エピローグ 鍵を知る者を求めて
異様なほど大きな建物だった。人工的なものがほとんど無い深い森のなかに、その白い壁は唐突に現れた。
人の手があまり入っていない豊かな森は、美しい鳥の鳴き声が響き、木々は風にさわさわと鳴る。それだけで心和む風景だが、その森を切り取るように突如表れたのが、その異様に白く高い壁だったのだ。急な人工物の登場だったが、その壁の美しさは不思議と森に溶け込んでいて、それも美しく見えた。
ぞろぞろと歩く隊員たちを静止させて、列の先頭に立つ男が口を開いた。
「……なるほどな……。こりゃ相当な魔力だ。これだけの光の力があれば、正直魔物の心配はないな」
壁から何かを感じ取っているのだろう。茶髪の男はそう言って壁を見上げた。その言葉に、隣を歩く老人がヒゲをなでる。
「魔物の心配は無用……となれば、この辺りでみんなには待ってもらったほうがいいんじゃないかの」
老人の提案に、茶髪の男はうなずいた。
しばらくして、男と老人は二人で壁にそって歩き出した。どこかにあるであろう入り口を探そうとしたのだ。いつまでも続く長い白い壁を見上げ、歩いていた時、それは唐突に呼びかけてきた。
「お待ちしていました」
声の方を振り向けば、いつの間に現れたのだろう。茶髪の髪を風に軽く遊ばれながら立つ一人の少年がいた。年の頃は十代半ばといったところだろうか。白い服に身を包み、落ち着いたその風貌は、ずいぶんと見た目の割に大人びて見えた。
「アンタ……」
あっけにとられて何とかそれだけ口をついた男に、少年は金色の瞳を静かに閉じてうなずいた。
「貴方達が……ガトンナフさんとゴフさんですね」
少年の確認に二人がうなずくと、金色の目をした少年は静かに頭を下げた。
「話は聞いています。彼らが信頼している人物だと……どうぞ、彼らはこの中です」
唐突な道案内に男と老人は目を見合わせる。
「……あの少年……声に聞き覚えがある……。きっと神殿の……」
「そうじゃろうな……底知れぬ器の持ち主じゃ……。只者ではないのう」
二人がヒソヒソと話すその先で、少年はくるりと背を向けて歩き出した。少し歩くとすぐに壁に向かって曲がってしまい、その姿は視界から消えた。高い壁が続いていたはずだが、見れば壁の一部が崩れていて、壁の内側に入れるようになっていた。しかしその壊れた箇所は、先ほど二人が通り過ぎた壁だった。
「……壁のあんな所……さっきまでは崩れてなかったように思うが……」
思わず眉を寄せつぶやく男に、老人は一息はさんで口を開いた。
「――ついていこうかの」
短く言葉をかわすと、男と老人は少年の後を追って歩き出した。重い空気の三人とは裏腹に、そこに広がる世界はどこまでも静かで平和な森だった。鳥の声が時折響く中、風だけが不安げにゆらゆらと静かに草をなでていた。




