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カワラナイ朝  作者: 白空
11/25

第11話 少女の危機

 『明日一緒に遊ばね?』


 夏休みも半分が終わりかけであろうある日の夜、部屋でダラダラゲームしていると俺のスマホに入っているトークアプリに一通のメッセージが来た。連絡主はもちろん龍太だ。他にIDを知っている友達もいない。そういえば白石もこのアプリを入れてるんだろうか。よくよく考えれば白石とは口頭で約束を交わしているだけで電話やトークアプリなどといった連絡手段を持ち合わせていない。まあ頻繁に会っていれば必要はないのかもしれない。


 そこまで頭を巡らしていると、なんで白石のことが思い浮かんでくるのか自分でも不思議になった。最近は白石とばかり顔を合わせているおかげで考え方が白石基準になっているのかもしれない。今は龍太の話だ。軽く頭を振ってからもう一度スマホの画面を見る。


 『いや明日はダメだ。テストがある』

 『珍しいな、お前に予定があるなんて……え?テスト?俺なんか忘れてたっけ?』

 『いや、お前には関係ないテストだ。俺だけに課せられた試練といってもいい』

 『……ボスでも倒しに行くのか?』


 文面越しにも龍太が呆れているのが分かる。まあ似たようなものかもしれない。白石自作のテストで70点以上を取らないとこれまた白石自作のありがた~い課題が増えてしまう。それは今後の俺の夏休み大満喫生活に重大な危機を及ぼしかねない。俺はまだ遊び倒すことをあきらめちゃいない!


 『ある意味そうかもしれない。てなわけで明日はダメだ』

 『それは残念。明日はおとなしく図書館で勉強するかー』

 『……』


 おいおいまじかよこいつ。本当に図書館に来る気か?もし俺と白石が一緒にいるところを見つかったらなんて言い出すか見当もつかんぞ。動揺しすぎて『……』とか打ち出す始末だ。


 『まあこれからしばらく部活で忙しくなるから、またオフになったら遊ぼうぜ』

 『すまないな、また今度で』


 フリック入力で打ち込むと俺はスマホをテーブルの上に置く。まあ場所と時間さえ気をつければ会うことなんてそうそうないはずだ。あんまり気に病むことはない。そう考えて俺は中断していたゲームを再開した。


 ☆


 「……まあ、合格ね」


 翌日、家で軽く支度をしてからいつも通り俺は図書館の四階で白石と待ち合わせをしていた。最近は頻繁に図書館に行っているため、白石も施設の構造を理解したのか待ち合わせ場所はもっぱら現地集合になっている。今日も今日とて軽くコンビニに寄ってから図書館に向かった。まあ勉強を教えてもらう身なのでそれ相応のお礼は必要だろう。いくつかの飲み物とお菓子を買うのが最近の日課だ。


 図書館について四階に上がるとすでに白石は席を確保してくれていたようだ。テーブルの上にはいくつかの紙がすでに用意されていた。昨日から宣告されていたテストだろう。若干肩を落としつつも俺は白石に挨拶をして早速テストに臨んだ。


 そして今、やっとすべての採点が終わったところだ。どうやら無事に合格ラインは超えていたようだ。


 「これで夏休みずっと遊べる?」

 「……あなたずっとそれね。そんなに勉強したくないの?」

 「もちろん」


 白石が片手で頭を押さえながらため息をついている。そろそろ理解してほしい。俺は今後勉強をやらなくてもいいように勉強を頑張っているんだと!


 「まあ言ってしまったものは仕方ないわね。これで勉強会は終わりよ」


 そういう割には白石の表情はいま一つ浮かない感じだった。もともとこの勉強会は白石の慈悲で開かれているものだ。手のかかる生徒が減ることで今後白石の負担もゼロになる。俺自身も彼女に負担をかけすぎている自覚はあって、正直罪悪感でいっぱいだった。その恩返しというわけでもないが今回のテストで十二分に一人でもやっていけることを証明できた……気がする。


 だが今日ですべてが終わる。本来なら両者ともに喜ぶべき場面だ。けど、彼女だけでなく俺のなかでも嬉しさよりも別の感情が心を支配していた。どう表現すればいいのかわからずもやもやする。


 このまま終わっていいのだろうか。おそらく今日が過ぎれば俺と彼女はただの他人同士になる。今までみたいに勉強を教えてもらうこともなくなるだろう。なんとなくだが、それは嫌だ。


 そのとき、ふと昨日の龍太との会話を思い出した。


 「お前、チャットアプリはやってたりするか?」

 「え?……ええ。一応やっているわ」

 「……この先もしかしたら俺はまた赤点を取るかもしれない。そうでなくても新学期に入って新しい内容を学習しだしたら理解ができなくなるかもしれない。お前はそれでもいいのか?」

 「ええと……何が言いたいのかさっぱりわからないわ」

 「ああもう!」


 確かに俺の言葉は支離滅裂だろう。正直自分でも何を言ってるのかわからない。故に俺の心の声がそのまま表に出てるのとほぼ変わらない。


 「つまりだ。連絡先を交換しておけば俺はいつでもお前に勉強を教えてもらうことができるというわけだな!」

 「ちょっとは自分で頑張りなさいよ……」


 白石がまた呆れている。だが今度は表情が柔らかい。小さく息を吐いて、彼女はこういった。


 「確かに新学期や、それこそ三年生になってから赤点を取られても困るわね。今みたいに口頭だけで約束を交わすのもいざというとき不便だし」

 「そうだろうそうだろう」


 そういったきり彼女は微笑みながらこちらを見ている。あれ、今の流れ的にそちらさんが提案を持ち掛けるべきでは?だが彼女はそれっきり口を開こうとしない。あくまでこちらから言わせる気だろう。正面切って頼むのはとてつもなく恥ずかしい。なんだか負けた気はするが実際頼む側だから仕方ない。


 「……ID交換してくれないか?」

 「ええ。いいわよ」


 彼女はにやにやしながらあっさり応じてくれた。前にも似たようなことがあった気がする。立場は違ったけど。白石も思い出したのか、どちらからともなく笑いあった。


 最初のころは俺も、そしておそらく彼女も互いにいい印象を持っていなかった。特に白石のほうは言葉に出して俺を避けようとしている節がいくつもあった。それでも、彼女と行動を共にしていく中で彼女の過去、境遇、真意の一部に触れ、おこがましくも俺は彼女を救いたいと思い始めた。彼女に俺と同じ道を歩ませたくない。その一心で彼女に接触するようになった。その目的を今ここで絶やさなくて本当に良かった。


 「じゃあ、帰るか」

 「ええ」


 これまでの生活を少し感慨深く思いながら荷物をまとめる。しばらくは平穏な夏休み生活を送れることだろう。そう思いながらかばんを持って席を立とうとした直前。


 「圭と……白石、さん?」


 とても聞き覚えのある、でも今は絶対に聞きたくなかった声が後ろから聞こえてきた。恐る恐る振り返ってみると昨日ぶりに会話した大親友がそこに立っていた。その大親友こと、北見龍太は俺と白石を交互に見ては怪訝そうな顔でぽつりと言った。


 「……なに、やってんの?」


 ……どうやらまだ夏休みは続きそうだ。

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