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双子の魔術師と仮面の盗賊  作者: curono
2章 双子とあやしいお兄さん
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闇の石探し

 四人が動き出したのは夕方を過ぎてからだった。あえて日が落ちる頃を狙ったのは、なるべく人目につかないようにとの考えからだ。ペルソナの行動は読めないが、少なくとも怪しい人物のデュオの目はごまかさなくてはいけない。校庭にシン達がいたことはばれていないはずなので、今彼らがヨウサの家にいることはまず分かるまい。問題はシン達が行動を開始した時、デュオに見つからないかどうか、ということだ。そう考えれば、人目につきにくい暗くなってからの時間の方がよいだろう、と判断したのだ。

 

「あんまり遅い時間にはならないで頂戴ちょうだいね」

 出かけぎわ、ヨウサの母親が優しい笑顔で四人を見送った。ヨウサの母親は、見た目は精霊族に近い、通常の人型をしていた。しかし、その髪の色と肌の色から、植物のマテリアル族の血が強いことが伺えた。植物のマテリアル族は髪の色が緑色をしているのだ。肩ほどの緑髪をふんわりとゆらしながら、ヨウサの母は首をかしげて尋ねた。

「一応おなかすかないように、お夜食つけたほうがよかったかしら? どう? サンドイッチでいい?」

「もぉ、母さんてば、大丈夫だったら…」

 母がおっとりとそんなことを言うので、ヨウサが恥ずかしそうに断る。

「あ、オラは食べたいだなぁ~」

「ボクも~!!」

「いや、普通それを断るのが、僕らの立場じゃない?」

 遠慮のないシンとガイをつっこむのが、シンジの役回りのようだ。

 結局、客人二人がそんなことを言うので、ヨウサの母親は四人分のサンドイッチを持たせて見送った。シンとガイが希望した途端、すぐにサンドイッチが出てきたということは、前もって準備していたのだろう。さすが、母の読みはするどい。


 玄関を出た途端、ガイは地面に魔法陣を描き出した。三人は見覚えがある。以前ペルソナと対戦したときに、気配を消すために用いたウリュウ家の呪術だ。慣れた手つきでガイが鏡を地面に向けて陣を描くと、まるで鏡がマジックのように光の線を描き、地面に光り輝く魔法陣が出来上がる。

「さ、みんな魔法陣に入って~」

 ガイの指示にしたがって、三人が陣に入ると最後にガイも続いて、呪文を唱えだした。

『異世界の扉を司るもの……。古の血の元に命ずる……。ボクらの存在をその異世界に潜めたまえ……影呑みの術!!』」

 ガイの呪文が終わると、魔法陣はくるくると回転しながら、その中心に消えていった。たちまち、四人の感覚がすっと軽くなる。そして呪文の名が示すとおり、彼らの影は地面から消えてしまうのだ。消えた影のあった場所を見て、シンがぐーんと背伸びする。

「ふー、毎回感じるだが、変な感覚だべな~」

「ま、存在感を消す術だからね~。これで全員に術をかけたから、ボクらみんな、好き勝手行動しても問題ないよ~。ちゃんと存在感は消えているから~」

 シンの言葉にガイが笑ってそう答えると、手に持った鏡を定位置の胸元に戻す。

「存在感は消せても、姿は見えるわけだから、慎重しんちょうに行動することは変わらないね。さ、早速本を使って移動してみよう!」

 シンジがうながすと、本を持ったヨウサがその本を開いた。開かれたページはあの魔法陣のページだ。

「いくわよ!……『クワエロ』!!」

 途端、魔法陣が光りだし、本の中の闇の石も回転を始めた。初めて呪文を発動させるヨウサはその様子に目を輝かせる。しばらくすると案の定、今の地図が魔法陣の中に写り、一つの闇の石が光っていた。光っている闇の石――その色は黄色だった。ぼんやりと薄く光り、やはり校庭のときほどの光の強さはない。それを見て、シンが真面目な表情でつぶやく。

「この石の光っている方向が、闇の石がある方向だと思うだべ。校庭からヨウサん家に移動する間に、この石の位置が変わっていただべよ」

「じゃ、この石の方向に進んでいくのが得策だね~」

 シンの言葉にガイがうなずくと、四人は歩きだした。決して速くはないが遅くもない。先頭を歩くシンが周りを警戒し、その後ろに続くシンジが本を持つヨウサに付き添うように歩く。その後ろをガイが鏡をのぞきながら追う。

「シンがしっかり前を見てくれれば、多分そう簡単に敵には見つからないよ。シンってかくれんぼ得意だもんね」

 シンジがいしし、と笑うと、シンが得意そうに答える。

「ま、泥舟に乗ったつもりで安心してついてくるだよ!」

「それを言うなら大船、でしょ~。泥じゃ沈んじゃうよ~」

 最後尾からガイの鋭いつっこみが入る。

 一見何も考えてないように見えるが、彼らなりに考えた並び順だった。視界の広いシンを先頭に置き、案内役のヨウサはいざという時逃げやすいようシンジがサポートし、術の使えるガイが背後に気を遣う、という訳だ。

 その甲斐かいあってか全く異変もなく、順調に四人は地図の指し示す方向に向かっていた。学校の横を抜け、町をどんどん南下していく。しかし石の指し示す方向はずっと街中のままだ。

「意外ね……闇の石は街中にあるのかしら……」

 本の石が一向に街中しか指さない様子を見て、ヨウサがつぶやく。それをのぞき見ていたシンジも首をかしげる。話を聞いていたガイが口を挟んだ。

「古代アイテムは相当力が強いからね~。ほったらかしにされている方が珍しいもの~。これはまた、何かに組み込まれている可能性はあるね~」

「何か? 何かって?」

 ガイの言葉にシンジが問いかけると、ガイはうなずきながら答える。

「ま、歴史的遺産とかね~。学校の時計みたいにさ~。……ホラ、なんかそれっぽいよ~」

「あ、光が強くなった……」

 ガイが言うのと同時だった。ヨウサは本の中の闇の石の絵が強く光るのを確認した。そして、前方のシンが歩みを止めた。

「なんか……目の前にあるこの建物っぽいだべな……」

 見れば目の前に広い草地が広がっていた。草地は白くて低い柵に囲まれ、草地の中心に石が敷かれた道がまっすぐ伸びていた。その道は草地の奥にある白い石造りの大きな建物に続いている。図書館の時よりも大きく、威厳ある雰囲気だ。

「どこだべ、ここ?」

「博物館だよ~。古代魔法道具博物館」

 シンが疑問を投げかけると、ガイが答えた。そしてそのままきょろきょろしながら、言葉を続ける。

「どうだろう……? これって入っても大丈夫かなぁ~?」

 ガイの質問に、シンも周りを見渡す。夕暮れ時で周りには誰もいない。建物自体もすでに閉館していることだろう。警備員の姿もない。

「芝生なら入って大丈夫じゃないかな? ひとまず入ってみようよ」

と、歩き出したのはシンジだ。一応周りに警戒しながら、静かに前進していく。その後をヨウサが続き、シン、ガイと続く。長い芝生の道の果てには、案の定、博物館を閉ざす大きな扉があった。木製の扉に金属で描かれた豪華ごうかな文様。その扉のちょうど中心に光り輝く魔法陣があった。白い光をうっすらと放ち、弱い光ではあったが点滅している。警備用の魔法陣だ。

「……こりゃ中に入れなさそうだねぇ~」

 魔法陣を見て、ガイがため息をつく。警備用の魔法陣では手が出せない。下手にいじれば警報と共に、警備用の魔物が現れることもある。

「このくらいの建物だったら、警備も厳しそうだものね……。どうしよう?」

 ヨウサが本を開いたまま、シンを見て問う。シンもうなって扉をにらむ。

「ペルソナはこれを難なくこじ開けてただ……。オラ達にもなんとか開けられないだべかな~」

 そういって、魔法陣に触れようとするそぶりのシンを見て、あわててシンジがそれを制する。

「やめときなって、シン! 下手に触るだけで魔法陣は作動だよ」

「とはいえ、このまま放置していても危険だべ! なにしろあのペルソナは警備もすり抜けて建物に侵入するやつだべよ!? しかもワープの魔法も使えるだよ!? このままオラ達がここで止まっていたら、逆に見つかって、きっと先取りされちまうだ!」

 シンの予測ももっともだ。それはシンジもガイもヨウサですら感じていることだった。しかし――とは言うものも、建物に侵入するいい案もないのである。

 ちょっとの沈黙の後、唐突に声を上げたのはガイだ。

「……出てくるトラップの種類にもよるけど、ちょっと試してみようか~?」

「何、ガイくん、ひらめいたの!?」

「やっぱりこういう時だけは、ガイって役に立つだべな!」

 ガイの発言に、まだ何も内容を言っていないのにヨウサとシンが期待に満ちた目を向ける。シンの発言の内容が少々気にかかったようではあるが、ガイは言葉を続ける。

「失礼だなぁ~! ボクはいつでもどこでも役に立ってるじゃないか~。……さておき、今ボクらは、影呑みの術のおかげで気配は消されているでしょ~? 魔物の目があんまりよくなければの場合だけど〜、うまくいけば隙をついて侵入できるかもしれないよ~?」

「確かに気配は消えてるけど……でもどうやって?」

 ガイの発言にシンジが問うと、ガイは三人を手招きして、扉から離れていく。博物館の芝生の脇には低い木々の茂みがあり、ガイはそこに姿を隠す。三人もそれに習う。しかし扉から茂みまでは距離がある。走っても十秒近くかかるだろう。

「ここからどうするだべ? 警備の魔法陣を発動させてからここに隠れても意味なくないだか?」

 シンの発言にガイは、あきれるようにつぶやく。

「警備の魔法陣を発動してから隠れたって何の意味もないでしょ~。肝心なのは、ここから魔法陣を発動させて、魔物が僕らを探しているうちに、こっそり侵入するんだよ~」

「え、逆にここから魔法陣を発動させることなんて出来るの?」

 ガイの発言にシンジが首をかしげて問うと、ガイはあははと笑った。

「誰かがおとりになれば、できるんじゃないかなぁ~」

 ……三人の視線は一斉にガイを向いていた。

「って、ええ~!?? ボ、ボクがおとりなの~!?」

「だって、言いだしっぺじゃない」

 ガイのなげきに、実もふたもない口調でシンジが言い切った。

「大体、どうやってセキュリティの魔物を追い払うのかも、私じゃ想像できないもん。ガイくんなら……できるかもしれないけど……」

「これはガイの力を見込んでお願いするだべよ!! ……というか、一体どうやってそんな真似するのかオラもわかんねーだ」

 ガイの作戦が理解できないと、ヨウサもシンも首をかしげて、完全にガイに投げている。こうなったら行動できるのは彼しかいない。

「とほほ……言わなきゃよかった……」

 今更後悔しても遅い。ガイは決心を決めると、半分やけくそで立ち上がった。もはやここまで来るとその顔は怒っているのか泣いているのかわからない。

「よし、じゃあ行ってくるよ!!」

と、ガイが出て行こうとすると、あわててシンがそれを止めた。

「待つだ!……だれか来ただべよ!?」

 シンはガイを制してそのまま下に勢いよく押し付けると、痛がるガイの口を抑え、茂みの間から扉を盗み見る。シンのその発言に、シンジとヨウサも、茂みに身を隠したまま、わずかな隙間から扉を見る。

 見れば、扉の前に一人の男が歩み寄ってきた。夕暮れ時で姿が確認しにくいが、灰色の服装に灰色の髪、がたいのよさそうな体格をしている。双子には見覚えがある。食堂で近づいてきた謎の男、デュオだ。

 デュオは、扉の前に立つと、そのまま辺りをきょろきょろ見渡しだした。人目につかないよう警戒している、というよりも、その様子は何かを探しているように見えた。

「あいつだべ……あいつが本を狙っていた男だべ」

 茂みの中で、音を立てないようそっと横を向きながら、ひそひそとシンが声を発する。

「あの人? あの人が本を狙ってた人なの? ペルソナには見えないけど……」

 シンの発言にヨウサもひそひそ声で問いかけると、隣でシンジが答える。

「ペルソナではないと思う。でも、本を狙っている人だと思うよ。こんな所にいるなんて……やっぱり僕らを追いかけてきてたのかな?」

「姿は見られてないと思ったんだべが……」

 シンジの問いにシンがまゆをひそめる。その下で、いつの間にかシンの手から逃れ、同様に茂みの合間から男を観察していたガイが、三人の会話を止めた。

「……しー。声出すとばれちゃうよ~……。あの人、何かブツブツ言ってるよ~」

 ガイの発言に、三人は黙って耳を澄ます。すると、デュオは頭をかきながら舌打ちしているではないか。

「くそっ……この辺りに来ていると思ったんだがな……。読みが外れたか……? いやいや……あの方がそんなミスをするはずないしな。……くそ~! どこ行きやがった!」

 悔しそうにブツブツ言っているその姿を、こっそり子ども四人に除き見られているとは夢にも思うまい。

「どこいきやがった……って、やっぱり僕達のこと探してたんだね、アイツ」

 デュオの発言にシンジが厳しい表情でつぶやく。警備魔法陣の解除方法が分からず、ひとまず隠れて正解だったようだ。

 しばらくデュオは周りをきょろきょろしていたが、目的の物が見つからないらしい。苛立いらだちげな様子は変わらないが、少し落ち着いたのか、あごに手を当て考え事を始めた。

「待てよ……。あいつらがここに来ることに間違いはないはずだ……。もしかしたら追い抜いちまったのかもしれないよな、うん。……ってことは、待ち伏せしてたっていいわけだ。中に入って待つって手もあるか!」

 と、ぽんと手を打って、いかにもひらめいた、のポーズをとると、シン達四人があっと思う間もなく、デュオはその扉に手をかけた。

 キィィン、と空間を鋭く刺すような高い音と共に、扉の魔法陣がくるくると回転しながら大きくなった。白く光るだけだった魔法陣の輝きは赤色に変わり、空間を刺すような高い音は徐々に低くなり、地を震わすような低音になった。

「あちゃ~……セキュリティが発動したよ~」

 目を見張るシン達に、ガイがあらら、という感じでつぶやく。セキュリティが始動する様子を見るのは初めてなシン達だったが、それはどうやらデュオもそうだったらしい。魔法陣が巨大化するその様子に、まぬけに口を開いて目を丸くし、固まっている。

 そんなデュオの目の前で、巨大化した魔法陣の表面が水面のようにゆらめきだした。――空間の歪み、それはこの世界に違う空間が接している証拠だった。どうやらそれを見て、ようやく事態を悟ったらしい。

「……って、おい、これはまさか……召喚魔法か……!?」

 その直後、獣の叫び声と共に、魔法陣の中から現れたのは巨大な犬の顔だ。しかも鋭い牙を持ち、その目は緑色に光り四つも見開かれている。そのでかい口では、人ひとり余裕で飲み込めてしまうだろう。そのあまりの巨大さに、デュオだけでなく、横から見ている四人も思わずまぬけに口を開いたまま見入ってしまう。

 巨大な魔物の出現に、デュオは跳び上がって一気に後退する。しかし構えを崩す様子はない。その立ち振る舞いから、どうやら多少の武術は身につけているようだ。とはいえそんな彼も、まさかこんな化け物が出てくるとは予想していなかったようだ。相変わらず目を丸くして、その様子に面食らっている。

「なんだよなんだよ、一体こりゃ何の仕組みだよ!?」

 どうやら自分が警備の魔法陣を作動させたことに気がついていないらしい。そうこうしているうちに、魔法陣から現れた巨大生物はその全貌ぜんぼうを現した。

 現れたのは一匹の巨大な犬型の獣だ。紺色の毛並みをした全身には、緑色に光る模様がまるで機械の電子回路のように走っていた。四本足で立ち上がり、額には四つの眼光――。大地の属性に分類する召喚魔獣だ。

 現れた魔獣を見て、心からほっとしたように、ガイがつぶやく。

「ホントにボクがおとりにならなくてよかった~……。あれじゃボク、死んでたよ~!」

 ガイのつぶやきに、三人も同時にうなずいた。とてもじゃないが、あんな魔獣とは対面したくもない。

 そんなやり取りを彼らがしている頃、魔獣は、その四つの眼光でデュオを捕らえていた。魔獣は獲物を確認すると大きく一鳴きし、低く構えをとった。その様子にデュオが顔を引きつらせる。

「……こりゃオレを獲物と思っていやがるな……」

 嘆く間もなく、魔獣はそのまま彼に突進してきた。その巨体で体当たりされたらひとたまりもない。寸でのところでデュオはそれをかわすが、さすがは警備の魔物。四つの目はその動きをしっかりとらえていた。かわした直後に、魔物はその巨大なしっぽでデュオを勢いよく打ちつけてきた。だが敵も然る者、その攻撃は読んでいたらしく、すかさず跳び上がってそれもかわす。デュオが着地すると、今度は先ほどの立ち位置とは逆になって二体は向き合っていた。

「まったく、今日は厄日だな……!なんでこんなでかいのと戦わなきゃいけねーんだよ!」

 などとデュオは毒づくが、自分で撒いた種である。そして魔物の方は待つつもりも情けをかけるつもりもないようだ。また威嚇いかくするように一鳴きすると、間髪いれず攻撃を仕掛けてくる。

 そんな二体の攻防を、茂みの中からシン達は見ていたが、唐突にシンジがシンの袖を引っ張った。

「……ねぇ、これってチャンスじゃない? 今ならこっそり中に入れるかも!」

 あまりの出来事に、みんな唖然あぜんとしていたが、言われてみればまさに今がチャンスである。シンがその言葉にはっとしたように言う。

「言われてみればそうだべな!」

「そうだね~、多分今なら魔法陣は解除された状態だよ~!」

 ガイの発言に、四人は男と魔物の様子をこっそり見ながら、ばれないように茂みから出る。そして扉に向けて、こそこそと歩き出した。先頭を歩いていたシンが扉を見る。思ったとおりだ。魔法陣は消えてはいないが、うっすらと透明化し、魔法陣の枠組みだけがぼんやりと残っている。魔物を吐き出して無効化しているのだ。

「今だべ!」

 と、扉に手をかけて開いた途端、ぎぎっと扉のきしむ音が響いた。

「……ぬあ!? てめーらいつの間にッ!?」

 その音にデュオが気がついてしまったようだ。魔物のしっぽをつかみ、噛みつれないようにと攻防していたデュオがあわてて声を上げる。見つかってしまったら、後はもう先に進むだけである。デュオの様子にいち早く気がついたシンジが声を上げる。

「やばっ!!」

「急ぐだべよっ!」

 それまで慎重に扉を開けようとしていたシンだったが、見つかったことに気がつくと、勢いよく扉をあけ、中に滑り込んだ。

「な! てめーら待ちやがれ!!」

 シン達に気がついたデュオが声を荒げて叫ぶと、それから逃げるように、四人は扉の中に向かう。デュオもそれを追おうと魔物の尾を離し駆け出すが、魔物はそれを阻むように、その巨体の半身を激しく振ってデュオに体当たりする。シン達四人に気が向いていたデュオは、魔物の体当たりをまともに食らい、数メートル吹っ飛んだ。

 その隙に、シンに続けてガイが、ヨウサが、最後にシンジが博物館の中に滑り込む。最後に入ったシンジが扉を閉めるとガイもシンもそれを手伝う。何とか扉を閉めると、シンジは以前食堂でやったように、扉に向けて勢いよく水魔法をお見舞いし、立て続けに氷魔法を発動させる。水浸しになった扉は完全に凍りつき、びくともしなくなった。これでしばらくは外部からの侵入を防げるだろう。

「ふー。危機一髪だね!」

 安心したようにシンジがため息をつくと、ヨウサもシンも胸をなでおろす。しかしのんびりしている余裕はない。まだ闇の石は見つかっていないし、いつあの男が追いついてくるかも分からないのだ。

「油断はしてられないよ~! あの人が魔物と戦っている今のうちに、闇の石を見つけておかなくちゃいけないよ~!」

 安心している三人に、ガイが厳しい表情で訴えた。その言葉にシンもシンジも深くうなずいて顔を見合わせた。

「確かに、今のうちに見つけておかないといけないだべな!」

「ヨウサちゃん、またあの本を」

 シンジの呼びかけに、ヨウサはうなずいて再び本を開いた。

『クワエロ!』

 呪文と共に、再び本は輝きを取り戻した。闇の石の在り処を示す黄色の光は、よりいっそう輝きを増していた。点滅のスピードも速い。確実に近づいている証拠だ。

「探し当ててやるだべよ!」

 四人は暗い館内を歩き出した。




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