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双子の魔術師と仮面の盗賊  作者: curono
1章 双子と仮面の盗賊
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作戦会議

 放課後、四人はシンとシンジの部屋に集まった。いつも双子が使っている机には四つのクッションが置かれ、それぞれに四人が腰かけた。机の上にはでかでかと白い紙が広げられ、四人分のジュースも置かれていた。廊下側の窓はしっかりカーテンを閉め、中の様子が見えないようにした。外側の窓も、薄いレースのカーテンを閉め、同様に外から様子が見えないようにされていた。もっとも、そこまで慎重しんちょうになる必要はないのだが、四人にとってこの会議は大事な秘密会議なのだ。まだ日はあるというのにライトまで付け、雰囲気はばっちり、秘密基地での秘密会議といったところだ。

「まず、状況を整理するよ~」

 ガイが片手にペンを持って、白い紙に書き込みながら話しはじめた。

「事件があったのは、昨日の夜。時計台の中に不審者が入るのを見かけたフタバくんから話を聞いたのが始まりだね〜。この時、時計台の見張りに残ったのが、シン、シンジの二人で、先生を呼びに行ったのが、ボクとフタバくん」

と、ガイは塔のそばに棒人間を二人描いて見せ、後二人を離れた所に描いた。

「呼びに行ったボクとフタバくんは、先生が寮にいない可能性も考えて二手に分かれた。ボクが寮に〜、フタバくんは体育館に〜」

 その説明に、シンがうなる。

「へぇ~、意外にガイ、ちゃんと考えて動いてたんだべな!」

「ガイじゃなくて、フタバくんじゃない?」

 変わらずシンジのつっこみは手厳しい。その言葉にガイが憤慨ふんがいする。

「ひどいな~! ボクだってちゃんと考えてるよ~!」

「まぁまぁ、話を続けて、ガイくん」

 怒り出すガイをヨウサがなだめると、少々不服そうだが、ガイは再び説明を続ける。

「……で、ボクがレイロウ先生とハセワ先生を捕まえていた頃、シン達は塔に登っていたんだよね~?」

「そうだべ。このまま放っておいても危険だと思って、とりあえずその怪しい奴が何者かを突き止めようとして登ってみただ」

 ガイの質問にシンがうなずいて答えると、ヨウサが眉をよせてつぶやく。

「そこでどうして登るのよ。怪しい人物でしょ? あっちに見つかって襲われたら、それこそ危険だったじゃない」

「大丈夫だべよ! こう見えても、オラは強いだべよ~」

 ヨウサの言葉に悪びれるどころか、イシシと笑ってシンが自信たっぷりに言う。それを見て、ヨウサがため息まじりに言う。

「そんなこと言って……。相手は大人でしょ? 危ないに決まってるじゃないの! 武器持ってたり、魔法使えたりするかも知れないのよ。シンジくんまで、シンくんを止めないでついて行っちゃうなんて……」

 ヨウサの言葉に、シンジが苦笑いして答える。

「えへへへへ……。でも、ホントにこう見えてシンは強いよ。僕より強いもん」

 その返事にヨウサがまたため息をつく。

「そりゃ、子ども同士の話だもの……」

「さておき、話を続けるよ~」

 三人の会話が脱線して止まらないので、ガイがコツコツと机をペンで叩いて話を続ける。

「で、シンとシンジが塔の天辺についたら、怪しい男が居たんだね~」

「そうだべ! 不気味な男だったべ!」

 シンがガイの問いかけに険しい表情で返す。思わずガイの表情も険しくなるその隣で、ヨウサが会話に混じって質問を投げかけた。

「ねぇ、その怪しい男ってどんな顔してたの? 確か仮面をつけているんでしょ?」

「そうだべよ、気持ち悪い仮面をつけてただ! あ、似顔絵描いてやるだべよ!」

 と、シンが白紙に向かってペンを持つと、シンジがあわててそれを制する。

「あ、それなら僕が描くよ! シンの絵じゃ絶対分からないから……」

 シンのペンを取り上げて、代わりにシンジが紙に似顔絵を描き始める。止められたシンは、むっとした表情で声を上げる。

「ちょっと待つだ! シンジ、それどーゆー意味だべ!?」

「確かに~。シンくんの絵って、ちょっと芸術的過ぎて理解に苦しむものね」

 そんな二人の目の前で、ヨウサがクスクスと笑う。シンはその発言に首をかしげる。

「そーだか? オラは分かりやすく描いてるつもりだべがなぁ~」

「いや、簡単にいえば、シンの絵はヘタクソってことだよ~」

「なにを~!? おめーに言われたかねーだべ!」

 ガイが大声であはははとシンを笑うと、シンがむっとしてクッションを投げつける。

「できた!!」

 そんな三人を尻目に、シンジが似顔絵を描き終えた。シンジの声に、ヨウサも、ケンカの始まったシンとガイも、机の上の紙に顔を寄せた。

 黒ペンで描かれたその似顔絵は、絵でありながら異様な禍々《まがまが》しさがあった。細長い顔の輪郭に、異様に見開かれた黒い瞳の空洞、目元まで裂けた黒い空洞の口、ひたいには何か光るものが描かれ、長い銀髪が仮面の横を流れ、服装は足元から襟元えりもとまで真っ黒だった。

 その絵を見て、ヨウサとガイが思わず息を飲む。

「……ホントにこんなお面してたの? なんか、怖い……」

「話には聞いてたけど、ホントに不気味な奴だね~。いかにも悪いことしそう〜……」

 身震いするヨウサの隣で、ガイも眉をひそめてつぶやく。

「おお~、さすがオラの弟! 絵がうまいだべ!」

 その傍らでシンが感心している。

 シンジはそのシンの言葉には答えずに、ふと思い出したようにつぶやいた。

「そういえば、こいつ名前名乗ってた。今思い出したよ。名乗る名はないが、もし名乗るなら……」

「……名乗るなら??」

 ヨウサが身を乗り出すと、シンジはうつむいていた顔を上げ、ヨウサを見つめて答えた。

「……『ペルソナ』って……」

「ペルソナ……!?」

 予想違反して、その言葉に反応したのはガイだった。いつもまぬけているその表情には、緊張の色が見え、いつも一緒に居る三人ですらその様子に驚くほど、ガイの表情が険しかった。

「……が、ガイ……。一体どうしただ?」

 ゴクリと唾を飲み、シンが恐る恐る尋ねる。ガイはシンの方をゆっくり振り向くと、その緊張した表情のままうなずいた。

「……いやぁ、初めて聞く名前だと思って~」

「あたりまえだぁーっ!!」

 ガイのおとぼけた解答に、何かを期待していたらしいシンとシンジが勢いよくどついた。

「あいたた……何も叩かなくても~!!」

 抗議するガイを尻目にシンとシンジが、ぷんすかと怒る。

「今の言い方は何か知ってそうな雰囲気だっただべよ! なのに何だべ、知らないだべか!!」

「もぉ、僕も騙されたよ。つい期待しちゃった」

「はいはい、ガイくんのボケはどーでもいいから、さ、話を進めましょ」

 様子を見ていてあきれたらしいヨウサが今度は話を戻す。ガイのおとぼけよりも、事件の詳しい話が気になるようだ。

「その『ペルソナ』っていったけ? そいつは屋上で一体何をしていたの?」

 ヨウサの問いに、シンとシンジも真面目な顔に戻る。

「もちろん、時計を破壊して行っただよ!」

「そ。はじめ僕もシンもそいつの様子を見ていただけなんだけど、いきなりペルソナがへんな呪文唱えて……。そしたらたちまち時計が壊れたんだ」

 二人の説明にヨウサは眉をひそめる。

「いきなり時計を壊すなんて……。しかも、呪文ひとつ? 道具とか使わないで?」

「……そうだね……。そういえば呪文ひとつだった。聞き覚えない呪文だったけど……」

 ヨウサの言葉にシンジが首をかしげて答える。その時の様子を思い出しているようだ。それはどうやらシンも同様だったらしく、隣でしばらくうつむいて考え込んでいたが、突然顔を上げ、再び口を開いた。

「……そういえば、あの男『ペルソナ』の狙いは石だっただべ。光の石でなくて……」

「闇の石!!」

 シンの言葉をシンジが続けた。石のことは初耳であるヨウサが身を乗り出して問う。

「なんなの、その『光の石』とか『闇の石』っていうのは?」

「オラたちも詳しくは知らないだが……。フタバから聞いた話だと、超古代文明の時代に作られたものらしいだべ」

 ヨウサの問いにシンはごもごもと答える。

「超古代文明って……ガイ君がこないだ言ってた、あの話? ホントかウソか、わからないっていう……」

「ホントだってば~!」

 ヨウサの発言にガイが間髪入れずつっこむ。

「ボクの兄貴が言ってた話だし、何より時計台の時計に、その石が入っていたのがいい証拠じゃない~!」

「でも、たしかにあのペルソナって奴は、『闇の石』って言ってた……。超古代文明のアイテムなのかどうかはわからないけど、確かにすさまじい力を持つアイテムだったよ」

 ガイの言葉をさえぎって、シンジも口を挟む。その言葉を次いでシンも同調する。

「そうだべな、あの男の狙いはあの『闇の石』ってヤツで、そのために時計を壊しただ」

 シンはそう言いながらうんうんとうなずく。

「なるほど……。犯人はペルソナ、そしてその狙いは時計の破壊ではなく、『闇の石』というアイテム、というわけね」

 ヨウサが三人の話を聞いて、紙にペルソナの情報を書き足した。

『ペルソナ

 時計を壊す

 目的:闇の石』

 そうヨウサが書き込むと、それを見てシンジがふうとため息をついた。

「正直、時計を壊したとかどうとか言っている場合じゃないよね……。それの犯人にされているのはムカつくけど」

「そうだべよ! 闇の石を盗んで何するのか分かったもんじゃないだべよ!! あれは相当の力を持つアイテムだべ!! 悪人が持っていたらろくなことに使われねーだべよ!!」

 シンが握りこぶしをふりまわし必死に叫ぶ様子を見て、ガイがそれをなだめる。

「そりゃそうだけどさ~……。確かにどんな悪事を働くかわからないけど、もしかしたら何もしないかもしれないよ~」

「そうかしら? 時計壊すほどだから、いい人ではなさそうよ」

 ヨウサが厳しい表情でつっこむ。

「どっちにしても、石は取り戻したほうがよさそうだね。このままじゃ時計も直らないだろうし、なにより僕ら、犯人扱いから抜け出せないよ」

 シンジが決心したように言うと、シンもうなずき、声を荒げた。

「そうだべ!! 真犯人を捕まえて、オラたちが犯人でないってことを証明してやるだ!!」

「そうね! 確かにそれが一番だわね!」

「おー! 絶対犯人つかまえてやろう!!」

「めんどくさいけど、シン達のためだからねぇ~」

 シンの発言に、残る三人も同意した。顔を見合わせ、三人はにやりと笑う。

 ……が、しかし。

「……でもさ、どうやって捕まえようね? どこにいるかも、次どこに来るかも分からないよ?」

 シンジがきょとんとしてつぶやくと、たちまちみんな沈黙した。

「……」

「……」

「…………」

「だぁ~!! しまっただ!! 犯人の居場所なんてわからねーだぁ~!!」

 シンが事の重要さに気がついて、頭を抱えて騒ぎ出すと、意外にもガイが口を開いた。

「……ひとつだけ手があるよ~? ……やってみる~?」

 細い目に不敵ふてきな雰囲気を漂わせ、軽く口元を歪めてガイが笑った。




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