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双子の魔術師と仮面の盗賊  作者: curono
3章 双子、湖で大冒険!
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闇の石の力

 シンジの声が響いた次の瞬間だった。シンジが押さえつけられている水の腕から、ビキビキと音を立て、腕からその魔物の身体へと、水が次々凍りついた。シンジの氷系魔法、氷刃よりも威力のある皓皓こうこうの魔法には、さすがの魔物もダメージを受けたようだ。突然の氷攻撃に、水の魔物は悲鳴を上げるように水を振るわせた。その瞬間、シンへの攻撃も止まる。

 その隙をシンが逃すわけがなかった。シンは攻撃が止んだ瞬間、その両手を魔物に向けてかざし、召喚魔法を始めた。

「守護する炎の精霊……。古き契約に従いここに現れるだべ……『炎精召喚!!』

 呪文が終わった途端とたん、シンの両手の前に現れた魔法陣から、巨大な炎の塊が出現した。大人一人を飲み込めるほどの巨大な炎は、あっという間に水の魔物を飲み込んだ。

 先程よりも凄まじい蒸発音と同時に、白い煙が一気に噴出ふんしゅつした。魔物を型どっていた水が一気に蒸発したのだ。その煙が消えぬうちにキショウが声を上げた。

「すげーな!! あんな大技まで使えんのか、おまえ!!」

「ふー……ナイスだっただべ……!」

 キショウの言葉に、シンはそのまま腕をぶらりと下げて、大きく一息をつく。

「ふー、それにしてもシンジ、いいタイミングだっただべ! シンジ、無事だべか!?」

 白い煙で見えないが、シンジがいるであろう方向にシンは声をかける。すると、その煙の中からひょっこりとシンジが顔を出した。きょろきょろとシンを探しているようだったが、兄の姿を確認すると、小走りで近づいてきた。案の定、その姿はずぶぬれだ。

「シン! キショウ! 二人とも無事だった!?」

 シンジの言葉にキショウがうなずく。

「こっちは無事だ。お前の方こそ、もろに攻撃受けて無事だったのか?」

「うん、水の中なら僕は平気だしね。動けなかっただけ。でもちょっと背中イタイ……」

 そういってシンジは背中をさする。しかしその手には変わらず氷の剣が握られている。

「シンジ、怪我はないだべか?」

 その様子にシンが心配そうに声をかけると、シンジはうなずくが、その表情は厳しい。

「背中痛いだけだから。それより……」

 シンジが言葉を続けようとしたその瞬間、シンジの背後に何かが突撃してきた。

「あぶねぇ!!」

 キショウが声をかけるのと、ほぼ同時だった。シンジは振り向きざまにその剣を振るった。凄まじい冷気がその剣の軌跡きせきにそって噴出されると、それに水流が激しく激突し、一瞬で凍りついた。

「ななな、まだいるだべか!?」

 シンがあわてて構えると、シンジがそのまま構えを取って言葉を続けた。

「ヤツの正体は水だよ。これくらいで消滅はしない! まだくるよ!」

 双子が構えを取るその目の前で、煙が徐々に水滴に変わっていくのが見て取れた。その水滴の向こうで、先ほどの水の魔物が、またうねうねとうごめいていた。しかし今度はその形は完全体ではない。空虚くうきょな瞳に怒りの色を浮かべ、浮かび上がるその魔物は、片腕がまだ再生せず、もう片方の腕はまだ短く、その姿を作り上げている最中だった。この腕はおそらく先ほどのシンジの攻撃にくだかれたのだろう。凍らされた水はまだ液体に戻せず、その腕を作り上げるのに魔物も苦労しているようだ。彼女の周りを取り巻く水泡の数も少ない。

「こりゃどういうことだべ……?」

 その魔物の様子にシンが少々困惑こんわく気味に問うとキショウがなるほどな、とうなずく。

「シンの攻撃が効いてるんだよ。水を蒸発させられたからな。まだ気体化したその身体を元に戻せないんだ。あわせて、どうやら凍っちまうと、それも身体に戻せないんだな」

「そういうことだべか! よし! ならまた炎で蒸発させてやるだべ!」

 キショウの言葉に、シンが再び両手をかざすと、予想外にシンジがそれを止めた。

「まって、シン! これじゃ水を蒸発させても、蒸気が水に戻ったら同じだよ。僕に考えがあるんだ」

 そういって、シンジはその剣を床に突き刺した。

「僕が先に魔法を使うから、シンはその後にさっきの魔法をお見舞いしてやって!」

 そういうとシンジはまた剣に力を込め、呪文の暗誦あんしょうに入る。意味が分からないのはシンの方だ。シンジの言っている意味が分からず、魔物とシンジをきょろきょろと交互に見合わせて首をかしげる。

「え、い、ん? よ、よく意味が分からないだべが……ええい、わかっただべ!」

 そういって両手をかざし、シンも召喚の準備を整える。

 双子がそんなやり取りをしている間にも、水の魔物は徐々にその姿を戻しつつあった。ようやくその身体が元の女性の姿を作り上げたが、その周りを取り巻く水泡までは戻せていないようだ。それに構わず、また魔物は激しく口を開き咆哮ほうこうすると、身体を作る水が激しく震え水の衝突音が響いた。

 それが合図だった。

皓皓コウコウ!!』

 シンジの大声の呪文とともに、その空間が震えた。と、同時に床に突き刺した氷の剣から、一気に床へ壁へ天井へと冷気が走り抜け、たちまち氷結化をはじめた。水に沈む神殿だけあって、壁も床も天井も、全てが水で湿しめっていた。シンジはその魔法でその広間全体を凍らせたのだ。一瞬で広間が冷えあがるが、今度は空気もあるので、シンもキショウも影響があるはずがない。

 空間が冷えると、魔物も足元が凍りついたらしい。悲鳴を上げるようにその身体を振るわせた。

『炎精召喚!!』

 立て続けて、シンの魔法が放たれた。冷えた空間を瞬間的に熱したと思ったら、そのまま水の魔物に衝突し、再び凄まじい白煙を上げた。水が瞬間的に蒸発する音が轟音となって空間を振るわせた。

 さすがに今度は召喚準備も万全とだけあって、シンの魔法の威力は先ほどよりも上回った。魔物の姿は跡形あとかたもなく消え去り、後には白い蒸気だけが漂っている。

「すごい威力だな……。蒸気しかないぜ……」

 その様子にさすがのキショウも感心している。

「でも、水蒸気になったはいいだべが……この後大丈夫なんだべか? さっきみたいに元に戻らないんだべか?」

 先ほどの様子を思い出し、シンが弟に尋ねると、シンジはへへっと笑って周りを見渡した。

「これなら大丈夫だから、見ててごらんって」

 自信たっぷりにシンジが答えるその後ろで、蒸気はみるみる壁や天井に吸い付いていった。シンジがかけた魔法で、いたるところの壁が凍りついたままだ。蒸気は水に戻るよりも早く、その周りの壁に引き寄せられ、凍てついていくのだった。

 その様子にいち早く気がついたキショウはほう、と感心する。

「なるほど、考えたな……。魔物の身体を作る水を、魔物の魔力で集めさせるよりも早く、お前の魔法で凍りつかせようってわけか。魔法の原理をそのまま使ったわけだな」

「そーゆーこと! 僕、昔にちっちゃな水の魔物と戦った事があってね。お互い水を魔法に使うでしょ。その時、水に自分の魔力を通して魔法をつかうからさ。魔物より先に僕が水に魔法を通しておけば、敵はその水を使えないんだ」

 得意げに笑うシンジにシンも感心して広間を見渡す。

「そーゆー戦い方があっただべか~! びっくりしただべさ」

 そんなやり取りをしているうちに、空間を占めていた緊張感が薄れ、終いには霧消した。水の魔物が、身体を取り戻せず、消えてしまったのだ。

「……フン、どうやら、怨念おんねんこもった悪霊系の魔物だったみたいだな。身体を奪われて、それこそ煙みたいに消えちまった」

 敵の気配が消えたことを確認し、キショウがつぶやいた。その言葉に双子も胸をなでおろした。敵がいた足元にシンが近づいていくと、そこに何かが落ちていることに気がついた。歩み寄り、それを拾い上げてみると――

「……これ……闇の石だべ……」

 シンの言葉にシンジも走り寄る。シンが拾い上げたそれは、青白い光を放ち、やはりしずく型にその形をゆがめていた。そこからは邪悪な力は感じられず、静かにその強い力を秘めているように思えた。

「……なるほどな、それが闇の石か……。確かに、オレたちに近い、黒い力を感じるな」

 今回初めて闇の石を見るキショウは、興味深そうにそれを眺めてつぶやく。シンジがそっと手を伸ばしその闇の石をつまみ上げると、青い光がいっそう強まって輝いた。

「……確かに、闇の力も感じるけど、でも水の力も感じる……。こいつに、あの水の魔物が取り付いていたのかな?」

 シンジの言葉にシンが首をかしげる。

「どういうことだべ?」

「このお城って、超古代文明時代のものでしょ、きっと。で、この石を盗られないようにしてたんじゃないかなって。だからさ、この石を盗ろうってしたた人たちの怨念がこの城にたまっていて、その思いが、水の魔物になったのかなって……」

 その言葉に、シンも表情を曇らせる。

「ありえるだべな……。怨霊というか、悪霊系の魔物って、人の悪い思いが魔物化したものというだべ」

「……逆かもしれないぜ」

 双子の会話に、予想外にもキショウが冷静に、しかし低い声で応える。

「これだけの闇の力も秘める石だ。たしかにあの魔物、人の怨念みたいな魔物だったが……。その悪しき思いを、自然に集めるだけの闇の器もきっと、この石にはあるだろうな」

「魔物を……この闇の石が呼び寄せたっていうだか?」

 キショウの言葉にシンが問うと、キショウは大きく息をついて、

「そういう可能性もあるってことさ。巨大な力は時に悪いものも呼び寄せる。それが闇の属性なら尚のことってことさ」

 と、そこまで言って、表情を和らげて続けた。

「ま、推測の域を出ないがな」

 またキショウはそこで一息つくと、双子に向けて声を明るくしていった。

「さておき、石は手に入れたわけだ、上にいけると思うぜ! さ、いつまでもこんなとこにいられないだろ! いくぜ!」

 沈黙した空間に、キショウの声が静かに響いていた。 




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