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双子の魔術師と仮面の盗賊  作者: curono
3章 双子、湖で大冒険!
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湖の公園へ

「今日行くの? なんだか久しぶりね」

 昨日、双子が打ち合わせた話を聞いて、ヨウサは通話機越しに驚いていた。

 二人がいるのは寮の管理室――通常、寮の管理人がいる部屋だ。その部屋は寮一階の中心にあり、管理人がいるだけでなく様々な設備がある。その設備の一つに魔導通話機があり、設備のあるところならどこにでも連絡が出来るようになっていた。広い部屋の中心に、管理人とアルバイトの机があり、それを囲うように受付できるカウンターが置かれていた。その一つのカウンターに通話機は設置されており、平たい円盤の画面には友人のヨウサが映っている。双子はそれを見ながら、一つの通話機を奪い合うように会話をしていた。

「うん、次の汽車に乗って、まだ行ったことがない北の山に行こうかと思ってるんだ」

「どうだべ? ヨウサも来れそうだべか? 今日はガイは来れないだべ」

 双子が意気揚々《いきようよう》と誘うと、ヨウサの声が曇る。

「そりゃ行きたいけど……もう今日は予定が入っちゃったもの……。母さんと買い物行く予定なの。だから今日はゴメン!」

「ええ~! 駄目だべか~?」

 あからさまにシンが残念そうな声を上げると、ヨウサは通話機越しになだめるように謝る。

「ごめんごめん! でも今日の夜には空くからさ! 母さんと一緒に差し入れでもしにいくから! ね?」

「……そういうことなら、仕方ねぇだべな。夜には来てくれだべよ!」

 明らかに「差し入れ」と言う言葉に気持ちが動いたらしいシンは、渋々という口調でありながら、顔はすでににやけていた。シンの受話器とは反対の方向から話を聞いていたシンジは、シンの受話器に身を乗り出して声をはる。

「ヨウサちゃーん、じゃあ夜には来てね~!」

 そんな調子で通話機を切った。

「今日は二人だけで行くようだね」

 ちょっと残念そうにシンジが言うと、シンはちょっと怒った様子で腕を組む。

「ヨウサは仕方ないだべが、ガイには困っただべな~。何で休みの日に学校に呼び出されるだべ?」

「仕方ないよ、授業態度が悪かったんだもん。シンも危なかったんだよ? 宿題忘れの数で言ったら、ガイと同じくらいやってないんだから」

 シンジは兄の発言に、半分あきれるように返事をする。どうやらガイは、休日だというのに特別授業か何かで補講ほこうを受けているようである。


 双子はすでに準備万端だった。雨具を身につけ、片手にはシンが傘にシンジは本。シンジは小さなかばんを斜め掛けして、シンは腰に古びた短剣を射していた。

 双子は通話機を切ると、その格好で管理人の目の前のボードに名前を書いた。休日に外出する際の外出届け、というものである。

「あら、こんな雨の中おでかけ?」

 双子は後ろから唐突とうとつに声をかけられた。エメラルド色の長い髪、優しそうな笑顔、ほっそりとした体系に茶色のワンピース――寮でアルバイトをしているリサだった。どうやら今からアルバイトの時間らしく、肩に掛けたかばんを下ろしながら、二人に近づいた。

「うん、探検隊の任務を久しぶりにやってくるだべ!」

「ちゃんと夕方ごろには帰れるようにするからね!」

 双子が笑顔で答えるとリサも笑って、二人の書いたボードをのぞき込みながら答えた。

「夕方までね。……北の山……二駅先にあるココ山に行くの?」

「ココ山? あの駅の近くにある山、ココ山って言うだべか?」

 リサの問いに、逆にシンが問い返してきた。どうやら地名はさっぱり把握はあくしていないらしい。リサはそんなシンにクスクス笑って答える。

「あの山、ふもとには大きな噴水があちこちあって、噴水の公園って言われているステキな場所があるの。デートにはいい場所よ。ヨウサちゃんと一緒なの?」

「それがヨウサちゃん、今日は来れないんだ」

 リサの問いにシンジが口をはさむと、シンはちょっとあわてた様子で反論する。

「大体、オラ、デートなんかしないだべよ~!」

「アハハ、冗談よ。でも、ホント、ステキな公園だから、遊びに行くにはいいと思うわ。ココ山公園、有名だからね」

 リサの説明を受け、双子は寮を出た。


 学校から駅まではそこまで遠くない。双子は駅に着くと、学生証を駅員に見せ、ホームに入った。セイラン学校の学生証があれば、大体の乗り物はそのままパスが出来るのだ。

 セイランの駅から、中央大陸全域につながるこの汽車だけは、魔法で動くものではなかった。魔法機械のシステムが整っていない辺境の地にもいけるよう、原始的なやり方でいまだに動いている乗り物だった。雨の中、もくもくと汽車の煙がゆっくり空に伸びていた。

 雨の中、汽車は町を通り過ぎ川を超え、目的地の駅に着いた。リサの言ったとおり、この公園は有名らしい。駅名がすでに「ココ山公園入り口」となっていた。


 駅から出ると、あいかわらずの雨だった。日中にも関わらず、灰色の雲が空を覆い、しとしとと空気を沈黙させるように雨が降り注いでいた。

 シンは雨着のフードをかぶり、傘を差した。本格的に雨着を着たシンの格好はなかなかな不格好だ。かばんをかけたその上に雨具を羽織はおっているため、腰の辺りが異様に膨れている。いつも胸に浮いている魔鉱石の布は、その雨着の上に装備。ぱっと見、あまり格好いいものではない。

 その隣でシンジは雨具のフードをかぶるだけという、非常にシンプルな格好だった。その両手には例の本を抱え、本は透明な布で包まれていた。雨が当たらないようにとの工夫だろう。

「さっそくやってみるよ。……『クワエロ』」

 闇の石の本は、シンジのその呪文に反応し、中心の魔法陣を光らせた。以前にやったように、魔法陣の中には現在位置の地図が浮かび上がった。しかし、魔法陣をとり囲うような石の絵には輝きが見られない。

「……むむむ……。ここでも反応が出ないだべな……」

 シンジに向かい合うように立って、シンがうなる。シンジも肩をすぼめるが、すぐに大きく息を吸い込むと、

「まだ歩いてないし、これからだよ! 公園の方にでも歩いてみよう!」

 と、看板を見ながら公園の方向へ歩き出した。


 公園はすぐに見つかった。緑の山を背景に、きれいに整備された公園だった。芝生の上に石を敷き詰めた道が出来ており、公園の中心には大きな噴水が吹き上がっていた。噴水はそれだけではないらしく、その大きな噴水をはさんで等間隔の位置に、一回り小さな噴水が同様に吹き上げていた。さらにその奥には、もう一回り小さい噴水があるようだ。雨の音と同様、静かに水の吹き上がる音がして、落下する水がまるで強い雨のような音を鳴らしていた。噴水から糸のように、小さな川が出来ており、その川も、石段の堀を静かに流れていた。

 リサの言うとおり、ステキな公園だった。鈍感どんかんな少年二人も、その風景には思わず感嘆かんたんのため息がれた。さすがの雨で人はいないようで、公園に入ってきたのは二人だけのようだ。

「さすがに人はいないねぇ。公園の中でもちょっとあるいてみようか」

 シンジが提案すると、シンもうなずいて公園内をてくてく歩き出した。いつもの靴と違い皮製のブーツが、歩くたびに水を弾く音がした。シンジが楽しそうに本片手に水たまりをばしゃばしゃ歩いていたその時だ。

 ばしゃん、と何かが水の中に落ちる音がした。音からして大きいものではないが、小石レベルにしては音が大きかった。その音に双子は顔を見合わせた。

「なんか落ちたね?」

「なんだべ? カエルだべか?」

 そう言って、シンは音のした方向へ歩み寄った。すぐ隣の噴水の下、水がたまっている場所に落ちたようだった。シンはその噴水の中をのぞき込んだ。

「……?なんか浮いてるだべよ?」

 と、シンが拾い上げたそれは――

「……え、人形??」

 シンの隣に立ったシンジも、シンの片手にぶら下がっている物体をしげしげとのぞき込んでつぶやいた。

 そう、シンの指先でつままれているそれは、小さなマントだった。そのマントを身につけているのは小さな人型をした物体、人形のようにみえた。人形は目を閉じて、ぐったりとしていた。

「人形が……落ちてきたのかな……?」

 シンジがそういって周りをきょろきょろしたその時だ。シンが突然はっとしたように頭を上げ叫んだ。

「上だべっ! シンジ!」

 その声と同時にシンが後ろに跳び退き、シンジもそれに続く。その直後、二人のいた足元に大きな黒い影が弾丸のように突っ込んだ。その勢いで突風が起こり、噴水の水が飛び散った。二人があっと思う間もなく、その黒い影は強風と共にまた上空へ飛び上がった。

 ――しかし、

「まだだべ!くるだべよ!」

 シンが予告した直後だった。二人の真上を黒い影が覆った。敵は二人の真上にいる。二人は上をにらんだ。風の音から、また上空のそれが、突っ込んでくるのがわかった。

鎌鼬かまいたち!』

 行動を呼んだシンの動きは速かった。腰に差した古びた短剣で空を切るようなしぐさをすると、剣から風の刃が弾き出された。それは敵が突っ込むより先に、その敵の胴体に突き刺さる。

 耳をつんざくような獣の悲鳴がして、上空のそれは姿勢を崩した。どうやらシンの攻撃があたったらしい。敵はぐらりと体勢が崩れた。一瞬影の動きが止まり、今度は重力に任せてその影は墜落してきた。双子は影の外に出るようにその場をすばやく離れた。物が落下する音と共に黒い影は地面に激突した。

 巨大な怪鳥だった。真っ黒な身体に大人二人分はある大きな胴体、その二倍はあるであろう大きな翼。どうやら森にでもいた魔物のようだ。シンの攻撃が致命傷となったらしい。ぐったりとしてもう動かない。

「……ずいぶん大きいのが落ちてきちゃったね……」

 その鳥が動かないことを確認して、シンジがそれに近づいてつぶやいた。いつの間にやら本は閉じられ、それを小脇に抱えるようにしてしゃがみこんだ。

「に、しても珍しいね。野生の魔物が昼間っから襲い掛かってくるなんて。普通なら夜とか……もしくは陰の気が強い地域にしか昼間は現れないのにね」

 シンジはそういって警戒気味に周りを見る。この世界の魔物は精霊族を襲う習性がある。それがなぜなのかは分からないが、陰の気を持つ魔物と陽の気を持つ精霊族は相性が悪い。陽の力は日の力。光の力だ。だからこそ、昼間は魔物はめったに活動しない。それこそ術者との契約がない限りだ。夜は陰の気、つまり闇の力が強い。魔物にとってそれは活動しやすい時間なのだ。しかし今は雨で曇りとはいえ真昼の時間だ。こんな時間に魔物が活動するのは珍しかった。

「……そうだべな。しかもオラ達何もしてなかったのに襲い掛かってきただな……。そこまで気性は荒くない魔物だと思うだが……」

 弟の言葉にシンも首をかしげる。その時、ふと、左手にぶら下げた人形を見た。

「……そういえば……この人形、落ちてきた直後だったべな……」

 シンが難しい顔をして、人形を目線まで持ち上げてのぞき込むと、シンジもはっとしたように身を乗り出す。

「そうだよ、この人形! ぼちゃん! って音の直後に、あの鳥だもん。もしかしたら、あの鳥が落とした人形なのかも?」

 シンジがそんな推測をすると、シンはまゆを寄せてますます不思議そうな顔をする。

「……なんで鳥……しかも魔物がなんで人形なんか持っていくんだべ?」

 そういって、シンがその人形をぶらぶらとゆらしたときだ。その人形の顔がぴくっと動いた。それに真っ先に気付いたシンジが思わずアッと声を上げると、シンもきょとんとして人形を見つめる。そんな二人の目の前で、人形がうっすらと目を開けた。

「……え、これ……生きてるだべか!?」

 シンが目を丸くして声を上げると、その声に、その人形がはっとわれに返った。

「……っ!な、なんだ……おまえら……」

 人形だと思っていた小人は、双子の姿を確認するや否や、そのまゆをひそめ、ぶしつけに質問を投げかけてきた。





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