おばけ騒動
「それにしても、トモの言っていた秘密結社の活動も、興味あるだべなぁ」
放課後、校庭で遊んでいたシンたちだったが、唐突にシンがつぶやいた。
夏の日差しはまぶしく、頭をあげるシンの視界を遠慮なく白くする。そのまぶしさに手をかざし、シンは一息吐いた。
「ああ、忙しいって言ってたあの活動ね。何やってるんだろうね」
足元のボールをぽんぽんと蹴りながら、シンジもシンの方を向く。そして額の汗をぬぐうと、そのまますぐ近くの木陰に入り座り込んだ。それにシンも続く。木陰で日差しを遮るだけでずいぶん涼しく感じた。さわさわとそよ風に当てられて、体の熱が少し下がる。
「今も活動中なんだべか? 何してるのか聞いてみたいだべな」
「そうだね……。でもきっと僕らのやってることも聞かれるだろうからなぁ。それがちょっと心配なんだよね……」
その時、ガイがぜはぜは息を切らして、二人の所にやってきた。その汗はまさに滝のようである。
「休憩するならするって言ってよ~。校庭のすみーの方まで走ってたじゃない~」
「ああ、ゴメンゴメン。急に思いついたから」
ガイの様子にシンジがケラケラと笑う。
「それより、今日はヨウサちゃん一緒に遊ばないのかなぁ~。まだ来ないんだよねぇ~」
ガイが息を切らしながら、思い出したようにつぶやく。その発言にシンジもうなる。基本的に一緒に遊んでいる友達だから、どうもいないと寂しいのだろう。早く来ればいいのにね、などと二人が話していると、シンが思い出したように口をはさむ。
「あ、ヨウサなら女友達と一緒に教室にいただべよ? 呼んでくるだか?」
「あぁ、そうだったんだ。どおりで遅いと思った」
その時だ。校舎の入り口からにぎやかな声が聞こえてきた。思わず三人がそちらに目をやると――
「あ、トモとマハサだべ」
トラブルメーカーの三人組のうちの二人、鳥族のトモと、猫科の黄色い耳を持つマハサが、何かから逃げるように校舎から飛び出してきたのだ。その直後、女の子が数名、二人を追いかけるように飛び出してきた。そして何かお互い言い争っているようなのだが……。
「だから、これは秘密の活動なんだってば!」
と、ニヤニヤしながらトモが言うと、
「いいじゃない、シンくんたちには話そうとしてたんだから教えてくれたって!」
と、言い返すのは、茶色の肩までの髪をゆらす植物精霊系の女の子。
「女には秘密なんだよ! 危険な活動は男しか出来ないだろ!」
と、エラソーに言うのはマハサ。興奮でしっぽがぴんと立っている。
「そんなことないよ、女の子だって出来るかも」
と、口をはさんだのは――
「あれ、ヨウサだべ」
「あ、ホントだ」
などと、シン達三人がぽかんと、トモやヨウサたちのやり取りを見守っているのだが、彼らはやり取りに夢中で、シン達に気がつく様子はない。そのまま彼らは徐々にシン達の位置に近づいてきた。
「なんだよ、ヨウサは危険な目に会ったことあるのかよ」
と、マハサが胡散臭そうに質問すると、ヨウサが自信ありげに言い返す。
「あるわよ、シンくんたちとの活動中に」
「どんな活動!?」
途端、トモもマハサも、一緒に来ていた女の子達も、一斉にヨウサに質問を投げかける。いきなり全員に質問を投げかけられて、ヨウサがびっくりして立ち止まる。
「え、いやぁ……その……」
「教えろよー。お前らばっかりズルイ!」
トモがここぞとばかりにヨウサを問い詰める。
「一体シン達と何してんだよ!?」
と、マハサもはヨウサに顔を近づける。
「シンくんと何してるのよ?」
女の子までヨウサを問い詰める。
「それは……だから秘密だってば!」
「そうだべ、秘密だべ!」
「わぁ!」
唐突にシンが会話に混ざるものだから、思わず問い詰めていた三人が跳び上がる。その三人の背後にでんと仁王立ちになったシンが、これまたエラそうに踏ん反りかえっていた。
「な、な、なんだよ、シン! いいつの間にそこにいたんだよ!?」
あからさまに動揺したトモがどもりながら、ようやく質問を口にする。
「いや、さっきからここにいただべよ」
「トモ達がどんどんこっちに近づいてきたんだよ」
まだ座ったままのシンジがケラケラと笑いながら答える。
「それより、トモ。君らの活動って何なの? さっきもその話をしていたようだけど……」
シンジの言葉に、トモとマハサがはっとするより早く、女の子二人が、そうよそうよとにじり寄る。
「そうだよ、私らの話よりも、まずはそっちの話だったじゃない!」
「教えてくれたっていいじゃない!」
「そうだべ! 秘密結社の秘密をバラすだ!」
と、いつの間にかシンも会話に混じっている。
「そーだ! そーだ! 吐け吐けぇ!」
気付けばガイまで調子に乗って来るものだから、囲まれたトモとマハサもたまったものではない。えええ、と縮こまりそうになっていると――
「あ、ここにいたのかよ! 早くこいよ! 先行っちまうぞ!」
今度はシン達の背後から、ぬっと一人の少年が現れた。大柄な体格に、頭にちょこんと飛び出した丸い耳、ふさふさの茶色の髪の毛が特徴の、熊族の血が強い半精霊族、ケトだ。彼もトモ、マハサと同様、クラスのトラブルメーカートリオのひとりだ。
「あ、クラスのトラブルメーカー勢ぞろいだね」
「どっちがだよ」
シンジの言葉に、とっさにケトがつっこむ。穏やかな表情の割につっこみが激しい少年である。ケトはトモとマハサの方を向きなおすと、また声を張り上げた。
「今日こそオバケ見つけ出すんだろ? 早く行かねーと、時間なくなるだろ」
「お、おばけー!?」
ケトの発言に、シンもシンジもガイも、ヨウサも、女の子も大声を上げる。その傍らでトモとマハサはあわててケトに駆け寄る。
「わー! わー! わー!」
「そ、それ以上言うな! 秘密だろ、ヒ・ミ・ツ!!」
マハサに続いてトモも必死に口止めするが、肝心の本人はケロリとしている。少し眉を寄せて、抗議するトモに首をかしげる。
「なんでヒミツにするんだよ。シン達を誘うんじゃなかったのかよ?」
「ややっ、誘うけど、それはまずシン達のヒミツを暴いてからだな……」
「そうだべ! オラ達も手伝うだべよ!」
そんな二人の会話に横槍を入れるようにシンが口をはさむ。ケトはその申し出に、おう、と喜ぶが、トモはそうはいかない。
「だ、だからちょっと待て! 待てってば!! オレたちだけ秘密の活動教えるのに、シン達のが聞けないなんてイヤじゃん! ここは平等に、シン達も白状しよう!うん」
「イヤだべ」
「いーじゃん、めんどいし」
トモの必死な抗議は二人によって一瞬で打ち砕かれた。
「何でだよー! ずるいじゃねーかよー!!」
自分達の活動を餌に、シンの口からヒミツを暴きたかったトモは、作戦が身内によって失敗したことが悔しいらしい。その場で地団駄を踏む。その様子に、ガイが声をかける。
「まぁまぁ、ボクたちも手伝うからさぁ~。ありがたく思ってよ~」
「お前なんか役に立つか!」
「えー!! イキナリひどい!!」
ガイの親切心も一撃玉砕である。
そんな漫才の横で、シンとシンジがケトに質問の嵐を浴びせていた。
「一体何なの? おばけって」
「ホントにいるんだべか〜?」
「大体おばけをどうするの? 探すの?」
「オバケ退治でもするんだべか?」
「退治ってもんでもねーよ。オバケがホントにでるのか、探検中なのさ」
双子の問いにケトは、自慢げに笑う。
「もしホントにオバケなら問題だろ? そんな魔物がいたら、それこそオレ達の町の平和も脅かされるからな。だから、まずホントにいるのか、オレ達で探索中なのさ」
その言葉にたちまちシンの目がキラキラ輝く。こういう冒険事は大好きだ。
「そーゆー事だったべか! そーゆー事情なら、オラ達も喜んで手伝うだべよ!」
「うん、僕も! ガイも当然手伝うよね?」
シンジが元気よくガイに話を振ると、先ほどのやり取りでガイはへこみ気味だ。
「いいよいいよ、どーせボクなんていらないんだ……ううっ」
「まぁまぁ」
シンジが励ますその隣で、シンはヨウサにも話を振る。
「ヨウサももちろんいくだべよな!?」
「うん、なんだか面白そう!」
「あ、あたしも行く!」
予想外に同意したのは、ヨウサの隣の女の子だ。彼女の反応に、思わずシンもシンジも、トラブルメーカーの三人も目を丸くする。
「え、大丈夫かよ? 確か――隣のクラスの、ミラン、だったよな?」
真っ先に不安を投げかけたのはケトの方だ。その言葉にマハサもうなずく。
「そうだぜ、女が参加できるような仕事じゃないぞ、危険だからな」
「じゃ、なんでヨウサちゃんには反対しないのよ」
ミランといわれた少女の的確なつっこみに、マハサが口ごもる。
「え、いや、ヨウサは……その……ほら、男みたいなもんだし……」
「誰が男よ!」
当然つっこみはヨウサである。
「でも、大丈夫? オバケとか怖くない?」
心配したのはシンジだ。シンジの問いかけに、ミランはこくんとうなずく。
「ちょっと怖いけど、あたしだってやりたい! ヨウサちゃんもいいんだから、あたしもいいでしょ?」
「ええだべよ! ただし、危険な仕事であることに変わりはねぇだ。気をつけるだべよ!」
「オイ、オレにも聞け」
本当なら許可を出すのはケトのはずなのだが、勝手にシンが許可を出すものだから、思わずケトがつっこむ。
「ああ、そうだったべ、ケトがよいと言わなきゃ許可だせないだべ」
「うん、そうだな、いいぞ!」
「えええええええ~!?」
あっけなくケトの許可もでて、オバケ探しチームが出来上がったのだった。




