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双子の魔術師と仮面の盗賊  作者: curono
1章 双子と仮面の盗賊
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伝説の秘石

「あ、フタバくん!」

 シンジが食って掛かってくるシンを無視して返事をする。会話に夢中で気がつかなかったが、シンの席を一つ空けたすぐ隣の席に座っていたのは、級長のフタバだった。彼も寮生の一人なのだ。

「級長~、見てよこれ~!! シンってば、ボクにご飯吹き付けてくるんだよ~!!」

「フタバ、聞いてくれだべよ~! シンジってば弟のくせにひどいこと言うだべよ!!」

 ガイとシンはそれぞれ級長に助けを求める。フタバはちょっと苦笑いして、ガイにハンカチを差し出す。

「ええと……。ちょっと話はわからないんだけど……。とりあえず。ガイくん、よかったらこれどうぞ」

 それを受け取って、ガイがつぶやく。

「ううっ。級長だけだよ~、ボクのこと心配してくれるの……」

「フタバくんと夕食時間一緒になるって、はじめてかも。珍しいね!」

 シンジがにこにこと言うと、ちょっとフタバは疲れたような顔をして答えた。

「今回の宿題が面倒だからさ。ちょっと気分転換に先にご飯食べようと思ってきたんだよ。だからちょっといつもよりは早いご飯かな。ところでシンたちは宿題終わったの?」

 フタバの質問に、三人は途端とたん沈黙した。

「……終わってないの?」

「いやぁ、結構難しくて……」

 とシンジが苦笑いすると、シンがうんうんとうなずく。

「ま、オラが本気出せば早いんだべがな。あんまり早く終わるとつまらないから先延ばしだべ」

「そんな大嘘いって~! ボクの話に夢中になって、シンなんか一ページも終わってないじゃないか!」

 ガイがあははと笑うと、シンも食いかかる。

「そもそもガイが、そんな話をするからいけないんだべ!! そんなあるかどうかもわからない話……」

「聞きたいって言ってたの、シンじゃないか~!」

「なになに? ガイ君の話って?」

 ケンカが始まりそうな様子に、フタバがあわてて仲裁に入る。ガイの代わりにシンジが口を開いた。

「超古代文明ってやつだよ。なんか教科書にも載ってないっていう、あるかどうかもわからない歴史の話なんだって。面白そうだから、つい聞いちゃって」

「へぇ、超古代文明……。確か、古代文明よりもはるか昔に滅んだとされる幻の文明だね」

 シンジの返答にフタバも興味を示したのか、身を乗り出してきた。その様子にシンが尋ねる。

「お、級長もさすがに興味あるだべな! 級長は『超古代文明』って知ってるだべか?」

 その問いに、しばしの沈黙の後、彼は静かに口を開く。

「知ってる、といえばちょっとだけかな。教科書にも載ってないから、噂くらいで聞いたけど……。でも、一つだけ聞いたことがあるすごい話があるんだ」

 声を潜め、低いトーンの話し振りに、思わず三人とも身を乗り出す。

「昔話なんだけど……。

 その超古代文明があったと言われる時代は、今以上に魔法が発達していたんだ。

 なんでも魔法でできて、

 どんな所にも行けて、

 なんでも作れて……。

 それで人々は思った。

 『もっと強大な力を手に入れて、人が神になろう!』って。

 そこで、人々は全ての力をつかさどる不思議な光の石を作った。

 その石があれば、世界の全てをコントロールできる強大な力をもつ石さ。

 その石は六つの力を支配していて、それさえあれば何でもできると、人々は思った。

 でも、神に近い力を、人が持つなんて許されなかった。

 神様の怒りに触れて、人々は巨大な混沌の闇に飲み込まれてしまった。

 あわてた人々は、神の怒りを静めるため、もう一つの石を作った。

 その石は、光に相反する闇の石だった。

 この石にも六つの力を支配させ、その闇の石で光の石を打ち消した。

 そしてその合計一二個の石を神様に差し上げて、ようやく怒りが治まった。

 でもほとんどの人間は、その混沌の闇に飲まれて死んでしまった……。

 残ったのは神様に許された、一部の人間だけ。

 残った彼らで、次の文明を築いた……。

 それが今の古代文明の始まりらしいよ……」

 あまりにスケールのでかい話に、三人は思わず聞き入ってしまった。興味津々な三人の様子に、フタバは照れ笑いして続けた。

「今のは小さいとき僕が聞いた話だよ。ホントかどうかわからないしね。ま、僕が知ってる超古代文明の話はそれくらいかな。たいした話じゃないけど」

 照れるフタバに、シンはぶんぶんの首を振って言う。

「全然そんなことないだべよ! すっごく興味深かっただべ! ガイの話なんかよりうーんと面白かっただ!」

「なんだよ~! きっかけはボクじゃないか~!」

 すかさずガイが抗議する。

「でもフタバくんも、興味合ったんだね!ほかに知ってる話ないの!?」

 シンジも目を輝かせて聞いてくる。フタバは頭をかきながら答える。

「いや、僕の方こそ、もっと教えてほしいくらいだよ。でも、その不思議な力を持つ石、実は今も残っているんじゃないかって言われているらしいんだ。もし、シンジくんたちもそういう話聞いたらぜひ教えてよ。僕もまだまだ知りたいことだらけだから」

「おう! まかせるだ! オラたち、『超古代文明調査隊』だべな!」

 シンの発言に、シンジが楽しそうに答える。

「うわぁ、なんかそれかっこいい! 『超古代文明調査隊』かぁ」

 シンジが乗り気で答えると、シンは得意になって胸をはる。

「もちろん、オラがリーダーだべ!」

「ええ!? きっかけ作ったボクはぁ!?」

 嘆くガイに、シンジが苦笑して言う。

「ここはやっぱり調査隊の情報部じゃないかなぁ」

「そんなぁ~……。え、シンジは?」

 ガイの問いにシンジはうーんとしばし考えて、

「うーん……。やっぱりここは隊長補佐じゃない? 弟だしっ」

「ええ!? ボク、シンジより下っぱの隊員なの~!?」

 ますますガイは落ち込む。

「じゃ、級長も情報部隊、頼むだべ!」

 シンがノリノリでフタバに話を振ると、意外にもフタバは楽しそうに笑って答えた。

「面白そうだね。じゃあ、ぜひ僕も入隊させてください! 隊長!」

 そんな話で、夕食も盛り上がって、食事が終えるとフタバと三人はそれぞれ部屋に戻っていった。


 部屋に戻ると、早速宿題を続けねばならなかった。とはいえ、もともと勉強嫌いなシンとガイである。順調に進むはずもなく、だらだらと三人の勉強は続く。

「シンジ~……三問目はどう計算するだべ?」

 机のうえにぐったり伸びた状態でシンが尋ねる。

「三問目は水系魔法の計算式でしょ? シンが得意な火系の逆の関係式つかうんだよ」

 サラサラと計算を続けながら、片手にジュースを持ち、飲みながらシンジは答える。

「あ、見てみて! 秘技・鉛筆三本立て!!」

 その二人の間で、ガイは全く関係ないことに集中している。

「ガイ、それ何だべ?」

 宿題に集中できないシンは、即ガイの話し相手になる。

「鉛筆に氷の計算式使って凍らせてみた~! ホラ~、まるで鉛筆三本は、見事にバランスとってるみたいでしょ〜!!」

「ガイ、ナニゲにレベル高いことやってるね……」

 ガイの行動に、シンジがさすがにあきれてつぶやく。

「それの実践ができるなら、最後の問題も解き終わってていいはずなんだけど……」

「え~、式にするのは面倒なんだもの~。それに式は今ひとつ分かってないからねぇ~」

 シンジの言葉に、ガイはケラケラと笑って返す。シンジは苦笑しつつも、そんなガイを面白く思っているようで、そのままクスクス笑い出した。そしてその宿題のノートをぱたんと閉じる。

「ええ!? シンジ、もう終わっただか!?」

 シンジの行動にシンがあわてて体を起こした。その様子にシンジはあっけらかんと言う。

「もちろん! で、なかったら、最後の問題が氷の計算式だって、分かるわけないじゃん」

 シンは弟の返答に、せっかく起き上がった上体を再び机に倒れさせる。

「あ~! もう、せっかくシン起きたのにまた寝るんだから~」

「だって……シンジがもう終わっているのに、オラってば、オラってば……ううっ」

 シンジの抵抗空しく、シンはそのまま机に突っ伏してしまう。落ち込むシンをガイはあははと笑い飛ばす。

「いいじゃない~! シンが宿題終わらないのは、いつものことだよ~! むしろいつも通りでいいことじゃない」

「いいわけねーだべ!!」

 ガイの言葉にすかさずシンがつっこむ。そんな二人のやり取りを見て、シンジはケラケラ笑う。シンジは片手にジュースのコップを持ったまま壁に寄りかかる。彼の隣の魔導ランプは、頭上斜め上からオレンジがかった白い光を放ち、部屋の雰囲気はずいぶん暖かく見えた。そのランプをシンジは見つめて、唐突につぶやいた。

「そういえば、さっきご飯のときにフタバくんが言っていた光の石ってどんなだろうね? やっぱり光の石って言うくらいだから、こんな風に光っているのかな?」

 その問いに、いつの間にかケンカを始めていたシンとガイが同時に動きを止める。

「そー言われると気になるだな。光の石なんて、聞いたこともねぇだが……」

「光の石って言うくらいだから、光の精霊族が知ってるんじゃないかな~?」

 シンもガイもそれぞれに口を開く。その言葉にシンジがまたも言葉を続ける。

「光の石って、もしかしたらあるかもしれないんでしょ? 探してみるのは面白そうだよね!」

 シンジの提案に二人とも顔を輝かせた。真っ先に飛びついたのはシンだ。

「賛成だべ! 光の石探ししてみようだべ!」

「でも待ってよ~!」

 ノリノリになった二人を見て、意外にもガイがあわてて二人を止める。

「よく考えてみてよ〜! 神様に捧げたって言われている石でしょ〜? そんな石がホントにまだこの世にあるのかなぁ?」

「あるかもって言われているんだから、案外あるんじゃないの?」

 のんきな返答をしてきたのはシンジだ。

「もしくはずーっと昔の話だから、もう神様も許して、その石を手放してるかもしれないだ! 今はその辺に転がってるかもしれないだべよ!?」

「……」

 さすがのシンジとガイも、シンのその発言には絶句する。

「いや……さすがに転がってはないと思うんだけど~……」

 沈黙を最初に破ったのはガイだ。コホンとせき払いしてガイは話を続ける。

「いくら大昔の魔法アイテムだとしても、超古代アイテムだよ? さすがに転がらせておくような物ではないはずだよ~。だって、神の力を手に入れようとして作った石でしょ~? 相当の力があるはずだって! しかも、今の魔法より数段階上の力があったと言われる超古代文明のアイテムだからね。時がたっても、その力は絶対強いはずだよ~!」

「そう言われれば確かに……」

 ガイの発言にシンジがうーんとうなる。

「そう考えると、案外見つけるのは難しくないかもしれないね。今の世の中にもそういう力のある『魔法アイテム』はあるわけだし、魔鉱石の中にもいろんな種類があるって言うもんね。もしかしたらそういうアイテムの中に埋もれているかもしれないね」

 シンジの発言にガイはうんうんとうなずき、シンはうーんと首をひねってつぶやく。

「力のあるアイテムだべか……。そう考えるとこのセイラン学校には結構そういうアイテム多いだべよ。もしかしたらその中に、隠されているものもあるかもしれないだな」

「たとえば?」

 すかさずシンジが問うと、シンがまたしてもうーんとうなり始めた。しばしの沈黙の後、再び沈黙を破ったのはガイだ。

「……そういえば学校の時計台もそうじゃない〜? あれ、魔導線も魔導電池も何も使ってないよ〜。魔鉱石だって使ってない、かなり古くに作られた時計じゃないかな〜?」

 ガイの言う時計台とは、このセイラン学校の特徴とも言える一番高い塔のことだ。学校の校舎は大きく別けて四つあり、そのうちのひとつが時計台だった。もっとも、この時計台はそれ単独でしかなく、時計を最上階に飾る以外、特に意味のない建物なのだ。

「そういわれれば確かに……。あの時計台の時計、かなり古いよね」

「時計の数字も古代文字だべしなぁ……。……怪しいだべな」

 シンの言葉にシンジもガイもうんうんとうなずく。

「ここは『超古代文明探検隊』の出番だべ!! さっそくあの時計を調べに行こうべさ!!」

「おーっ!!」

 シンの呼びかけに勢いよく二人が叫んだ。この時点で完全にシンとガイの頭からは、宿題が抜け落ちていたことは言うまでもない……。



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