【序】
どうも。作者のおっちーです。
SUKYSH CLOUD(サキシュ・クラウドと読んでくださいね!)、いよいよ始まります。
これは、相当に長いお話です。何しろ話の構想を練り始めてから、ゆうに10年は経っています。
それからこの中のシナリオを使ってRPGにしようとしてみたり、舞台の脚本の形にしてみたり、いろんな紆余曲折を経て、今回このサイトで発表させていただけることになりました。
今回は序の序………物語が始まる前のお話です。いや、時系列でいうと、物語が終わった後の出来事になります。
読んでいただけるみなさんに楽しんでもらえるようなお話を作っていきたいと思います。この先末長く、よろしくお願いします。
あたしの名はカリン。作家よ。
今日は昔の仲間に会うために、こんな山奥の小さな村までやってきたの。
あたしは、数年前まで冒険者だった。その冒険ーーーそれはそれは大冒険だったわ。大袈裟じゃなくて世界を救うような、大冒険。生と死の狭間で、あたしたちは頑張った。そして世界の破滅から、人類を救った。そうよあたしたちは最高のヒーローよ、最高のヒロインよ。
今日訪ねるのは、まさにその冒険物語の主人公たる人物。
名をライタという。
あたしは彼の物語を書きたいの。
彼がどうして生まれ故郷を旅立ったのか。なぜ彼はあのアイグラントの王と対峙することになったのか。そしてどうして彼は、世界を救うなんてことができたのか。
彼の冒険の旅のすべてを、あたしは本にして残したいと思ったわ。
そしてその物語を書く作家に、あたし以上の適任者はいないと思うの。
このカリン・アドワーグ。
精霊魔法の遣い手でありながら、剣士。そして文才をも併せ持つ、まさに文武両道を絵に描いたような、天才女史。
***
あたしは、木製の扉を叩いた。
そのときあたしは興奮していたと思う。これ以上ない期待と高揚感に、胸を弾ませていたんだわ。
けれど、応えは無かった。
あれ?おかしいな。今日のことは、事前に伝えてある。
まあ、いいや。そんな細かいことを気にするような仲でも、そんな彼でもない。
あたしはもう一度、確認の為に扉をノックしたあとに、
「こんにちわ〜」扉を開いた。
ゴツリ。
何かが扉に引っかかった。
その「何か」が邪魔で、ドアが完全には開かない。
あたしはイラッとして、無理くり扉の取っ手を押し込んだ。
「う〜〜〜ん」
うなり声が聞こえた。確かに聞こえた。
あたしはビビった。誰だろう?ライタ?まさか!
すぐに状況がわかった。
玄関?の床に、誰かが寝転んでいた。足をこちら向きにして。その足が、扉を開くのを邪魔している。
やっぱりライタじゃん!
当の主人公、ライタがいびきをかいて寝転んでいた。
あたしはその足を蹴とばした。またうなるライタ。
あたしは、客だ。旧友が久しぶりに訪ねて来たのだ。出迎えろ。そんな歓迎せずとも、せめて今の状況だけは回避して欲しかった。
最悪だ。あたしは少なくとも歓迎はされていないな。この状況から、それを読み取ることだけはできた。
しかし何はともあれ、この家の主人に目を覚ませてもらわないと。家の中に入ることすらできかねる。
あたしは彼の名前を呼んだ。大声で。耳に口を近づけて。それでもイビキをかき続ける彼。大声ダイヤモンドの効果はない。
顔に鼻を近づけたおかげで分かったのだが、この男は酒を飲んでいる。酒の匂いがプンプンする。
客の来る前に酒なんか飲むかあ? 今更だが、この男の常識を疑った。こんな性質の人間だったのだろうか。もう少しはマシだったような。
「おう来たか。聞いとるぞ、カリン」
不意に、後ろから声がかかった。この声は………
「ボイスカ‼︎ 久しぶり‼︎」
「仕方ないのう。ライタはこの有様か」
「どういう経緯で、こうなっとるの?」
ボイスカは、ライタの武術の師匠であり育ての親でもある。今は、この近くに住んでいると聞いている。確か、奥さんをもらったとか………?
そういえば、ライタの奥さんは、どこにいるのだろう。子供は、いるのだろうか。
「今日来るのは、お前さんだけじゃなくなったんじゃよ」
「は? どういうこと?」
「せっかく久しぶりにお前さんに会う機会ができたんだから、皆も呼ぼう、と。ライタ夫妻の提案でな」
「あぁ、そうだったんだね」
「お前さんには知らせないで、サプライズにするつもりだったようだが、ライタがこの状態じゃあ、もうゲームオーバーじゃろ」
「あー………そもそもなんでライタはこんなことになっちゃったの?」
「今日飲む旨い酒を、世界各地から集めてたな。だからたぶん、どれがいちばん旨いか調べるうちに、酔いが回ったってとこじゃないかのう」
………馬鹿者。あたしは呆れたわ。こんな抜けた奴だったのかしら。
その夜、世界を旅した仲間が集った。そこには涙と笑いがあった。喜びと驚きと、懐かしさに溢れていた。その夜の出来事は、一度だけ見られる夢のようだった。安心できる顔ばかりがあった。皆の笑顔。この時だけは久しぶりに、日々の生活での悩みや煩いを心の芯から忘れた。こんな楽しい日は、もう二度とないだろう。そう思ってしまうほど………
「主役」が目を覚ましたのは、宴もたけなわの時だった。むしろ、それはベストタイミングだと言えた。その瞬間、パーティーはその夜いちばんの大盛り上がりを見せた。
ちょうど良いタイミングがあったのであたしはライタに聞いた。
「ねえ、今日はライタに取材するつもりで来たんだけど。どうしてくれるの?」
「いいねえ、本書くんだろ? 俺の本かあ。てれるなあ」
いやいやいや。
「これじゃあ書けないよ」
「だって本書くなんて、何日とかじゃ書けないだろう?」
「そりゃあそうだよ。特に今回は、相当時間はかかるよ」
「明日から、あっちの部屋使って書けよ」
「はっ?」
「俺とはいつでも話できるし。それがいちばん合理的だと思うけど」
「合理的………ってそうかもしれないけど………」
「なんか不都合あるか?」
「いや………特にはない………と言いますか、ライタは大丈夫なの、奥さんも?」
「全く問題ない。そのつもりで家財道具も揃えてある」
「それはそれは………かえって恐縮するわ〜」
「じゃあ、決まりな!」
………あぁ、この笑顔は強いなあ。混じりっけのない笑顔だ。今の汚れた世の中で、この表情をできる人間は、強い。流石ライタ君と言える。
よし、明日から仕事だ。私の一世一代の、あの冒険のとき以来の、大仕事が始まる!
作者のおっちーです。
さて、如何だったでしょうか?
如何もなにも、物語は進んでおりません。始まってもおりません。なので感想もなにもないかも知れませんね。
でもいくつかキーワードや、物語上の重要な要素が登場しておりました!
これからの物語の始まりや展開への、期待感を誘発なんかできたらいいなあ、なんて勝手に思っています。
それでは、次回のSUKYSH CLOUD 第一部 第一章『旅達』でお会いしましょう! それまで………バラ、ナイ。