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カワラナイ朝  作者: 白空
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第1話 転校生の少女

 朝が来た。

 けたたましい目覚ましの音にゆっくりと瞼を開けてみると、そこはいつもの見慣れた天井だった。


 「……もう朝か。早く学校に行く準備をしないと」


 ふと時計を見ると、もう一時間目の授業が始まってる時間だった。


 「…遅刻確定かよ。今日はゆっくり行くか」


 のろのろと学校に行く準備をしながら、部屋の机に置いてある鏡を一瞥した。

ぼさぼさの髪に目の下のクマも相まってとても人様に見せられる状態ではなかった。すぐに洗面台までいって顔を洗い、もういちど鏡を見ると幾分ましになっていた。着替えやらなんやら済ませ、いつも学校にもっていっているかばんをひっさげて外に出た。


 通学路を歩いている途中、信号機のそばで小さな紙を持ってうろうろしている人を見かけた。よくみるとうちの学校の制服を着た女子生徒だった。この時間帯ともなるともちろん登校している生徒はほとんどいないため、こいつも遅刻なんだなーと思いながら眺めていると、少し様子がおかしいことに気づいた。


 どうやら迷子になっているようだった。おそらく紙にはここらいったいの地図が描かれているんだろう。紙を片手に視線があっちこっちとせわしなくさまよっていた。さすがに放っておけなかったので、意を決して話しかけた。


 「道が分からないのか?」

 

 話しかけられた少女はびくっとしながら、こちらのほうを向いた。背はちょうど俺の肩ぐらいだろうか、きれいな長めの黒髪と対照的に絹のようなきめ細かい白い肌。顔はとても整っており、うちの学校にいたら間違いなく美少女の部類にはいるだろう。だが俺はこいつを知らない。そもそもうちの生徒ならこんなところであたふたしないだろう。となると、思い当たるのは一つしかない。


 「もしかして転校生か?」

 「…貴方には関係ないことです」

 「そのままじゃ確実に学校までたどり着けないぞ」

 「自分で行きますのでお気遣いなく」

 

 なぜかはわからないがすごく失礼な物言いだ。このまま言い合っても時間が過ぎていくだけと感じた俺は、


 「じゃあ俺が先に学校に行くから、その後ろをついてこい。それならいいだろ」


 否定も肯定もしない。もう無視して先に行くことにした。時折ちらっと後ろを振り向くと不安そうな眼をしていたが俺と目が合うとにらみつけてくるため、まっすぐ学校に (もしくは、学校へ) 向かうしかなかった。


 教室に入ると、クラス中の視線が俺に集まるが、それも一瞬のことだった。それもそのはず、俺のこの学校での評判はあまりよくない。というかかなり悪い。俺が中学の時に起こした暴力事件をきっかけに悪名が広まり、生徒や教師間での俺の評価は不良のそれと変わらなかった。いつものことなので気にせず自分の席に座ると、前の席から聞きなれた声が飛んできた。


 「圭。また遅刻したのかー?」

 「ああ」

 「そろそろ留年も視野に入ってきたな」

 「ほっとけ」

 

 こいつは北見龍太。小学校からの友人だ。この学校で俺と交友を続けてくれる数少ない友人だ。ノリがよく空気が読めるやつで、さらには人当たりの良い性格をしているため交友関係が割と広い。余計な一言が多いのは玉に瑕だが。

 圭というのは俺の名前だ。姓は神谷。龍太にも言われたが、俺は頻繁に遅刻をする。まあ誰にも何も言われないからあんまり関係ないが。


 龍太と雑談しているとなにやら教卓近くが騒がしくなってきた。担任が「ちょっと遅れたが、今日は転校生がきているぞー。ほら、はいれ。」と言っていた。どうやらこのクラスに転校生がやってきたらしい。まさか、さっきのやつか?と思いながら、前のほうに視線を向けると、案の定というかなんというか、黒髪ロングの美少女が教室の中に入ってきた。

 

「今日からここに通うことになりました。白石琴音と申します。どうぞよろしくお願いします」


 突然の転校生とその少女の美貌に教室がより一層騒がしくなった。やはり彼女の容姿は人一倍注目を浴びているようだ。彼女に視線を向けていると、不意に俺と目が合った。目を大きく見開いて驚いていたが、さすがに睨みつけられるようなことはされなかった。そもそも睨みつけられることをした覚えはない。


 「それじゃあ白石は神谷の横の席に座ってくれ」

 

 顔こそ笑顔だが目が笑ってない。そんなに俺の隣が嫌か…。

 彼女はすたすたと歩いて俺の隣の席に座った。まあなんかよく思われてなさそうだったので、できるだけ関わらないでおこうと心の中で思った。



 「好きな食べ物はー?」

 「前の学校ってどんな感じだったー?」

 「得意なこととかあるー?」


 昼休みに入ると横の席に人だかりができていた。白石は四方八方から質問攻めを受けていた。好きな食べ物やら出身中学やらいろんなことを聞かれていたが、すべて無難な対応をしていた。傍目で見ていた俺ですら彼女の反応はそっけないものに見えた。周りに集まった人たちもどうやら白石の反応をよく思わなかったのか、質問もそこそこにそれぞれのグループへ帰っていった。



 下校時間になると、白石はさっさと先に帰ってしまった。多分質問攻めを食らうのを嫌ったのだろう。クラスメイトのほうも彼女との距離感を測りかねているし、明日から浮きそうだなーと思いながら、龍太との会話もそこそこに俺も帰り支度をし始めた。ちなみに龍太はサッカー部に所属していたためグラウンドのほうまで走っていった。


 行きと同じ通学路を通って家まで帰っている途中、信号機のそばで白石を見かけた。今朝と同じようにまた手に持っている紙と辺りを見比べていた。なんだかまた迷っているように見えたので、少し躊躇ったが声をかけた。


 「また迷ったのか?」


 今度はびっくりされるようなことはなかったが、声の主が俺だとわかると露骨に嫌な顔をした。


 「またあなたですか。ストーカーですか?」

 「善意で声をかけたのにひどい言われようだな。行きたい場所があるんじゃないのか?」

 「たとえそうだとしても、あなたには関係ないことです。そもそも名前も知らないし」

 「俺の名前は神谷圭だ。ていうかまたそれかよ。俺お前に何かしたか?」


 そう問いかけると彼女は少しだけ渋い顔をしたが、それについては返答せずに紙に目を落とし始めたので、つられて俺もそれをみる。その紙に描かれている地図が指し示す場所は、どうやら俺もよく行ってるスーパーだった。


 「そのスーパーなら知ってるぞ。連れてってやろうか?」

 「……」

 「わかったわかった、俺が行きたいから勝手に行きまーす」


 そういって俺は歩みを進めた。幸い、俺の家の近所でもあったためそう遠回りにはならないだろう。そう思いながら今朝同様ちらっと後ろを振り返ると、またもや同じように睨まれたが、しっかりとついてきてはくれているようだった。


 スーパーにつくと、さっそく白石は買い物かごをもって店内を物色し始めた。主に野菜やお肉などを次々とかごに放り込んでいた。彼女を尻目に、そういや今日は親が夜勤でいない日だったことを思い出した。晩御飯どうしようかなーと思いながら弁当コーナーで焼き肉弁当を手に取ってレジに向かう途中、つかつかと前から白石がやってきて、俺が持っている弁当を見るや否やそれを奪って自分のかごに入れた。「は?」と声に出す間もなく白石はレジに向かって会計をし始めた。

 会計が終わると彼女は俺の前にきて、一つのレジ袋を差し出してきた。受け取って中身を見ると、そこには俺が買おうと思ってた焼き肉弁当が入っていた。


 「なにこれ」

 「今朝と先ほどのお礼です。言っておきますが、私は貴方に借りを作りたくないので、これでおあいこってことでよろしくお願いします」

 「…なるほどな。ありがたく受け取っておくよ」

 「今日はありがとうございました。それでは」


 そういうと白石はスーパーを出ていった。案外彼女は律儀な性格なのかもしれない。彼女を追って俺も外に出ると、白石はもう遠くのほうまで歩いて行ってしまった。沈みかける夕日に彼女の黒髪がよく映えて、不覚にもまるで一枚の絵画みたいに美しいとおもった。


初投稿です。よろしくお願いします

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