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双子の魔術師と仮面の盗賊  作者: curono
4章 双子のおばけ退治
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つかみかけた糸口

「どうしよう~!! シンたちが石の中に消えちゃったよ~!!」

 いつもはケラケラと笑ってばかりいるシンジが、珍しく今にも泣きそうな声で石の前に立ち尽くしていた。ただ事ならぬ出来事に、ガイもケトも打つ手が浮かばない。

 ガイとケトが、ヨウサのとミランの悲鳴に気付いてその場所に来たとき、すでに四人は影に飲み込まれた後だった。影は見ていないが、急に消えたクラスメイトの行方に、二人も唖然あぜんとしていた。

「ホントに……ホントにオバケだったんだな……! ま、まさか……トモだけじゃなくマハサたちまで消えちまうなんて……」

 ケトはひとり言のようにつぶやいて震えていた。立て続けに、こうも友人が消えてしまうとは予想していなかったのだろう。ケトはこぶしを握り締めて唇をんだ。

「やっぱり、オレ達の勘は間違っていなかった……ホントに危険なオバケだったんだ……! オレが……もっとはやくちゃんと先生達に言っていればよかったんだ……!そうすれば……マハサだってトモだって……!」

 そこまで言って、ケトは地面にひざをついてその腕で力いっぱい地面を叩いた。小さく鈍い音が響いて、その地面がこぶし分へこんでいく。

「ちくしょう!! ……ちくしょう……!!」

「――今からだって遅くはないと思うよ」

 後悔の念に駆られているケトに、珍しくガイが真面目に声をかけた。

「今から先生達にこの事を話せば、きっと何か無事に助けられる糸口がつかめるんじゃないかなぁ〜」

 いつもと違う真剣な声色のガイに、ケトは心を動かされたのだろう。しゃがんだままの体勢はそのままに、無言で唇を硬く結んでいた。

 ――が、ふいに立ち上がると大きく息を吸った。

「そうだよな……! こんなところで泣いてたってどうしようもない……! よし! 先生んとこに行ってこよう!」

「そうだよ~! きっとレイロウ先生ならボクらの話をちゃんと聞いてくれるよ~!」

 ケトの発言にガイも同意してうなずくと、ケトはガイを見て力強くうなずいた。

「よし……! ひとまずオレはすぐ教室に行って、レイロウ先生に助けを求めてくる。ガイとシンジはどうする?」

 その問いかけに、ガイがもちろんボクも行く、と言い出そうとしたのとほぼ同時だった。シンジは落ち着いた声で答えた。

「僕はここに残るよ」

 その言葉に一瞬反抗しようとガイが口を開くが、すぐにそれは飲み込まれた。先ほどまでの泣きそうな表情が今はない。鋭い眼光で石を見つめる、幼いながら強い意思を秘めた少年の姿がそこにはあった。

 その姿を確認して、ガイの考えも変わったのだろう。一瞬の間を取って後、決心したように息を吐いてケトに向き直った。

「やっぱりボクもここでシン達をもう少し探してみるよ~。先生呼んでくるのはケトに任せる~」

 その二人の言葉にケトは一瞬表情を曇らせるが、二人の表情が何かを決意したそれであることを悟ったのだろう。深くうなずくと一歩後ろに踏み出しながら二人に声をかける。

「お前らまで無理はすんなよ? あれだ、その……ミイラ取りでなんとやら、だぜ?」

「それを言うなら『ミイラ取りがミイラになる』でしょ~」

「僕達は大丈夫。先生早めに呼んできてよね! 待ってるよ!」

 ケトの心遣いに二人が笑ってそう答えると、ケトは大きくうなずいて足早にその場を去っていった。


「――で、シンジ……。何をどーするつもりなの~?」

 ケトの後ろ姿を見送ると、ガイはシンジに向き直って問いかけた。

 ガイはシンジの表情から、彼が何か策を持って、シン達を助け出すために行動を決心したことを悟ったのだった。大分二人と過ごす時間が増えてきて、ガイにも双子の本質は大分つかめるようになっていた。

 (シンもシンジも、いつもは泣いたり笑ったり落ち着きないのに、こういういざって時は、本当に下を向く時間が少なくて、ちょっと感心するなぁ……。)

 ――なんて、二人が聞いたら何を偉そうに、とつっこまれるようなことではあったが、ガイは内心そこに感心していた。

 シンジはガイの問いに一言うん、と答えると、わずかに頭を垂れて考え込むようにつぶやいた。

「あの影、地面の下に流れていったんだ。石を伝ってそのまま地下に行ったっていうか……。だから、もしかしたら、ホントにシンが言っていたみたいに地下室があるんじゃないかと思うんだ」

「地下室~!? ……ホント? ホントにあるかなぁ……」

 シンジの回答に若干不安そうなガイだったが、シンジは真剣にうなずいてみせる。

「見てみれば分かるんじゃないかな……これでさ」

 と、かばんから取り出したのは黒い古びた一冊の本――!

「ああ! 闇の石の地図!!」

 そこでガイも納得が言ったように大きな声をあげた。

「そっか、その本なら……」

「そう、地下だって見ることが出来る……。もし本当に地下にシンがいるのなら――」

 言いながらシンジは本のちょうど真ん中のページを開いた。見開きで描かれた大きな魔法陣がシンジの目に飛び込む。

「シンの持っている闇の風の石に反応するはず……! ――『クワエロ』!!」

 シンジの言葉とともに、魔法の本は反応を始めた。描かれた魔法陣は光りだし、その円の中に現在位置を示しだす。

……しかしそこに闇の石の反応は無い。

「やっぱりここ……地表には出ないねぇ~」

 本をのぞき込むようしにてガイがつぶやくと、シンジは目線を本に注いだままうなずいた。

「やっぱり地表じゃないんだ……。――地下があるのかどうか……『アルトゥム』!!」

 シンジは大きく呪文を唱えた。雨の日に出会った、あの小鬼から教えてもらった新しい呪文――!

 その呪文に呼応して、魔法陣は再び光った。そしてその円の中の地図はまるで浮かび上がるようにその形を変化させていった。二人の見ている目の前で、魔法陣の中の地図は見る間に立体化していく。現在位置の山の高さが分かるような高さになったとき、魔法陣の回りに描かれた石の一つが光り始めた。

「――あ!」

「闇の風の石……! シンだね!」

 その反応に二人が顔を見合わせた直後だった。再び二人が目線を本に戻したとき、思わず息を飲んだ。

「こ、これは――?」

「もしかして……」

 シンジの両手に抱えられた本の真上に、それははっきりと映し出されていた。魔法陣の中に描かれた地図には、山の中に人工的な直線で描かれた何かがあることを映し出していた。

「本当に山の下に……何か地下室がある……!」

 シンジとガイは顔を見合わせて息を飲んだ。




 暗くて細い通路を進んで行くにつれ、四人はだんだんと現状がつかめてきた。四人が進む通路の左側にはライトの埋められた黒い石の壁が続いて、逆の右側には牢屋が続いていたのだが、進むにつれて、その牢屋の中にちらほらと人の姿を確認できるようになって来たのだ。しかし――

「……また寝てる……」

「ホントね……。起きてる人、いないんじゃないかしら……」

 右手の牢屋をのぞき見ながらミランがつぶやくと、ヨウサも怪訝な表情でうなずく。

 そうなのだ。進んでいくにつれ、牢の中に人影も見えてきたのだが、見つける人誰もが眠っているのだ。捕らわれて寝ている人は様々だ。行商人のような格好をした人もいれば、いかにも旅人らしい人もいるし、町の人と思しき人もいた。

「やっぱり、ケトの言ってた行方不明になっていた旅人たちだべかな……」

 また新たに見つけた、捕らわれの人をのぞき込みながらシンがつぶやく。

 初めは見つけた人たちも助けようと、起きるように彼らも呼びかけたのだが、誰一人とて目覚めない。この眠り方が普通ではない事に気がついたのは、しばらくしてからだった。どうも魔法がかけられているようである。

「これはホントにやばいぜ……。これ、ホントに食べるために捕らえて、眠らせてるんじゃねーか?」

 マハサがその黄色の耳を緊張でぴんと立てたままささやく。その言葉にミランはヨウサにしがみつくが、ヨウサはため息混じりに首を振る。

「オバケが人を食べるかしら? 魔物ならわかるけどさぁ……」

「でもさ、人を眠らせるような魔法を使うとしたら、魔物にしてはちょっと……考えにくいだろ?」

 ヨウサの言葉にマハサがそう抗議すると、ヨウサは、まぁ……と口ごもる。

「ま、どっちにしてもこの地下を見て周らねえと、犯人も出口も見つからねえだべ」

 先頭を歩くシンはのん気にそう口をはさむ。

 その時だ。

 急に四人の前方の空間がゆらめきだした。それにいち早く気がついたシンが立ち止まって、後ろの三人を止める。

「ん? どうした、シン?」

「あ……! あの感じ……」

 シンの行動に、マハサとミランは首をかしげるが、前方の空間がまるで水面のようにゆらめいていることを察して、ヨウサは息を飲む。

「何か……もしかして出てくる?」

 ヨウサがそうつぶやいた直後だった。そのゆらめく空間の水面からまるで浮かび上がるように現れたのは――水色の髪に白い服装をして、その額にダイヤ型の魔鉱石を埋め込んだ美しい女性だった。

「エプシロン!!」

 その姿を何度か見ていたシンが、たちまちその手に短剣を構えて女性の名を叫ぶ。彼女の姿を過去に見ていたヨウサも、緊迫した表情で身構える。

 その二人の様子にマハサとミランは意味が分からず、思わず二人を交互に見る。

「え? ええ? な、なんなんだよ、あのきれいな女の人……? まさかオバケ?」

「え、シンくん、知り合いなの?」

「あんなの知り合いでもなんでもねーだべ!」

 ミランの言葉にシンがとんでもない、という風に声を荒げる。

 そんな四人の様子に、エプシロンは開口一番ため息をらした。

「あらいやだわ……。反応があったから来てみたのに……またあなた達とはねぇ」

 そう言ってエプシロンは両腕を胸の前で組んで、またため息をついた。

「ことごとく邪魔してくれるわね……」

「――ってことは、ここにもあるのね? あの石が……!」

 エプシロンの言葉に、ヨウサが気付いたように声を上げると、それに気がついたシンもはっと息を飲む。

「そうだべ……! おめーらがいるってことは……! そういうことなんだべな!?」

 シンの言葉にエプシロンは妖艶に微笑んで口を開いた。

「あら、お子様のくせにずいぶん察しがいいのね。――『ソムニウム』!」

 攻撃は突然だった。急にその片手をシン達に向けて彼女は呪文を唱えた。たちまちエプシロンの手の甲に埋められた水色の魔鉱石が光を放ち、同時に奇妙な白い光が空間を波打つようにしてシン達に向かってきた。

 しかしシンの攻撃は速かった。エプシロンが動くのと同時に、すでにその短剣を二、三度なぎ払っていた。

鎌鼬かまいたち!』

 呪文とともに短剣から発せられた風の刃は、エプシロンの放った白い光の波を拡散かくさんさせながら彼女に襲い掛かる。

 だが風の刃が届く頃には、エプシロンはまたあの空間のゆがみに体を沈めていた後だった。石が落ちた水面のように空間がゆれると、そのゆれる空間を風の刃が通り抜けていってしまう。もう転送魔法の効果が切れているのだ。

 その様子に気がついたシンは思わずまゆをしかめる。

「むっ! 逃げ足が速いだな……!」

 悔しがるシンのその頭上でぼんやりとエプシロンの声が響いた。声だけをこの場所に飛ばしているのだろう。

「まもなくわたくし達の仕事が終わるわ。それまでにここを抜けられるかしらね……。ウフフフフフ……」

 挑発的に笑う女の声は、そこでかすれるように切れた。

「……まさか、ここで再会するとはね……」

 しばしの沈黙をはさんで、緊張を解いたヨウサがつぶやくように言った。その言葉にシンもうなずきながらその短剣をしまう。

「そうだべな……ただのオバケの地下屋敷だと思っていただべが……。これは――ここにもあるのかもしれないだべ」

「え、ちょっと待てよ、何の話なんだよ?」

 ヨウサとシンの会話を聞いていたマハサが、困惑こんわくした表情で会話に割って入る。その時になってシン達の調査隊の話をしてしまっていた事に気がついたヨウサが、あ、と気まずそうに動きを止める。

「も、もしかしてあの女の人、敵? シン達の敵なのか?」

「あ、そうだべよ、敵だべ!」

 マハサの問いにシンは、あっさりとうなずいてみせる。

「オラ達の――あがっ!」

 それ以上の言葉は続かなかった。シンの口をヨウサが真正面から両手で押さえ込んだからだ。勢いよくふさいだものだから、ふさがれた、というよりは正面からなぐられたような形になったシンはそのまま後ろへよろめく。

「――っと、これは秘密の活動だからマハサにも秘密っ!」

 と、笑顔でごまかすヨウサだが、マハサの好奇心がそれで止まるはずが無い。

「ええっ!? なんだよ、ここまできたら白状しろよ!」

「気になるー! シンくんたちの活動に関係するんでしょ!?」

 今まであっけに取られていたミランも、ヨウサに詰め寄る。ヨウサはそんな二人にぶんぶんと首を振った。

「ち、ちがうよ! 私たちの活動とは関係ないのよ!」

「うそ~!」

 真っ先にミランが否定すると、マハサも続いて声を荒げる。

「明らかにあわててたじゃんかよ! あの女もシン達の調査隊とかいうのに関係してるんだろ? 絶対に!! なんだ、悪者退治なのか!? なあ!?」

 二人に詰め寄られてヨウサがあわてていると、その背後で痛みに悶絶もんぜつしていたシンが鼻と唇を真っ赤にしたまま、握りこぶしをあげて立ち上がった。

「だぁあああ! ヨウサ! ここは仲間割れしている場合じゃねぇだべさ! さっさと奴らの野望を――あがっ!!」

 せっかく立ち上がったシンは、再びヨウサの平手打ちに沈んだのだった……。



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