地下室への謎
彼らの足元に地下室があると分かったシンジとガイは、古びた本を目の前にあれこれと話し合っていた。
「地下室があるってのはわかったけどさぁ、これ一体どうなってるんだろうね……」
本の魔法陣の中に描かれた地図をにらみながらガイがつぶやく。
「うーん……。どう見ても、入り口が無いんだよね……」
青い髪をさらりとこぼすように首をかしげ、シンジがうなる。
「どう見ても、地上に繋がる道はないよ。そういう通路が全く見えないもん」
シンジはそういいながら地図を指さす。
「……と、なると、この地下への場所はワープの魔法か何かで入るしかないんだろうね~。そもそもシンが消えた時だって、オバケに連れ去られたわけでしょ~?」
寝てるのか起きてるのか分からないその細い目の表情で問うガイは、とても真面目な風には見えない。しかしそれが彼の精一杯の真面目なのだと思うと、それがおもしろくて、シンジは思わず口を押さえるようにしてうなずく。
「多分ね……」
笑いをこらえるシンジに気がついて、ガイは顔を上げるが、今はそれをつっこむ気持ちはないようだ。怪訝な表情をしながらも首をかしげてため息をつく。
「いっそのこと、ボクらもそのオバケにつかまってみる~?」
「えー、それでシン達も捕らわれていたら、ダメじゃない。僕たちまで捕まったら、それこそ『ミイラ取りがミイラになる』でしょ」
ガイの提案にあっけらかんとシンジが答えると、ガイもそうだよねぇ、とまたため息。
「じゃあ他に入り方ないかなぁ……」
ガイの言葉に、シンジはふうとため息をついてまた地図をいじりだす。小鬼から教わった呪文を使いながら、地図を大きくしたり小さくしたりしながら、地下室の様子を探る。
「うーん……そもそもさ、一体この地下室はなんなんだろうね? まずそこから知りたいよね。…………ん?」
言いながら、地図をうんと小さくしたとき、ふいに魔法陣の周りの絵が一瞬動いた。思わずシンジは動きを止める。それに気がついたガイが地図から目を放してシンジを見る。
「どうしたの~?」
「……いや、ちょっと待って……。今、魔法陣の回りの闇の石の絵が反応したような……」
つぶやくや否や、シンジは呪文で地図を更に縮小する。呪文に反応して魔法陣の中の地図がずんずん小さくなっていく。ついに円の中に描かれた地下室の全貌が見えてきた。下にずっと続いている地下室は思いのほか深く作られているようだった。その地下室の最下層が映し出されたとき――シンジの予想通り、本の絵が反応したのだった。
「でたっ!!」
「闇の石だぁ~!!」
二人はその反応に顔を見合わせた。二人に思わず緊張が走った。まさかここで新しい闇の石の反応が出るとは思わなかったからだ。地図の変化とともに反応を示したのは、黒い闇の石の絵だった。ゆらゆらと黄色の闇の石と交互にゆれながら光るその絵は、今までの石よりもずいぶん怪しげに見えた。黒い絵が黒い光を放つその様子に、二人はしばらく無言で本を見つめていた。
「……新しい闇の石だね……。黒い石って、一体なんの石だろう?」
つぶやくように問うシンジの言葉に、ガイは首をかしげる。
「確か……闇の石には六つの属性があるって、言っていたよねぇ……」
ガイの言葉にシンジはうなずく。
「うん、まず学校の時計が大地の属性だったでしょ。で、シンが今持っているのが風の属性、そして今僕が持っているのが、水の属性……。そうなると、残るのは……?」
「一般的な属性で考えたら、まずでてくるのは四大属性だよねぇ。火、水、風、大地……。そう考えると、炎って考えてもいいけど――どう見てもその属性の石とは思えないねぇ」
言いながら地図を見てため息をつくガイに、シンジがはっとしたように息を飲む。
「……待ってよ、ガイ。そういえばこの本の属性って、闇の石だけど光の力も持つ、光の闇の石でしょ? ……だとしたら、光の反対の闇の力を持つ石があっても、おかしくないんじゃない?」
その言葉に、ガイも垂れていた頭を勢いよく持ち上げて口を開く。
「そーかぁ! そういえば闇と光の属性もあったよねぇ……。――え、でも、闇の闇の石って……どういうこと?」
「そんなの、僕だって知らないよ」
ガイの反射的な質問に、シンジは肩を落とす。しかしすぐにその表情を険しくすると、その青い瞳を強く光らせて言葉を続けた。
「でも、ここに闇の石の反応が出たってことは……今回の事件も、ペルソナが関わっている可能性って高いよ」
その言葉にガイも緊張した表情でうなずいた。シンジは言葉を続けた。
「そうと分かれば、なおのこと僕らも急いで地下に行かなくちゃ! はやく行かないとまたペルソナがこの闇の石を手に入れて、悪いことをするかもしれないもん!」
「そうだねぇ〜! なんとか入る方法を考えなくちゃあ…………あ」
と、唐突にガイはまぬけな声を上げる。シンジがそれに首をかしげると、ガイは思い出したようにぽんと手を打った。
「そういえばさ〜、トモが消えたかもしれないって言ってた場所、あそこってちょっと妙なんだよねぇ」
言いながらガイは場所を移動する。シンジは疑問に思いながらも、両手に広げた本をそのままにガイの後に続く。
「どうしたの?」
「あそこねぇ、奇妙な模様があるんだよ~」
相変わらずなまぬけな声でガイは答えると、そのまま開けた場所に立つ。奇妙な石がごろごろしているこの草原の中で唯一、石の散乱も少ない草の短い場所だ。ガイに続いてその場所に足を踏み入れたシンジは体をよじって本から頭を右にずらすと、そのまま地表を見つめる。短い草に紛れて足元に広がっているのは、ひび割れて、かろうじて形を残している石畳だ。草の隙間から見えるその石畳の石は、ずいぶん黒く見えた。
「ここ? ここがどう怪しいの?」
地面を見つめながらシンジが問うと、ガイはその広場に突き出た一本の石の前で立ち止まっていた。それに気がついたシンジはその石に歩み寄りながら、兄の言葉を思い出していた。
「ああ、その石、確かトモがやたら熱心に調べていたって石でしょ?」
シンジの言葉に、ガイはうなずいた。
「そうらしいよねぇ。でね、この石ホントに変なんだよ~。シンジも見てよコレ」
そう言ってガイが石を指差す部分に、シンジは目を凝らした。黒い石は何かが掘り込まれているようで、近づいてみると奇妙な模様がいくつも描かれていた。
それに初めて気がついたシンジは、思わず口をぽかんと開けてそれに見入った。
「うわぁ……へんな模様……。一体これなあに?」
シンジの言葉にガイは首をかしげる。
「ボクだって分からないよ~。でも、もしかしたら」
と、ガイはシンジの方を振り返った。
「何かの魔法の仕掛けかも」
その言葉にシンジは石を下から上まで、見上げるように眺めた。足元から突き出た長方形型の黒い石はずいぶん長い。地面から天辺に至るまで、細々と書かれた細い線のような模様に気がついてシンジは首をかしげた。
「……これ……模様っていうより……文字っぽい――あ」
と、そこで両手に抱えた本を見る。そして本と石を交互に見比べること数回、恐る恐るシンジは口を開いて言葉を続けた。
「……まさかとは思うけど……。ガイ、これ……超古代文字じゃないよね……?」
その言葉にガイは予想外に落ちついてうなずいていた。
「いやぁ……ありえると思うよ~。初めはまさかとは思ったけど、新しい闇の石の反応が出たワケだしさぁ……。これ、前にシンとシンジが行ったっていう、水の中にあった神殿と同じなんじゃないかなぁ」
思わず本を掴む両手に力が入って、急な発見に心臓がドキドキと脈打つ。シンジは石の天辺を見上げた。くだけかけた長い石は、まるで柱の残骸のように見えた。
「だとしたら、これは神殿の跡なのかな……」
「いや、神殿は地下にあるあの地下室じゃないかなぁ?」
シンジの言葉にガイは首を振って続ける。
「地下室は本で見るとずいぶん大きいじゃない? でも、このボクらのいる場所ってちょっとそれと比べても小さすぎる気がするんだよねぇ~」
二人は自分達がいる原っぱを見渡した。長い草の隙間から頭を出す黒い石は、確かにちらばっているものの、原っぱ自体は決して大きくはない。シンジは湖の底にあった神殿を思い出していた。
「……そういわれてみればそうだね。あの湖の神殿もかなり大きかったし……。それと比べたら小さすぎる気がするね」
でもすぐに疑問も浮かぶ。
「だとしたら、ここって神殿と何のつながりが……?」
「――それこそ、神殿の入り口なんじゃないかなぁ……」
シンジの問いにガイはそういって、シンジから左手の方に移動する。少しはなれたその場所には、シンジが見上げていた長い石と同じように、長方形型をした長い石が横たわっていた。草に隠れて見えないが、その長さは今シンジの隣にある石と同じようにずいぶんと細長い。
「ボク、さっきからこの原っぱの石を見て周ってたんだけど、この二つの石だけなんだよねぇ、文字っぽい模様っぽいのが描いてあるのは〜」
ガイがそんなことを調べていたのかと思うと、シンジは感心でため息が漏れた。
「へぇ、ガイってその目の割には意外によく見てるねぇ」
思わず口をついた言葉にガイはほほを膨らませて抗議する。
「失礼な! ボクはいつだってしっかり見てるじゃないか~!」
「ゴメンゴメン。――で、この石二つは一体なんなの?」
怒る友人を笑ってなだめると、ガイはすぐに真剣な雰囲気に戻ってあごを押さえた。
「多分なんだけどねぇ。地下にあの奇妙な地下室、入り口もないわけでしょ~? 道がないけど、入る方法を残しているとしたら……どこかにワープの魔法を残しておくんじゃないかなって思うんだよねぇ」
「もしかして……ここにワープの魔法があるってこと……?」
ガイの言葉に続いてシンジはつぶやいた。二人は横たわる黒くて細長い石を見つめていた。石の表面を埋める細い文字のような模様は、曇り空に隠された薄い日の光を反射して、静かに光っていた。




