謎のメッセージ
二人と一匹はもと来た道を回れ後ろして、例の壁の場所まで戻ることにした。おそらくその壁の仕掛けが、この闇の石で解決するだろうとの予測していた。
「しかし、あんな魔物がいるとは、びっくりだべさ」
今回、水そのものが魔物化したものを見るのは初めてというシンは、今更ながら驚いているようだ。そんなシンに、キショウもあごに手を当てながら答える。
「オレもあまり見たことはないがな。しかし悪霊系の魔物でよかったな。精霊系と戦うことになったら正直やっかいだったからな」
相変わらず彼にはシンの頭に乗っている。
「なるほどね。だからなのかなぁ? ペルソナ、この石奪いにこなかったの……」
キショウの言葉にシンジは闇の石をライトにかざし、眺めながら答える。
「精霊系の魔物が石を守っているかもしれないと思ったから、後回しにしてたのかな?」
「あー、ありえるだべな! ペルソナのヤツ、上で何か策を練っていたのかもしれないだべ! 先回り、今回も成功だべな!」
シンジの言葉にシンが腕を振りかざして喜ぶと、シンジもうん、とはしゃぐ。しかし、
「はたしてそれだけかな……。オレは正直、いやな予感がするぜ」
と、キショウははしゃぐ二人の気持ちに水を差す。
「なんだべ、キショウ! 何が気になるだべ!?」
予想外な発言に、あからさまに不機嫌振りを顔に出し、シンが抗議する。キショウは足元の怒る子どもにまぁ、喜ぶ気持ちもわかるがな、となぐめる一言をかけて続けた。
「お前らの言うように、後回しにしていたところを、先回りできたって可能性はあると思うぜ。だがな……この二階部分でさ、一体何をしているのかが気になるのさ。結界まで張って、しかもそこから動かないんだぜ。……いかにも怪しいじゃねーか」
「そりゃ確かにそうだけど……」
キショウの言葉にシンジも眉を寄せて険しい表情をする。シンはそんな二人に強気に声をかける。
「そんなの、悪巧みに決まってるだべ! 何してるかは知らないだべが、早く行って、とっちめてやるだ! それ以外にやることはないだべよ!」
その発言にシンジも表情を明るくしてうん、と同意する。そんな様子に思わずキショウが噴き出した。それを見てシンが噛み付く。
「何がおかしいだべさ!?」
「いや、おまえらシンプルでいいよな。お前らのそういうバカなところ、オレ、嫌いじゃないぜ」
キショウが珍しく明るい声でそんなことを言うので、シンは目をぱちくりさせて、
「……そ、そうだべか? うーん……まぁそれならいいだべ……」
と、返事に詰まる。一方でシンジも首をかしげる。
「それって褒められてるのかな? バカにされてるのかな?」
そんなやり取りをしている間に、例の壁の所まで辿り着いた。さっそくシンジが手に持った闇の石を壁にはめ込むと、石は呼応するように一際輝いた。
すると、その闇の石から広まるように、壁の模様が筋となって、隅々《すみずみ》に光が走った。まるで水路に水が流れ、それが広まっていくかのように。
模様の光が壁一面に広がると、壁自体も一度輝いて、それは静かに透明になった。しかし姿がガラスのように透けただけで、模様はそのガラス面に描かれたまま、壁はそこに立ちふさがったままだ。
どうしたものかと一瞬考える双子だったが、その真ん中に強い光が走っていることに気がついた。シンがそっと壁を押すと、それはまるで扉のように、壁の半分だけが奥に開いた。
「おお、これで入れるだべな」
一体どういう魔法になっているのかは知らないが、シンは透明になった壁を押し、中に入った。シンジも後に続き、おっと、と闇の石を取り外すが、壁はまだ光ったままだ。どうやらしばらくは扉化しているらしい。ひとまず、これで地下迷宮はクリアである。
扉の奥に入ると、その空間もまた水色の壁にいくつもの模様が描かれていた。今度はただの広い空間ではなく、いくつか部屋に分かれているようだった。シンが首をかしげながら本を開くと、キショウがでしゃばって本を操作した。もっとも、キショウが操作した方が早いので、二人とも任せてしまっているのだが。
「……どうやら、ここはフツーに部屋みたいだな。昔のやつらが使ってたんだろ」
しばらく本をのぞき込んでいたキショウがそういうと、またシンの頭に戻り奥を指差した。
「この部屋はたいした物はないぜ。さっさと上に行こうぜ。この先だ」
しかし、キショウがそういうよりも早く、あちこちのぞきに行ってしまうのがこの双子だ。早くもシンジが壁の書かれた文字を指さし、シンとキショウを呼ぶ。
「見てみて! またこれ超古代文字じゃない? ねぇ、キショウ、これなんて書いてあるの?」
「ほんとだべ! キショウ、読んでくれだ!」
双子の好奇心に勝てるわけがない。頭を抱えながらキショウは双子の指示に従う。
「さっさと上に行かなくていいのかよ、全く……。ええと……これはだな……」
ぐちぐち言いながらも、壁をのぞいたキショウだったが―—
壁を見た途端、動きが止まった。
「……? キショウ? どうしただ?」
いつまでたっても文字を読み上げないキショウに、シンが声をかける。
「……いや、この文章……」
「え、何々!? 何が書いてあるの!?」
「早く読むだ! 気になるだべさ!」
なかなか読まないキショウに、双子が期待を膨らませて急かす。しかしその双子の様子も気にならないほど、キショウはその文章に釘付けだった。読めはしないのだが、シンもシンジもその文章を思わず見上げる。
今までの短い文章と違い、その文章は壁一面に長々と書かれていた。しかもよく見ると、文字自体、ただ彫られただけではなく、更に何らかの装飾を施されたような跡があった。壁そのものもその部分だけ色が違い、明らかに何か特別な意味がある文章のようである。
「……一体何がかいてあるんだろう……」
「キショウ、いい加減読んでくれだべ!」
痺れを切らしてシンが声をかけたその時だ。
ぐらぐらと大きく神殿がゆれた。地響きがして二人は思わず足をよろめかせる。
「地震だ!」
「こんな所でだべか!」
確かに最近地震は多かったが、まさかこんなところで、と双子はほほを膨らませた。
「まさかこの城自体が崩れることはねぇだか!?」
「さすがに大丈夫だとは思うけど……」
「……シン、シンジ、こりゃ早く上に上がったほうがいいぞ!」
唐突にキショウが声をかけた。まだゆれは続いている。
「え!?」
「く、崩れるだか!?」
思わず双子が問いかけると、キショウは予想外のことを口にした。
「神殿がやばいんじゃない! 二階のペルソナってヤツがやばいんだ!!」
「どういうこと!?」
「まさかペルソナの身が危険ってことだべか? 何いってるだべ! あんなヤツのことは全然心配しなくていいだべさ!」
とっさに双子が反発すると、キショウは間髪入れずにそれを遮った。
「アホ! そっちじゃねえ!! もしかするとそのペルソナが、やばいことをしてるかも知れないって言ってんだよ!!」
その発言に思わず双子は顔を見合わせた。事態はよくわからないが、キショウのその声に並ならない危機感を覚えたのだ。二人は即座に、キショウが指さした階段の方向へ走り出した。
「キショウ、案内頼むべ!」
「ついでに上に行きながら、何がやばいのか教えて!」
双子が駆け出すと、キショウはああ、と返事をして続けた。
「もしかするとだけどな……ペルソナってヤツは、この世界を崩すつもりかもしれん」
「ええええええ!?」
地響きが続く中、双子の悲鳴がこだました。




