前編
2年ぶりの社会問題シリーズです。今回のテーマは教育です。なお、構想自体は1年以上前に考えられていたため時事ネタとしては古いです。
「教育関係費確保に関する法案について全会一致で可決しました」
パチパチパチパチ
衆議院の議場にいるすべての国会議員が拍手をした。
たった今、ある1つの法案が成立した。
法案の成立を衆議院議長が宣言すると同時に文部科学大臣が深々とお辞儀した。
教育関係費確保に関する法、通称教育予算法。この法律の成立は日本の教育に関する考えを大きく改めさせるものとなるだろう。
さて、私がだれなのか。
そろそろ自己紹介しなくてはいけないと思う。
今、私は衆議院の傍聴席にいる。つまりは、私は国会議員ではない。そして、マスコミ関係者でもない。じゃあ、誰なのか。
それは、この物語を読んで知ってもらいたい。
◇◇◇
数年前。
埼玉県所山市である住民投票が行われた。それは、市立の小中学校にエアコンを設置することへの賛否を問う住民投票だった。結果は、賛成が56921票、反対が40002票だった。賛成票の方が上であるが、住民投票自体の投票率が30%という低投票率であり、住民投票が3分の1の投票率が必要のため成立しなかった。
所山市は、自衛隊の基地があり騒音で窓を開けると授業を聞きとることができないため、エアコンを設置しようと計画したが、住民により拒否された。
どうしてだろうか。
所山市だけではない、日本において各地で教育に公的なお金を投入することに反対している人が多くいる。
なぜだろうか。
日本は、OECDに参加している国の中で最も公的なお金を教育に導入することが少ない。
自分の子は自分で育てろということなのだろうか?
でも、それならそれでいいと思う。
この国が滅びるだけなのだから。
そのようなことを考えていると私の前に1人の男がやってきた。
「代表。今日の講演は、千代田高校です」
「そうか。伊藤君、ありがとう」
「いえいえ、私もこのNPOに入ることができてよかったと思っているんです。教育の現場改善のためにもこのようなNPOで社会に訴えていくことが大事だと思うんです」
伊藤君は、私の言葉に感銘を受けてくれたらしい。
さて、もうそろそろ私の自己紹介をしようと思う。
私は、教育意識改革という名のNPOを運営している代表の鈴木達郎だ。
日本の教育現場の改善、教育に対する社会の意識改善を目的としている組織だ。そのために、国に対して陳情することまである。
私がどんなことを考えているのか。
それは、千代田高校での講演の内容を聞いてほしい。
◇◇◇
千代田高校にて。
私は、まず千代田高校の校長である田中校長と校長室で挨拶をしていた。
「本日は、よろしくお願いします」
「こちらこそ、お願いします。鈴木さんの教育に対する社会改善の志は私達教育現場で実際に働いている者の心に多く刺さっています。ぜひ、生徒たちにも教育に関する日本の問題というものを大いに語ってください」
「こちらこそ。ぜひ、語らせてもらいます」
私は、校長先生の激励に対して思わず握手してしまった。
校長先生にここまで持ち上げられると何かいい気分になってしまうな。ちょっと、有天頂だった。
校長先生とのあいさつはこのあと簡単にするだけで終わった。
詳しくは講演が終わったあとにしましょうと校長先生からの提案であった。なので、今日の講演で軽くどういうことを話すのか、そういった手続きの話だけをして講演をする体育館へと向かった。
◇◇◇
体育館に入ると千代田高校全校生徒600人が私の前に座っていた。600人というのは全校生徒の数だが、実際には欠席している子や残念ながら退学してしまった子もいるためおよそ600人というのが正確である。
さて、600人の生徒達の前で私が最初に語ったのは、教育って何だという話だ。
「皆さんにとって教育とは何だと思いますか?」
私が壇上で講演するのではなく壇上の下すなわち生徒が座っているのと同じフロアで講演をしていた。マイクを片手に近くにいる生徒たちに意見を聞くためだ。
「何だと思う?」
近くにいた男子生徒に教育って何だと思うと聞いてみる。
「教育、え、ええっと、子供が受けるもの?」
「ありがとう。そうだね。子供が受けるものだという意見はいい意見だよ。子供が受けるものだと思った人」
私が同じに思った人と聞くとかなりの数の生徒が手を挙げた。
他にも意見を聞いてみることにする。
隣の女子生徒は手を挙げていなかったのでちょうどいいと思い、指す。
「で、どう思う?」
「私は教育って人間を成長させるものだと思います」
「おー、かなりすごい意見が出たね」
その意見を高校生にして持っているのはとてもいいと感じた。
「そうだね。教育というのは人を成長させるものだ。別に勉強の事だけを指しているわけではない。授業の内容は将来役に立つもの、先生たちには悪いけど受験でしか役に立たないものがある。それ以上に教育というのは人から教わることでいろいろな視点を知ることができるし、教えることをすることで人に自分の考えを発信することができるようになるなど社会で役に立つ能力を身に付けることができるんだ。そういった意味で教育とは人を成長させるものと言えるね」
私の話は終えて校長先生にありがとうございますと感謝された帰宅した。
◇◇◇
翌日。
私はある人の元へと向かった。
向かった先は東京都千代田区。いわゆる永田町と言われる地区だ。永田町にある国会議事堂。その正面とは反対側に何軒かビルが建っている。そのビルは衆議院議員と参議院議員の議員会館であった。
議員会館にある部屋に今日は用事があった。すなわち今日は国会議員と話しに来た日である。もちろん、私の方からオファーした。受付の方で今日話をする国会議員の人のアポがあることなどを用紙に記入し、秘書さんが来てくれたのでその人についてその議員がいる部屋へと向かう。
「失礼します。NPO法人教育意識改革代表の鈴木達郎です。お願いします」
そう言って部屋に入る。
「今日は、ようこそいらっしゃっていただきありがとうございます。平和党教育部会部会長の城山です。お願いします」
そう言って議員の方も挨拶をしてくれた。そのまま私に名刺を渡してくれる。
名刺にはこのように書かれている。
衆議院議員
平和党 教育部会部会長
城山征十郎
この身長176センチ、眼鏡をしていて46歳、当選回数4回の衆議院議員城山征十郎に私は会いに来た。
平和党は与党である。政権を担っている政党の教育に関して扱う部会の長ということもあり教育問題について私の方は要望しようと考え今回アポを取ったのである。
「今回は城山先生が教育部会の部会長であらせられますので、実は要望がありまして来ました」
「はい。教育についての専門家の方がお越しになるとは光栄です。それで、どういった要望でございますか?」
「実は、教育に関する予算というのが国会でも論戦がありますが、私ども教育問題に関して普段から活動している人間からしてもいささか少ないと感じています。この現状をどうにか改善していただけないでしょうか?」
「そうですね。改善しようと私どもは考えております。しかし、少子化が進む中財務省がなかなか予算を認めてくれないのですよね。これは難しいことです」
「財務省は少子化がさらに進むと税収が減るという発想がないのでしょうか。ここで、少子化を止めるためにも教育の費用をもっと充実化することで家庭の負担を減らしより子育てしやすい社会を作るという発想ができないのでしょうか?」
「まあ、財務省とは良くも悪くも今の事しか考えていませんですから。それにそういった確実性のないものよりも増税して税収を確保しようと考えるお役所ですから」
「では、教育に関する費用をどうにか考えていただけないでしょうか。こちらは、私どもNPOがまとめた教育に関する要望とその署名です。ぜひともこの問題を解決していただけるとうれしいです」
「はい。前向きに検討しましょう」
そう言って本日の話し合いは終了した。
ただ、政治とは動きが鈍い。そんな簡単に動くわけがない。そんな風に思えている。与党に話しを通すのが一番であるけど野党にも話をしておいた方がいいだろうか。しかし、野党も今は別の統計問題とか経済問題とか隣国の外交問題で政府を追及している場合だから教育に関してはまったくノータッチとなるだろう。話しても無駄であるか。
現在の政府は安斎真一内閣である。文部科学大臣は大泉信一郎。この人は当選6回、衆議院栃木3区選出の平和党議員である。しかし、文教族ではなく当選回数によりそして安斎総理との人間関係によって入閣した人物であり教育問題については進みがよくならないと感じられる。
専門的な人が大臣であればもう少し話が聞いてもらえてのかもしれないが大泉文科相は教育よりも憲法改正が専門であり多分私の話は聞いてもらえないな。どうすればいいだろうか。
私はどうすればいいのか分からず途方に暮れてしまった。