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双子の魔術師と仮面の盗賊  作者: curono
4章 双子のおばけ退治
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初対峙

「あぶねーだっ!」

 呪文が響くと同時に、シンはその短剣を真下に向けてなぎ払う。しかし彼よりも下の位置にマハサとミランがいる。彼らをけて攻撃するしかない今の状態では、魔法陣を壊せないことがシンには分かっていた。魔法陣を壊すにはあの円を切る必要があるのだから――

「うわっ!」

「え?」

 マハサとミランの間を、シンの放った風の刃が通り過ぎる。その次の瞬間、背後を見ようと体をひねった二人は、魔法陣から発せられる光に当てられていた。たちまち瞳をうつろにして、二人が力なく崩れ落ちる。もっとも転送魔法の浮遊が効いているので、崩れたといっても水の上に力なく浮かんでいるような体制だ。

「ええっ!? なに、どうしたの!?」

 突然のできごとにヨウサが叫ぶが、シンは魔法陣をにらんで次の魔法準備にかかっていた。

「多分眠りの術だべ! このままじゃオラたちもこの光にあてられるだっ!」

 転送魔法の浮遊で浮いているシンとヨウサの体も徐々にその高度を下げ、魔法陣が発する光に触れようとしていた。

「むむっ――どうやってあの魔法陣を壊すべか――」

 目下にいるマハサとミランを避けて攻撃する方法を考えようと、シンが唇をかんだ時だった。

「右によけて!」

 その声に反射的にシンは体を右にずらす。

『皓々《コウコウ》!』

 次の瞬間、シンの背後から冷たい冷気が一気に下に駆け抜けた。青白い氷の粒の混じった風が魔法陣に触れたとたん、バキバキと凍る音がして魔法陣が凍てついた。と、同時に魔法陣から発せられていた光も消える。

 間一髪というところで光を回避できたシンは、深く息を吸い安堵あんどのため息をもらす。

「危なかっただべ――」

「え、で、でも今の攻撃は――」

 二人がそう言って上を見上げようとした時、浮遊の魔法が切れて二人は凍りついた魔法陣の上に足を付いた。足元にマハサとミランが横になっているのを確認して、ヨウサが上を見上げながら口を開く。

「一体だれが――」

 と、シンとヨウサが上を見上げたその時だった。

「よっと」

「うわっと!」

 二人のすぐ後ろにかっこよく着地したのは、青いサラサラの髪をゆらす色白の少年、そして不格好ながらなんとか着地したのは緑のバンダナをつけた細い少年だった。

「やっぱり! シンジくん!」

「シンジ!? オメーいつの間にきただべ!?」

 シンとヨウサが背後の二人を見て声を上げる。

「あ、あのボクもいるよ~」

 二人の言葉に口をはさんだのは、名前を呼んでもらえなかったバンダナの少年ガイだ。それにしても、あまりにも唐突とうとつな弟の登場にシンは目をまん丸にして開いた口がふさがらない。

「ふー、魔法陣危なかったね。シンの声が聞こえなかったらあの魔法は使えなかったよ」

 言いながらシンジはにこりとほほえんでみせる。

「シンもヨウサちゃんも怪我はない? 無事でよかったー!」

「オラもヨウサも無事だべ! でも、マハサとミランはあの魔法をくらっちまったみたいだべ……」

 シンが足元に横たわる二人を見て唇をむと、ガイが寝ている二人をのぞき込んでうなずいてみせた。

「大丈夫、ただの眠りの術みたいだから、医務室で治癒魔法をかけてもらえればすぐ目覚めるよ~」

 ガイの言葉にヨウサもシンも心底ほっとしたような表情をする。

「それならよかったわ……。あ、ガイくんも来てくれてありがとね」

「だから、さっきからいたじゃないか~!」

 今更ながらの言葉に、ガイが憤慨ふんがいする。

「それより、おめーら一体どうやってここに来ただ? オバケにおめーらも捕まっただべか?」

 シンが疑問を口にすると、ガイが偉そうに胸を張る。

「へへん、このボクが入口を見つけたのだ~!」

「そうなの、闇の石の本で見たら、あそこの地下に地下室があることがわかったから、地上で入口を探してたんだ。あそこの石に超古代文字が書かれていて……どうにも入口がありそうだったからガイと謎解きして、なんとかここに来れたってわけ」

 ガイに続けてシンジも手短に説明する。それにうなずいてガイが補足するように続ける。

「上のあの原っぱの広場ね~、あれこの地下への入口だったんだよ~! 入口を開くコツは、二つの柱に炎の力と水の力を示すことだったみたいなんだ~。もっとも、柱は倒れちゃってて、はじめ柱だと気がつかなかったんだけどねぇ。ま、入口と気がつけたのも、闇の石の本のおかげだよね~」

 その説明に納得いったらしいヨウサが深くうなずく。

「闇の石の本かぁ。確かにそれなら地下も見れるものね!」

「闇の石――あ! そうだべ! 本を貸してくれだ!」

 ヨウサの言葉に思い出したようにシンが声をかける。その言葉に弟が首をかしげる。

「え、どうしたの? ここで本なんか使う?」

「ここにエプシロンがいただ! もしかしたらここにも闇の石があるかもしれないだべ!」

「あ、そうだった! 確かに地上で見た時――」

 兄の言葉に、シンジが目を丸くしながらもかばんをあさり出す。

 その時だった。

「その通りだ。ここに闇の石はある」

 答えたのは、シンでもヨウサでもない。威圧的な響きがある、しかし幼い声だった。ハッとして四人は声のする方を向く。

 その時になって、今彼らのいる場所がどんなところなのかが分かった。

 黒い光沢のある石の床に壁、石の天井――シンたちが今まで通ってきた道と似てはいたが、この部屋は随分ずいぶんと広い。だだっ広い石の床が広がった四角い空間だった。暗い雰囲気こそは変わらないが、石の光沢とその部屋にある柱の数々で、ここの雰囲気は随分ずいぶんと厳かなものになっていた。黒い空間はやはり壁に埋め込まれた白い光で照らされていた。

 彼らがいる足元には大きな魔法陣が描かれており、彼らの立っている足元部分にだけ、凍らされていはいたが、小さな光る魔法陣が付け加えられたように描かれていた。おそらくエプシロンが付け加えた罠なのだろう。

 少年たちの目の前には高い段差の祭壇らしきものが見え、その中心に四角くくぼんだ部分があるのが見てとれた。

 そのくぼみの手前――そこにひとりの人物が立っていた。

「あいつは――」

「誰だべ?」

 双子はその姿を見るやいなや、思わず首をかしげた。

 無理もない。彼らの視線の先にいる人物は、初めて見る人物だったのだ。しかもどう見ても自分たちより幼い子どもにしか見えない。茶色の髪に白っぽい服を着て、腕組みをしてこちらを見て立っている。

「だあれ〜、あの子ども」

 ガイが彼を見て首をかしげると、視線の先にいる子どもが口を開いた。

「お前たちか。ペルソナ様にたてつくという生意気な子どもは」

 見た目の割に生意気なその口調に、思わず双子がカチンとくる。

「むっ。子どもに子ども呼ばわりされたくねーだ」

「ペルソナ様ってことは――お前もペルソナの部下だな!?」

 双子の言葉に、茶色頭の幼子が口の端をゆがめて笑うのが見えた。

 よく見ればひたいに丸い緑の宝石が埋め込まれており、腕組みするその手の甲にも同じものがはめられている。デルタやエプシロンと色と雰囲気こそは全く違うが、彼のその容貌は似ているところがあった。

 見た目の割に不気味な表情をする幼子に、二人の脳裏にキショウが浮かんでいた。小人の割に生意気だったキショウは、あれで自分たちより年上だった。そう考えると今目の前にいるこのペルソナの部下も、姿こそ子どもだが中身はそうとは言い切れない。

「お前たちのことはデルタやエプシロンからもよく聞いているぞ。カンナシン、そしてシンジ、と言ったな」

「そうだべさ!」

「お前は何者だ!?」

 双子が構えながら問いかけると、幼子は腕組みをといて、その小さな両手を握り締めるとまっすぐに立って彼らを見下ろした。

「私はペルソナ様の第一の部下――オミクロン」

 丸いあごのラインの上で小さな唇をゆがめ、幼子は不気味にほほえんでいた。




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