迫りくる影
外では虫の鳴き声が響き、静かな夜だった。満天の星空に大きな満月がぽっかり浮かび、その白い光に照らされて、寮の天井がきらめいていた。窓から差し込む白い光に、窓の外を見上げてガイが天を指差した。
「見てみて〜! 今日は満月だよ〜!」
ガイの言葉につられるように、双子も窓に歩み寄って空を見上げる。
「ホントだぁ……今日はキレイだね」
「夜はだいぶ涼しくなってきて、よかっただな」
「ホントホント」
シンの言葉に弟のシンジは、げんなりしたようにうなずく。
「僕、暑いのあんまり得意じゃないからなぁ。夜はもうだいぶ涼しくて寝やすくなったよ」
言いながら、首にかけたタオルで頭を押さえる。見れば双子は首にタオルをかけ、ガイは頭にバンダナではなくタオルを巻いている。どうやら風呂上がりのようだ。まだ双子の髪は湿っぽい。
夜になり、徐々に静かになろうとしている寮の階段を登り、三人は自分たちの部屋のある階まで上る。部屋の前まで来ると、ガイはまっさきに双子の部屋の鍵を開けた。どうやらガイは鍵当番のようである。
「ハイ、鍵開けたよ〜」
中に入ると、双子はまっさきに机の上に置いてある本を確認する。古びた感じの大きな黒い本――闇の石がはめ込まれている、石を探すために使う地図の本だ。
「本、異常なし!」
本を持ち上げてシンジがニヤリと笑うと、そのとなりでクッションの下から黄色の短剣を取り出して、兄のシンもニヤリと笑う。
「剣も異常なしだべ!」
双子はそう言って顔を見合わせ、また笑った。
「今日も闇の石を無事守れたね」
「いつどこでペルソナやデルタたちが襲ってくるかわからねーだべからな」
「ふふん、全てはボクのおかげだねぇ〜!」
と、ガイが偉そうに腰に手を当ててふんぞり返る。
「こうやって留守中もボクが結界を張っているから侵入者がいないんだからね〜」
どうやらガイは毎回部屋にカギをかけるのと一緒に結界を張っているようである。さすがに結界の技術は双子には無い。逆に戦闘能力こそ皆無に近いガイだが、こういったちょっとしたところでしっかり役に立っているようである。
偉そうに胸を張るガイに、珍しく反発することなくシンがうなずく。
「ハイハイ、ありがとうだべ」
「なんだよ〜! そのお礼の言い方は〜!」
「あはは、でもちゃんと感謝してるんだよ、ガイ」
シンとガイのやり取りに思わず笑うシンジだったが、急にため息をつくと首にかけた石を取り出す。水色の輝きを放つ黒い宝石……闇の水の石だ。本や剣のように形が変わっているわけではないので、シンジの場合は首から下げて肌身離さず持つようにしているようである。
「それにしても、山に帰ってる間はまったく襲って来なかったね」
シンジのその言葉に、シンもうなずいた。
「そうだべな」
「もしかして、他の石を奪いに行っていたのかなぁ……?」
不安げなシンジの言葉に、ガイが口をはさんだ。
「ああ、あと見つかっていないのは闇の炎の石だけだっけ〜?」
「多分……六つって聞いてたからね。ペルソナが持っているのは『闇の闇の石』と『闇の大地の石』……あ、沈んじゃったけどね」
そう言ってシンジが自分の首にかかっている石を指でつまんで見せた。
「で、僕らが持ってるのは『闇の水の石』と――」
「オラが持つ『闇の風の石』、そしてこの本だべな」
と、シンが本を持ち上げたのを見て、ガイが「あ」と声を漏らす。
「そういえばさ〜、この本にはめ込まれてる『闇の石』は、完全な形じゃないんだよねぇ?」
その言葉に双子も思い出したように声を漏らした。
「ああ、そう言えばそうだべな」
「確か、この闇の石は、闇の石なんだけど光の力も持ってるんだよね」
そこまで言ってシンジは首をひねる。
「でもさ、この『光の闇の石』も本で反応出るのかな? 一度も反応見たことないけど」
「完全な形でねーから出ないんでねぇべか? たしかじっちゃんの話だと、この石はくだかれているって聞いたべよ」
シンの言うじっちゃんとは、セイラン学校の校長のことだ。校長から本を渡された時、この石は完全な状態ではなく、くだかれた状態だということを、少年たちは聞かされていた。
「試してみようか」
シンの言葉に、シンジはあの黒い本を開いた。本のちょうど真ん中のページを開けば、案の定あの大きな魔法陣が目に飛び込む。
「やってみるよ……『クワエロ』!」
シンジの言葉に反応して、魔法陣は光り出した。魔法陣の丸い円の中に、今彼らがいる寮の様子が映し出されるが――やはり石の反応はない。
「寮にはないだべな……。また地図を大きくしてみるだか?」
「ていうか、今まで散々この辺りは探したんだからさ〜。今更調べても反応出ないんじゃないの〜?」
ガイのもっともな意見に双子は思わずため息を漏らした。
「それもそっか」
「次はペルソナ……どこに現れるんだべか……」
神出鬼没でいつも行動が予測不可能な謎の人物、ペルソナ――。三人の脳裏にあの不気味なお面の男の姿が浮かんでいた。
「残るは『闇の炎の石』と、この光の力を持つ闇の石の欠片だべな……」
手に握る黄色の短剣を見つめてつぶやくシンに、同意するように弟もうなずく。
「先に奪ってやらないとね! また沈められたら大変な事になっちゃう!」
「たしか……地に沈めることで世界の破壊か何かが起こる……だったっけ〜?」
ガイの言葉に、双子は険しい表情でうつむいた。
「あの湖に沈んでいたお城に書かれていた超古代文字だべな……」
「闇の石の謎を解くためにも……キショウも見つけなくちゃ……!」
シンジの言葉にシンは顔を上げ、双子は顔を見合わせて深くうなずいた。
*****
窓を開け、外を眺める一人の少女がいた。水色の髪を下ろし、青い宝石のような瞳で空の月を見上げていた。初めて来たこの土地でも、空の月は同じように見えるんだなぁと、そんなことに感心していた。
「お嬢様、ミルクティーをお持ちしました」
声がして部屋の扉が開くと、白くて丸い耳をちょこんと頭につけたシロクマの執事が部屋に入ってきた。ここにユキが越してから、彼は彼女の専属執事だった。
「砂糖も多めにお持ちしましたので、お好きなだけお入れ出来ますよ」
繊細な彫り模様がされたキレイなテーブルの上に、手に持ったティーセットを丁寧に置いて、執事はニッコリとほほえんでみせた。
「あ……はい。ありがとうございます」
水色の髪をゆらし、一つおじぎをする少女に、執事はにこにこと頭を下げてみせた。
「まだユキお嬢様はこの土地にきて不慣れでしょう? 困ったときは私、いつでも相談に乗りますから、気軽に相談してくださいね!」
つぶらな瞳できりりと語る執事に、少女も嬉しそうにほほえんでみせた。
「あ……そうでした、ちょっとしたデザートもありました。今お持ちします!」
そう言って、シロクマ執事はパタパタと廊下に出て行った。
一生懸命な執事の様子に、少女も嬉しく思っているのだろう。笑顔のまま、机に置かれたティーセットに歩み寄った。その時だった。
突然背後にひときわ強い風が吹いたのを感じて、少女ははっとした。窓をあけっぱなしだったことを思い出したのだ。手にしたカップを机に置き直し、少女が後ろを振り向くと――
「突然失礼する――」
いつの間にいたのだろう――。背後には黒いマントをゆらし、丁寧におじぎをする白い仮面の男が立っていた――。




