届出順
立候補の届出は、選挙の告示日の午前8時30分から午後5時まで、選挙管理委員会で受付が行なわれる。
「皆、待機して待ってますからね。届出順位が決定したら、即刻電話するのですよ」
「はい、校長先生」
郁磨は、勘治と美佐と矢吹、大野と斉藤と他の少年達。そして、川田と元市議会議員の老人と二人の女子大生たちに見送られて、伊吹の運転する乗用車に乗り込んで太田家を後にした。
「選挙カーで迎えにくるわ」
と矢吹は告げて、乗用車を走らせ去って行った。
会場に行くと、郁磨は仮受付番号のカードを手渡され、その番号順に会場内に設置された椅子に座った。
8時30分きっかりに、仮番号の順に、籤を引く順番を決めるための、籤を引いた。
全員が籤を引き終えると、次に、その籤の順番に、受付順を決めるための籤を、郁磨も引いた。
立候補の届出順は、先着ではなく抽選で決まった。
大野と斉藤はポスターを持って、市議会議員選挙ポスター掲示板の前で待機していた。
別の場所のポスター掲示場では、二人の女子大生がポスターを持って立っていた。
白い布で覆われた看板の下では、勘治と美佐と大場が落ち着きなく今遅しと郁磨からの連絡を待っていた。
壁に貼られた大きな紙には、市議会議員一般選挙届出順位と書かれ、届出順位と仮受付番号と氏名が記入されてあった。
「届出順は、5番だ」
と、郁磨は大野に携帯電話で連絡した。
「届出順は、5番です」
と、折り返し大野は女子大生に携帯電話をした。
市議会議員選出議員選挙
ポスター掲示場に書かれた、1、2、3、4、5、6の数字は、立候補届出順を表す数字である。
大野と斉藤は、掲示板に書かれてある『5』の数字に郁磨の選挙運動用のポスターを貼った。
同時に、二人の女子大生も、別のポスター掲示場の5にポスターを貼った。
受付を終えた郁磨は、タスキをかけながら会場を飛び出した。その後から、駅前で『本人』と書かれたタスキで街頭演説をしていた二十代後半の女性が、『大俵静果』と書き換えられたタスキを掛けながら会場から飛び出して行った。
看板を覆った白い布を、大場が剥ぎ取った。看板には、『扇谷郁磨選挙事務所』と達筆な文字で描かれ門柱に掲げられてあった。
勘治と美佐と大場に見送られて、『扇谷郁磨市議会議員選挙候補者』と書かれた横断幕を取り付けた選挙カーが門から出て行った。
大野と斉藤は、『扇谷郁磨』と書かれた幟旗を自転車に差して、
「扇谷郁磨を宜しくお願いします」
「扇谷郁磨に清き一票を」
と叫びながら、道路を走って行った。
幟旗を自転車に差した二人の女子大生も、
「扇谷郁磨に投票してください」
「扇谷郁磨を宜しくお願いします」
と走りながら、道行く人に訴えかけた。
選挙カーの助手席に座っている伊吹が、窓から手を振りながら、
「扇谷郁磨を宜しくお願いします。若い力を皆さまの一票で。宜しくお願いします。扇谷郁磨に投票してください」
と、訴え続けた。
タスキと腕章をつけた郁磨は歩きながら、道行く多くの人達に
「頑張ります。宜しくお願いします」
と言いながら、握手した。
こうして、選挙運動は郁磨とその支援者達とともに開始された。