


 「圭のスマホ……?」


 そこには圭がよく触っている赤色のカバーが特徴的なスマホが置いてあった。


 「帰ったわけではないのか、でもなんでこんなところに……。それに誰もいないし」


 何か嫌な予感がした。圭は普段こんなにおっちょこちょいなやつじゃない。ものを忘れたり、俺との約束をすっぽかすことなんてなかった。ただ、決まって予想のつかない行動に出る時があった。それは……


 「何かトラブルがあったのか……?」


 圭は昔から人一倍正義感が強く、困っている人を見過ごせないたちだった。いじめられている子がいればそいつのとこまで行っていじめっ子を成敗しに行く。おかげでいつも俺は仲裁に必死だった。だから今回もおそらくどこかで何かに巻き込まれて、誰かを助けているのかもしれない。


 ただ、俺とてすべて円満に解決できるわけじゃない。数えきれないほど起こしてきたトラブルのいくつかは完全に和解とまではいかずこじれたままの関係になってしまったこともあった。今回もそのパターンなら非常にまずい。何せ中学のいざこざは小学校のそれとは非にならないほど残酷で悪質なものであることを知っていたからだ。


 「早くいかなきゃ……」

 

 俺ははやる気持ちを抑えながら部室を出る。あいつが今どこにいるかはわからないが、一刻も早く見つけ出さないと。

 

 今まで感じたことのない嫌な感覚が全身を駆け巡る。体の芯が急速に冷えてくる。俺は夕暮れの校内をあてどなく走り回った。



みてくれる人が増えてうれしいです。もうすぐクライマックスです。

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