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双子の魔術師と仮面の盗賊  作者: curono
4章 双子のおばけ退治
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謎の牢屋

「きゃあ!」

「うわあ!」

「わーーー!! ……って……いてっ!!」

 悲鳴とともに、まずミランが、続いてヨウサが、次にマハサが落下して、そのまま黒い石の上に激突した。といっても高さがそんなにあったわけではないようで、尻もちをつく程度のようだったのだが。

「がぁあああ……っとうん?」

 最後にシンが落下してくるが、シンはすぐにふわりと宙に浮かび上がった。見ればその身にまとった服の中心の魔鉱石を光らせていた。どうやら影から開放されると同時に飛び上がるつもりだったらしい。

 しかし、場所も分からずに急に浮かび上がったものだから、そのまま頭部を天井に打ち付ける。ゴンという豪快ごうかいな鈍い音が響いて、シンは浮いたまま頭を押さえ込む。

「いってーだ……って……むん? ……天井……?」

 そこで改めて冷静になって周りを見渡してみた。先ほどまでの草原はどこへやら。視界は暗く、一瞬ではあったが目が慣れるまで時間がかかった。目を細め、だんだん目が慣れてくると、今自分たちがいる場所がどんな場所なのかが分かってきた。

 そのでこぼこがなんとなく分かる黒い石の壁、同じく石の床、石の天井。四方八方、石の壁に囲まれているのかと思いきや、左手の方から、うっすらと光がれているのが分かる。しかしその光はゆらゆらとその石の壁を照らす程度で、とても頼りない。光を発している光源そのものは石の壁にさえぎられ見ることはできなかった。

 思わずシンがそのまま光の方向に近づくと、その光と自分の間に数本の細い棒がある事に気がつく。そこで目線を左に流して始めて気がついた。

「……これって……」

「牢屋かしら……?」

 シンの言葉をヨウサが続ける。隣のミランを抱きしめるようにしてしゃがんでいるヨウサの顔は、どこかほっとしているように見えた。

「ひとまず、ミランもマハサくんもシンくんも無事ね。よかったわ……」

 そう言ってヨウサは立ち上がると、シンのそばに歩み寄る。それに気づいてシンも浮かんでいた体の高度を落として地に足をつける。

「一体これ、どういうことだべ?」

「うーん……影に飲まれて、ここにいるってことは……影の体内……とか?」

 言いながらヨウサは周りを見渡して苦笑してみせる。

「――なワケないか。どう見ても何かの建物よね」

「……地下室……じゃないかな?」

 突然つぶやいたのはミランだ。思わずシンとヨウサが彼女の方を向くと、ミランはおずおずと立ち上がった。そしてヨウサとシンの間に入るように歩み寄ると、目の前の柵を両手でつかみ、道の奥を探るように見つめた。

「もしかして……あの影って、魔物でもオバケでもなくて……わなだったんじゃないかな?」

わな?」

 ミランの言葉にヨウサが首をかしげる。

「うん、ここに人を捕らえるための罠、だったのかも……」

 その言葉にシンは周りをぐるりと見渡す。せまい石の部屋に金属製の柵。殺風景なそれはたしかに牢屋以外の何物でもないだろう。

「確かに、あの影、闇の力は感じただべが……生き物って感じではなかっただべなぁ……」

「それより、どーすんだよ? このままじゃオレたち、捕まったままだぞ?」

 落ちてきたときにぶつけたらしいお尻をさすりながら、マハサが困った表情で声を荒げる。

「そうだべな、まずはここから出ないといけないんだべが……」

「上から落ちてきたような感じはあったんだけど、天井にはどう見ても穴はないわよねぇ」

と、ヨウサが天井を見上げる。確かにここに落ちてきたのなら、天井に穴くらいありそうなものだが、そんな形跡は微塵みじんもない。

「オラも頭ぶつけたくらいだべ。……天井には抜け道はなさそうだべな……」

 シンはその頭をなでながらつぶやく。ぶつけた部分がさっそくれ上がってきていた。

「それじゃどーすんだよ? こんな牢屋に閉じ込められて……も、もしかして、オバケに食べられるんじゃ……」

「そんな……やだっ、やめてよ~! こ、怖いじゃない……」

 マハサがぶるるっと身震いしてそんなことを言うものだから、ミランまで隣のシンに身を寄せて身震いする。

「そうなると……だべ……」

 赤髪の少年はそこで目線を鋭くした。柵から石の壁、道の置くまでその視線を泳がせる。腰のベルトから下げた短剣を取り出すと、その剣先で軽く壁や柵を叩く。

「何してるの? シンくん?」

 その様子にヨウサが思わず首をかしげると、シンは振り向きもせずに言う。

「抜け道ないなら作るしかねぇべ? 壊れそうなところ探してるんだべよ」

「へぇ~。シンくんてば頭いいわね、意外と」

 素直に感心してヨウサが言うと、シンはふふんと鼻息荒く答える。

「何を今更いまさら言ってるんだべ? オラは始めから頭いいだべよ?」

「いやいや、オレとテストのビリ争うくらいじゃん」

 こっそりつっこむマハサである。

「……む、ここだべ」

 音の違う部分を見つけたのか、シンは不意に柵の一つを丁寧に叩き始めた。金属同士の衝突するカンカンという小さな音を、しばらく石の部屋に響かせていたが、何か確信を得たらしいシンは、大きくうなずくと、その短剣を一度地面に向けて降ろした。

 そして大きく息を吸い、狙いを定めて剣を構えると――

鎌鼬かまいたち!』

 呪文とともに短剣をなぎ払った。たちまち剣先から剣の閃光に合わせて風の刃が飛び出した。その至近距離で発動した刃は、一瞬空間の空気をさらうが、それもつかの間。見えない透明な刃は金属の柵の一つに激突すると、耳をつんざく高い金属の破裂音を響かせた。思わず耳をふさぐ少女二人の目の前で、柵の一箇所は牢屋の向こう側へと突き出すように変形していた。もちろん、その柵の一部は切断されていた。

「よし、これくらいの隙間なら、外に出られるだべよ!」

 と、得意げに短剣をしまうシンにヨウサが満面の笑みで片手を高々と上げると、シンもそれに習って、二人はハイタッチする。

「さっすが、シンくん! やるじゃない!」

「当たり前だべ! これくらいオラには朝飯前だべ! さ、出るだべよ!」

 と、シンはまず自分がその柵の隙間すきまをするりと通り抜ける。続いてヨウサが、続いてミランがヨウサの手を借りて出て、最後にマハサも外に出る。

 全員が出るまでの間、シンはきょろきょろと辺りを見渡していた。牢屋から出たといっても、もちろん外ではなく、細い石の通路。ゆらゆらと牢の中を照らしていたのは、壁に埋められた奇妙な丸い玉だった。うっすらと白く光るそれは、魔法で作られたライトだろうか。その光は細長い通路の壁に等間隔に配置されていて、やはり暗い通路を頼りなく照らしていた。

 不安定な光に照らされて見える通路は、ライトの向かい側にシン達がいた部屋と同じように柵が見えた。もしかしたら同じような牢屋が続いているのかもしれない。しかし、この空間には、彼らの動く音や吐く息の音しか聞こえない。誰もいないのだろうか。

 左を向くとすぐに行き止まりだったが、右を向くと通路は先へと続いているように見えた。先の道が見えずに目を細めるシンの後ろで、ミランがライトの呪文を唱えた。

「お、ミラン、ありがとだべ。ひとまず……こっちに行ってみるだか?」

「そうね、出口に向かっていればいいけど……。ところでここってホント、どこなのかしら?」

 シンの言葉にヨウサがそう質問を逆に投げかけると、シンは首をかしげる。

「さっぱりだべな。でも、落ちてきたってことは、ホントに地下室でねーべか?」

「影に引きずり込まれた時、地面にもぐる感じだったもの……。私も地下室だと思う」

 シンの言葉にミランが同調すると、シンは力強くうなずく。

「オラの勘があってた可能性は高いだべな」

 そういえるのは彼の自信過剰な性格ゆえなのかもしれないが。

「て、ことは、オレの言ってた可能性もますます高いんじゃねぇか? ホラ、あの石の残骸、実は屋敷の残骸ざんがいでさ。やっぱりこの屋敷に引きずり込もうとしていたオバケだったんだよ!」

 続けてマハサが言うとシンは同調してうなずくが、ヨウサは怪訝そうな表情だ。

「ガイくんも言ってたけど、あの石がお屋敷の残骸とは考えにくいけどなぁ……」

 と、ため息をつくが、すぐに気を取り直してヨウサはシンに向き直る。

「ま、どっちにしても外には出ないとね。行きましょう、シンくん!」

「おうだべさ!」

 四人の少年少女は薄暗い石の通路を進みだした。




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