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i will challenge  作者: AIAMAAI
19/26

審査

 二人の女子大生は、選挙運動を手伝わせて欲しいと、勘治に直談判するためにやってきていた。

「バイト代はでませんよ」

と、勘治はやんわりと断りを入れた。だが、二人の女子大生は

「わかってます。それでも、いいんです」

「しかしね……」

 大学に通うのは家族にとってもかなりの負担がかかるものだ。そういう状況を熟知している勘治は、快くそれを受け入れるのに戸惑っていた。

「滅多に経験できることではないですから」

「家族もそうしろって、言ってくれてるんです」

 それでもなお、返答に窮し詫びるように見つめている勘治に、

「他の友人達にも声をかけてみたんです。そしたら、ボランティアでもいいから」

「私もやりたいって言ってる友人が、大勢いたんです」

と言って、”ねえ”と、女子大生の二人は顔と顔を見合わせた。

 困り果てた勘治は、意見を求めるように美佐に振った。

「どうしますか?お母さん」

「こう言ってくれてるんですから、有り難く受けましょうよ」

「そうですね。お母さんがそう言うのなら、そうしましょう」

 女子大生の二人は、美佐に抱きついて

「ありがとう、先生」

と、喜びを表した。

「ただ今戻りました」

と、郁磨が事務所にはいってきた。

「おかえり。どうでしたか?」

と勘治が訊くと、郁磨が満面の笑みを浮かべて、丸めた試し刷りのポスターを長机の上に広げた。

「皆、どうですか?」

と勘治が訊くと、一同が、賛同するように親指を立てた。

「葉書は?」

と、何時の間にやらそこにやってきていた川田が、少年達の間から割って出てきた。

「いらしてたんですか。気付きもしないで」

 勘治が言うと、川田は愉快そうに笑った。

 郁磨は、ポスターの横に試し刷りした選挙運動用通常葉書を置いた。

「如何ですか?」

「お前さんは、これで満足してるのか?」

「はい」

「なら、これでいこうじゃないか」

と、川田は郁磨に言った。

 並ぶように置かれた長机上の看板の文字を眼にした川田が言った。

「これなら、人の目につきそうだな」

「え?」

と、大場が小さく声を漏らした。

「君が書いたのか?」

「はい」

 大場が、自信なさげに川田に返事した。

「表のミミズが這い蹲ったような文字で書かれた看板が、この看板の引き立て役になるだろうよ」

 川田が言った途端、一同が笑った。

「事前審査は、明後日だな」

 川田が、一同の笑いを掻き消すように言うと、一瞬にして、その場が緊張感に包まれた。


【事前審査】

立候補の届出は、告示日当日にいきなり提出もできるが、立候補届出書類や手続きは煩雑で、わずかな問題点でも受け付けできなることがある。そのため、立候補の届出に必要な書類を審査し、不備の有無などを事前にチェックする。


「書類はできたのか?」

「はい」

 郁磨は、茶封筒から届出書類を取り出して、川田に手渡した。 川田は、書類に不備がないか事細かくチェックして、郁磨に返した。

 事前審査の開始時間である8時30分に市役所会議室に入ると、既に、十数人の様々な年齢の立候補者達が、席に着いていた。

「こんなにいるんだ」

 郁磨に付き添って来た大野と斉藤が、目を瞠って言った。

「二日に渡ってやるようだから、もっと増えるんじゃないのか」

 郁磨が脅すように言うと、大野と斉藤は身震いした。


 その日の夜遅くに、美佐は誰もいない事務所で携帯電話をかけていた。

「もしもし。和恵さんですか?……美佐です。夜遅くにごめんなさいね」

 美佐が電話をしていた相手は、郁磨の母、和恵であった。


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