表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
カワラナイ朝  作者: 白空
12/25

第12話 少女と親友

 「ほーん。へえ。なるほど。ふーん」


 ……やけに感嘆詞が多いのが少々イラっとした。龍太が無遠慮にじろじろと俺と白石を交互に見るのを後目にコーラをちびちびと飲む。


 ☆


 場所はかわって某チェーン店。中学や高校の頃に龍太と一緒にお世話になっていた場所だ。そして前回白石と一緒に訪れた場所でもある。


 図書館で龍太と遭遇した時、大声こそあげなかったものの龍太はしきりに俺に質問をしてきた。やれどういう関係だの、なにしてたんだの、途切れる間もなく質問攻めをしてきた。とうとう俺が根負けして、図書館じゃ他の人の迷惑になるからと言ってこの店に連れてきた次第だ。


 ちなみにその時白石は俺が引くぐらいめんどくさそうな顔をしていた。まあ知り合いの知り合いと会うなんて誰だっていやだわな。俺ですらもう疲れてるし。


 店に着くなり龍太が手早くドリンクバーを三つ注文し各々が好きな飲み物をグラスに注いでテーブルについてから、龍太は眼だけで俺に説明をするように促してきた。俺はかいつまんで龍太に事情を説明した。


 白石には勉強を教えてもらっていて、今日も夏休み課題の手伝いを龍太の代役として引き受けてもらっていたこと。有体に言えば家庭教師を引き受けてもらっていたこと。その他諸々、大まかに伝えた。


 その間白石は我関せずといった体でしれっと紅茶を飲んでいた。おのれ……。まあ白石は何も悪いことはしていないし、元はといえば昨日の時点で俺が悪い予感を察知して対策を打たなかったのが原因だ。白石のせいにするというのはお門違いだろう。


 目をらんらんと輝かせて俺の話に聞き入っていた龍太は一度気を落ち着かせるためか、メロンソーダの入ったグラスで唇を湿らせてから口を開いた。


 「色々言いたいことはあるけれど……、まずはこれだな。初めまして、白石さん。俺の名前は北見龍太。圭の親友をやらせてもらってます」

 「悪友の間違いだろ」


 即座に突っ込む。だが龍太は気にせず話を進めた。こいつは昔からこういうやつなんだ。


 「圭がいつもお世話になってます。こんなやつですが割と真面目なんです」

 「ええ、こちらこそいつもお世話になってます。事あるごとにうろちょろされてとても騒がしくて楽しい毎日を過ごさせていただいてます」


 ……こいつらは一体何なんだろうか。俺に親でも殺されたのだろうか。信じられないものを見るような目で二人を見ていると、さすがに居心地が悪くなったのか軽く咳払いをしていた。


 「冗談は置いておいて、白石さんは圭とどういった関係で?」

 「さっき俺が話したんだが」

 「こういうのは本人の口からきかないとね」


 龍太なりの考えがあるのだろう。俺は黙って白石が喋りだすのを待った。彼女は数秒間口元に手を当てながら半ば独り言のようにつぶやいた。


 「非常に認めたくはありませんが、世間一般で言うところの『友人』、なのかもしれませんね」


 ぽかんとした。今までの白石の行動を鑑みるに俺と白石の関係はよく言えば『知り合い』、悪く言えば『犬猿の仲』なはずだ。まあ彼女に対して悪いことをしたかといえば心当たりはないのだが。勉強を手伝ってもらったことは深く感謝しているよ?もちろん。


 だが彼女から見た俺のポジションはどうやら『友達』に該当するらしい。それ自体をどう受け止めればいいかわからず、俺は彼女をまじまじと見つめてしまった。彼女は気恥ずかしくなったのかほんのり頬を赤く染めながら、グラスを持って席を立った。飲み物の追加を取りに行くようだ。


 白石が席を外すタイミングを見計らっていたのか、龍太はにやにやした顔をしてこちらを見ていた。


 「だってよ、えらく気に入られてんだな」

 「どこがだよ」

 「お前も知っているだろうけど、彼女は学校では全くと言っていいほど誰ともかかわりを持たないんだぞ?そんな彼女がお前のことを『友人』と認めるのは相当だぞ」

 「……まあ確かに」


 正直彼女の口からそんな言葉が出てくること自体あり得ないのだ。思い返してみれば第一印象はお互い最悪。なぜかはわかってはいないが最初から彼女は俺を気に食わないやつとして認識していたはず。言葉の端々にも顕著に表れていた。それがどういうわけか友人認定。さっぱりわからない。


 そんなことを考えているとちょうど白石がグラスを持って戻ってきた。先ほどとは打って変わってすました顔で席に着く。追加でとってきた紅茶に口をつけながら滔々と話し始めた。


 「勘違いしないでください。あくまで世間の枠組みに押し込めた際の私と貴方の関係を表すのに適切な言葉が他に見当たらなかっただけです。私個人としては貴方と友人関係にあるなんて死んでも認めたくありません」


 ああ、いつもの白石だ。これまでかというほど俺を罵倒するその姿は生き生きしているように見えた。そのことに少しばかり安堵して、俺も軽口を返す。


 「俺もお前と友人なんて御免だよ」

 「ストーカー風情が何を言ってるのかしら?」

 「まだそれ引っ張るのかよ」


 白石が口元を押さえて笑っている。つられて俺も笑みがこぼれる。それを見ていた龍太は若干あきれた様子をしていたが、不意に思い出したように白石に問いかけた。


 「それで白石さんに一つ聞きたいことがあるんだが……」

 「……?はい、なんですか?」

 「その、なんていうか……」


 珍しく龍太が言い淀んでいる。しばし逡巡した後、龍太はおもむろに口を開いてこう言った。



 「白石さんってどこかで俺たちと会ってる?」


 

 それを聞いた白石は以前俺が最初に声をかけた以上にびくっと肩を震わせた。


 「どういうことだ?お前が会ったことがあるだけならまだしも、俺たちって」

 「うーん、最初に転入してきた時からずっと感じてたんだよな、なんだか初対面な気がしないって。俺と圭って、基本セットじゃん?だからどっかで顔合わせたことあるかなーって」

 「ハンバーガーのセットみたいに言うな」


 そう軽口を交えてみたが、龍太の話はいまいち要領を得なかった。あまりにふわふわしているせいで俺まで記憶のもやに引っかかってしまった。俺と白石は会ったことがあるのか……?いや、俺の生きてきた人生の中で白石琴音なる人物に会った記憶はなかった。


 「……人違い、ではないでしょうか。私は貴方がたと会うのは初めてです」


 うんうん唸っていると不意に白石がそう言った。だがそういう彼女は苦虫を噛み潰したような表情をしていた。なぜ彼女がそういう顔をしたのか俺にはさっぱりわからなかった。


 「まあ俺の思い違いかもな。すまない白石さん、変なこと聞いて」

 「……いえ。お気になさらず」


 白石はそれっきり黙ってしまう。さすがの龍太も空気が若干悪くなったのを感じ取ったのか当たり障りのない話題を振る。それに適当に相槌を打っている最中も、俺は龍太の言葉がぐるぐると頭から離れなかった。

 

 ☆

 

 そろそろいい時間になってきたところで、俺たちは店を出た。俺たちと別れる前まで終始浮かない顔をしていた白石だったが、別れの挨拶をすると少しだけ微笑んで俺たちに背中を向けた。俺と龍太はそれとは反対方向にめがけて歩き出した。


 「しかし驚いたよ。圭が白石さんと交流があったなんて」

 「そんなに驚くことか?」

 「……あの事件以来、圭はどこか人を避けてたからね」

 「……」


 確かに龍太の言う通り、俺はあの時以来無意識に、いや、意識的に人と接することを避けてたかもしれない。


 「俺はうれしいのですよ。お前に友達ができるなんて」

 「お前は俺の母さんかよ。あと友達じゃない」

 「素直じゃないなあ」


 以前白石に向けてつぶやいた言葉がそのまま返ってきた。俺は何とも言えない気持ちのまま、それでも久しぶりに龍太と一緒に下校できたことをうれしく思いながら自宅についた。

よろしければ高評価お願いします

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ