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双子の魔術師と仮面の盗賊  作者: curono
2章 双子とあやしいお兄さん

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沸き起こる疑問

 それからの流れはあっという間だった。

 町の安全を守る警備隊が来て、シン達が説明するまでもなく、博物館内の監視システムのおかげで、博物館の破壊、そして泥棒容疑の犯人は「デルタ」であることがすぐにわかった。しかし謎の女性、エプシロンの存在までは確認することが出来ず、結局デルタは忽然こつぜんと姿を消したと、警備隊も不思議がった。シン達は今回の事件で、警備員からはよくやったという賞賛と、無茶をするなという注意を受けた。そしてまたも後日、レイロウ先生から怒られたことは言うまでもない……。


「とはいえ、よくぞお主達、頑張ったのう! これはワシからのご褒美じゃ!」

 事の報告をレイロウ先生にした数日後、久しぶりに四人は校長室に呼び出された。しばらく研究だなんだといって、しばらく学校を空けていた校長だったが、久しぶりに戻ってきたのだそうだ。そしてそこで校長が彼らに与えたもの――

「これ……闇の石の……短剣だべか?」

「さよう」

 そう、博物館で彼らが守った、あの短剣だったのだ。

「え、でもこれもらっちゃっていいんですか? 博物館のものでしょう?」

 ヨウサが心配そうに校長に言うと、校長はいつものようにほっほと笑って、

「なぁに、ご褒美と言っても、あげるわけではないぞ。おぬし達に『貸して』やるのじゃ」

と、白いひげをなでる。

「あの博物館に納められているものは、ほとんどワシのコレクションじゃ。あの中にこの闇の石の含まれたアイテムがあったとは、ワシも知らなくてびっくりしたがのう。ま、そういうわけじゃから、ワシのものをワシがどう使おうと、誰も怒りはせんわい」

「そうだったんだぁ……。知らなかった」

 校長の説明にシンジはふぅんとうなずく。その隣で短剣を受け取ったシンは、シンジをひじでつつきながらこそこそと話しかける。

「なぁ~、この短剣、オラが持ってってもいいだべか~?」

 その問いにシンジはクスクス笑いながら答える。

「それくらいわかってるよ。僕はシンが持っててくれた方がいいと思うよ」

「いいだべか!? よかっただべ~! ヨウサ、ヨウサもいいだべか?」

「え? いや、私は反対する理由がないし……」

 唐突に話題を振られ、ヨウサはあわてて答える。

「っていうか、シンがそれ持っていたいんでしょ~? まったく、シンってばワガママだなぁ~」

 やりとりを向かい側で聞いていたガイが、意地悪に口を挟む。その言葉にシンが剣を両手に持ち、かるく地団駄じだんだを踏む。

「だって持っていたいだべよ! これのおかげで風魔法が強くなっただべよ!」

「わかってるよ~。ボクだって反対するわけないじゃない~。だってそれ、『風の属性』の石なんでしょ~? そりゃシンが持っていたほうが相性がいいからね~」

「風の……属性……?」

 予想外なガイの発言に、シンだけでなく、ヨウサもシンジも思わず首をかしげる。

「闇の石の力の一つじゃな」

 答えたのは校長だった。

「光の石と闇の石には、六つの属性があるといわれておる。火、水、風、地、そして本来持つ光、闇……。光の石と闇の石は、光の力や闇の力を持ちつつ、その六つの力も秘めておる。その併せ持った力こそ、今の魔法世界では作れぬアイテムなのじゃ。特に、相反する二つの属性を併せ持つ力はの」

 校長の言っているのは、この本のことだろう。闇の力を持つ『闇の石』でありながら、光の属性も併せ持っているのが、この本だ。校長の言葉に、思わず四人は本を見る。

 そこまで説明して、校長はシンの手に握られた短剣をあごで指す。

「その短剣は闇の石の中でも風の力を持つものじゃ。その属性を持つものが手にすれば、持ち主に力を与えてくれようぞ」

 その言葉にシンは目を輝かせ、大きくうなずく。

「わかっただべ!! オラ、これ大事に使うだべよ!!」

「ただし」

 突然校長は静かに、でも四人がはっとするほど重い声で言った。

「ありすぎた力は様々なことを招く。よいことも悪いこともじゃ。だからこそ、その力の使い方を間違ってはいかんのじゃ。力を正しき方向に使えるかどうか……それは、シン。おぬしの力量に掛かっておる。常々、忘れずに心にとどめておくことじゃ」

「……わかっただべ、じっちゃん」

 校長の言葉に、シンはいつになく真剣な面持ちでうなずいた。その表情に、隣のシンジも一緒になって真剣な表情をする。いつもの生活では見ない双子の表情に、ヨウサが驚いていた。

「さて、ワシからの話は以上じゃ。これからの活躍も、期待しておるぞ」

 校長は一通り説明を終えると、四人を外へ帰した。


「とはいえ、課題は多いよねぇ~」

 外に出るなり、ガイは難しい顔をしてため息をついた。

「どういうことよ?」

 ガイの発言に、校長室の扉を閉めていたヨウサが振り返って問う。

「そうだべよ、ヨウサの魔法も成功、オラの魔法もこれで能力アップ、だべよ?」

「しかも闇の石も守れたし、本の使い方もちょっと分かったし、よかったじゃない」

 双子も、何が課題なのか分からない、という雰囲気でガイに笑顔で話しかける。そんな三人の言葉にガイは表情もそのままに首を振る。

「いや~、それはよかったと思ってるよ~。でも、肝心な部分が分からないままでしょ~?」

「肝心な部分……?」

 シンジが首をかしげると、ガイは歩き出す三人の前に出て、後ろ向きで話しだした。

「敵が一体何者かってことだよ~。部下までいて、その部下が変化の術にワープの魔法が使えて、あんな怪力バカだったりするんだよ~!? ちょっと普通の強盗じゃあないよ~!」

「言われてみれば、確かにペルソナのことはさっぱり分からないままだべな……」

 ガイの言葉にシンが思わずうなる。シンの隣を歩いていたシンジは、本を高々と持ち上げて見上げた。今回活躍してくれたあの『闇の石』の本だ。

「あのデルタってヤツのこともよく分からないし、あのエプシロンとかいう女の人以外にもまだ部下がいるのかもしれないし……。この本のことも、まだよく分かってないもんね……」

「でもさ、悩んでたって仕方ないじゃない! とにかく今は行動あるのみよ!」

 双子の言葉に、ヨウサが彼らの顔をのぞき込んで、明るく笑った。その元気な発言に、ガイも「まぁそうだけどね~」などと言いながら、正面を向く。一瞬顔の曇っていた双子も、ヨウサの表情を見て思わず口元が緩む。

「……そうだべな! 動かねーと何も変わらないだべな!」

 兄の発言に、シンジも大きくうなずいて、本を軽く叩いて言う。

「ねぇねぇ、早速またこの本使って、次の闇の石を探そうよ!」

「そうだべな! そうと決まれば、さっそく寮に戻って作戦会議だべよ!!」

 そう言って三人が駆け出すと、ガイは逆にそこで立ち止まる。

「闇の石闇の石って〜……。……ん、なんで闇の石なんだろ~……。光の石では……なくて……?」

 そんなガイの思考も長くは続かなかった。

「ガイ、何してるだべ~! 早くしないと置いてくだべよ~!!」

「あ、ああ~! 分かってるよ~! だから走らないで~!!」

 三人に急かされ、ガイは彼らの元に走り出した。






*****

「あだだだだ! いたっいたっいたい! 痛いって言ってんだろーがっ!!」

「治療してあげてるんだから、ちょっとは静かにしなさいよ、このバカ!!」

 簡易なベットの上に座っている男性と、その隣で椅子に座った女性が口論している。

 デルタとエプシロンだ。二人は奇妙な石造りの部屋にいる。殺風景な白っぽい灰色の空間、紺色のじゅうたん、窓の外も灰色で、重たい雰囲気の中、異様に二人の声だけが騒がしかった。どうやらエプシロンがデルタの治療をしているようなのだが、それが原因で口論しているらしい。

「もーちっと優しく出来ねーのかよ、この女はっ!」

 なんとか治療が終了したらしい。ベットの上に座っていたデルタはあちこちさすりながら、苦い表情をしている。治療が終了した割には包帯などは見受けられない。むしろ完璧にデルタの体の傷はえてしまっている。どこにも怪我らしい痕跡こんせきはない。

「私の治療に文句言うんじゃないわよ! 子どもに負けるようなヘマするまぬけにも治療してあげてるんだから、ちょっとは感謝なさいな」

 その手の宝石をさすりながら、エプシロンはつんとして言い放った。まさに痛いところを突かれ、デルタは思わず言葉に詰まる。

「うっ!……っていうか、予想外だったんだよ。あれ程まで、あんなガキが魔法を使いこなせると思ってなかったからよ!」

 言い訳がましくデルタが言うと、エプシロンはふぅんと冷たい視線を送り、

「って事は、相当アンタの読みが甘かったのね」

と、グサリ。またしてもデルタは言葉に詰まる。

「……っだってしょーがねぇじゃんよ!! まさか、あのガキ二人が水系や風系の魔法まで使えるなんて聞いてねーもんよ!? その上、戦力外だと思ってた小娘まで魔法攻撃使うんだぜ!?」

「まぁっ!! じゃあ何!? デルタ、ペルソナ様の伝達ミスだと言いたいの!?」

 デルタの発言に、エプシロンがいきなり怒り出す。

「そんな、わたくしのペルソナ様を侮辱するなんて許さないわよっ!!」

「んなこと言ってねーじゃねーかよっ!! っていうかペルソナ様は別にお前のもんじゃねーだろっ!! オレがいってんのは、なんでオレがずぶ濡れになるだけならまだしも、凍らされたり焼かれたり、しまいにゃ感電までさせられなきゃいけねーんだってことだよ!!」

 エプシロンの発言に怒り返すデルタだが、ちゃんとつっこみどころは忘れない。デルタの発言にエプシロンは腕組みしてデルタから目をそらしてまたも冷たく言い放つ。

「そんなの知らないわよ。アンタの仕事の仕方が悪いのよ。いずれにせよ、まだ手に入っている闇の石は一個なのよ。早いところ次の闇の石を探さなきゃいけないわ」

「わかってるっての! 唯一の手がかりは、全部あのガキ達が持ってるんだからな……。次こそオレが全部奪ってやるさ!!」

 デルタはそういって忌々しげにこぶしを握る。魔術学校の生徒とはいえ、まさかそこまで人並み外れた力があるとは予測していなかったことは事実だ。油断がなかったと言えば嘘になる。しかし魔法を使い始めてさほど年月の立っていない子どもにしては、能力値が高すぎる。子どもと思わず普通の魔術師と思って挑んだ方がよさそうだ……と内心考えながら。

「ま、今回は任せたわよ。ペルソナ様は石探しばかりに集中していられるほど、お暇じゃないんですからね」

 考え事を始めたデルタの内心など露知らず、エプシロンはそう言って立ち上がった。

「じゃ、わたくしには次の仕事があるので、これで失礼するわ」

「次の仕事ぉ? なんだよ、オレたちの仕事は闇の石探しじゃねーのかよ?」

 エプシロンの発言に一瞬、まゆをゆがめるデルタだったが、それを見て彼女は笑う。

「わたくしには、ペルソナ様と一緒にやらねばならない重要な仕事があるのよ。アンタと違ってね」

 口の両端を軽く歪めるように笑い、エプシロンは部屋を出て行った。その言葉に彼女の優越感ゆうえつかんを感じ、デルタはそれをフンと鼻で笑う。お互いに持つ能力が違うのだから、エプシロンに出来てオレに出来ない仕事もある。いちいち突っかかる女だ、とデルタは内心思った。もっともそれが彼女のペルソナ様への忠誠心ちゅうせいしん独占欲どくせんよくから生まれているのは周知のこと、それにいちいち苛立いらだつ気もないし、さすがにそれも萎えていた。

「重要な仕事……ねぇ……」

 言いながらデルタは窓から外に目を向ける。薄暗い外は曇り空で、更に重たく厚い雲が流れてきている。天候が崩れるのもそう遅くはないだろう。それを見ながらデルタも口の端を歪めた。

「確かに、探してるばかりでなくて、そっちも急ぐ必要はありそうだな……」

 遠くの空で稲妻が光る様子を眺めるデルタの表情は、どこか険しく見えた。





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