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双子の魔術師と仮面の盗賊  作者: curono
1章 双子と仮面の盗賊
10/150

濡れ衣

 いつものように登校し、いつものように普通に授業があって、今日も楽しい学校生活のはずだった。ところが朝登校してすぐに、ヨウサは職員室に向かって走っていた。まだ登校時間で、生徒がぱらぱらと教室に入り、和やかな雰囲気の中、廊下を走るヨウサとガイだけ、異様な緊張感があった。

 階段を飛び降りるように降りていくヨウサの後ろを、情けないくらいぜいぜい言いながらガイが追いかけていた。透き通った白い階段の手すりにもたれながら、ガイは先を走るヨウサに叫んだ。

「待ってよ~! ボク、そんなに速く走れないんだから~」

「もぉ、いいからガイくんも急いで!! 唯一の証人じゃない!」

 立ち止まるガイに気付いて、ヨウサは一瞬ため息をついて、元来た階段を上がっていく。ガイの元まで来ると、疲れている彼の腕をとり、強引に下に引っ張っていく。ヨウサのその真剣ぶりに、ガイは仕方なく引きずられるように階段を下りていく。ガイを引きずりながら、ヨウサは怒気のこもった声を荒げて言う。

「大体何なのよ、その時計を壊したって!? そんなひどいこと、シンくん達がやるわけないじゃない!!」

「ボクだって知らないよ~! だって、ボクらが戻ったときには、すでに時計が壊れるところだったんだから~!」

 ヨウサの怒っている様子に少々怯えながら、ガイが必死に訴える。ガイの発言を聞き、ヨウサはガイに振り向いてにらんで続けた。

「まさかガイくんまで、シンくんを疑っているわけじゃないでしょうね!?」

「まさかまさか~!! ボ、ボクだってシンとシンジは信じてるよ~!」

 ヨウサの迫力に圧倒されるように、ガイはぶんぶんと首を振って否定する。

「じゃあ、はやく先生たちにホントのこと言おうよ!!」

 と、ヨウサがガイの腕を強くつかみ、叫んだ。二人は肩で息をしながら、職員室の前まで来た。

 ヨウサは、まだぜいぜい言うガイをよそに、さっそく扉に手をかけ、中の様子を伺うようにそっと扉を開けた。


「だからオラじゃねーだべ!!」

 突然シンの声が響いた。ヨウサが奥を見ると、先生の机の奥に、見慣れた赤い頭髪が見えた。職員室全体は落ち着いた木目調のつくりになっていて、思ったより広いその空間には先生の机が学年ごとにまとまっていた。そんな机のずっと奥に声の主がいるようだ。二人は背伸びするように奥に目をやる。職員室の奥は応接できる空間になっていて、そこに赤頭と青頭の少年二人が並んで立っているのが見えた。シンとシンジだ。その二人の横に、担当のレイロウ先生が困った顔で腕組みをして立っており、少年の前には、腕っ節の強そうな男の先生が腰に手を当て、顔を真っ赤にして怒っていた。

「うわぁ……よりによって、ハセワ先生に怒られてるよ~」

 ヨウサの隣から、同じようにこっそり職員室をのぞき込んだガイが、二人を怒る先生の顔を見てぶるるっと首を振る。どうやらその先生はハセワ先生というらしい。ハセワ先生は短髪の頭でいかつい顔をいつも以上に怖くして、目の前の少年二人を叱りつけている。

「ハセワ先生怖いからなぁ~……。よかった、ボク怒られる側じゃなくて……」

「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ! いくわよ!!」

 怯えるガイの腕を再びむんずとつかんで、ヨウサは勢い込んで職員室内に入った。

 その一方で、口論はまだ続いている。

「だから、僕らじゃないんですってば! へんな男が壊していったんです!!」

 今度はシンジの訴える声がして、立て続けにシンも「そうだべそうだべ!」と賛同する。もともと声の大きいシンである。訴えようと声を荒げるので、余計にうるさく、先生も負けずにデカイ声で叫ぶ。

「うるさい!! 大体あの塔に登っていたのはお前らだけだろう! それにそのあやしい男がいたなら、塔をのぞきに行ったレイロウ先生が見ているはずだろう!?」

「だってあの男、飛び降りたら消えてたんだべよ! 階段使って降りてないだべ!」

「飛び降りたならなおの事、他のみんなも見れただろう!? でもどうだ、目撃者はいないだろう!!」

 シンの訴えもハセワ先生の言葉で一蹴されてしまった。担当のレイロウ先生は、むむむ、とうなって二人を見る。そこにヨウサとガイがひょっこり現れたものだから、レイロウ先生も目を丸くして驚いた。

「あれ、なんだ、ヨウサもガイも来たのか……」

「だって先生、シンくんたちに濡れ衣がかかっているって聞いたらきますよ!」

 レイロウ先生の言葉にヨウサが厳しい表情で言う。

「ヨウサ! おめー、時計のこと誰から聞いただべ!?」

「ガイも助けに来てくれたんだね!」

 突然な二人の登場に、シンもシンジもほっと表情を和らげる。やはり緊張していたようだ。

「先生、シンくん達が時計壊したなんて、嘘ですよね!?」

 とヨウサ。

「当たり前だべ!! オラたちはむしろ、時計壊そうとしているところを阻止しようとしただべ!」

 シンがぶんぶんうなずいて訴えると続けてシンジも訴える。

「僕らが壊すわけないじゃないですか! きれいな時計で学校の自慢の一つなのに!」

「……って言ってますから、ホント、シンとシンジじゃないって信じて~」

 とガイ。

 一気にこの四人がぎゃいぎゃい騒ぎ出したものだから、ハセワ先生が四人を制して言う。

「静かにしなさい! みんな一気喋ったらうるさいだろうが!! まったく、余計な二人が増えて、余計うるさい……」

 四人のにぎやかぶりに、少々お怒り気味らしいハセワ先生が怒鳴りつける。それを見て、レイロウ先生がなだめる。

「まぁ、ハセワ先生落ち着いて……。彼らもこう言っているわけですから、きっと犯人ではないですよ」

「とはいえ、壊れた時計の現場にいたのは、レイロウ先生と私と……あと、このガイだけじゃないですか」

 レイロウ先生の言葉に、ハセワ先生がため息をついて返す。レイロウ先生は頬をぽりぽりと人差し指でかき、困った様子で返事をする。

「まぁ……確かにそうなんですよね……。確かに、私達もガイも、塔の周りで不審人物は見ていない……。その上壊れた時計の台座にいたのは、この二人だけ……。それ以外誰もいなかった……」

 そう、時計台の時計が壊れたとき、ガイとフタバは先生を呼びに行ったのだが、その時呼ばれたのが、この校舎の職員寮に住んでいるレイロウとハセワだったのだ。ガイはこの二人を連れ、不審人物の入った塔へ戻った。その直後、塔の天辺から破壊音がして、彼らのすぐ目の前に、時計の粉々になった残骸が降って来たのだ。あわてて先生達とガイが塔を登って、そこで三人が見たもの――それはくだけて空っぽになった時計台、そしてその台座の上で、呆然ぼうぜんと立ち尽くしているシンとシンジの姿だったのだ。


「ほら、みろ!! お前達以外怪しい人物はいないんだよ!!」

 レイロウ先生の返事に、ハセワ先生がシンとシンジの二人を指差して怒鳴る。

「だから、それはちがうだべ!!」

「ホントにいたんだってば! 怪しい人物が!!」

 ハセワ先生の決め付けに、シンもシンジも反射的に否定する。普通の子なら、泣いてしまいそうなくらい怒られているのだが、それでも自分の意見を曲げないこの双子だ。その反発的な態度が余計先生を怒らせているのだろう。二人の反応を見て、ハセワ先生は顔を真っ赤にして怒鳴った。

「黙れ! そんな嘘、誰が信じるか!! 自分のやったことをごまかす為に、嘘をつくなんて最低だぞ!!」

「先生! シン君もシンジ君も違うって言ってるじゃないの!!」

 予想外に、今度はヨウサが怒った。

「そんな悪いことするような二人じゃないもん! ホントに不審人物がいたのかもしれないでしょ!!」

「確かに、」

 と、今度はレイロウ先生が、ヨウサの物言いに怒鳴ろうとしていたハセワ先生を制して、口を開く。

「ホントに不審人物がいた可能性も当然ありますよ、先生。そもそもガイが私達を呼びに来たのは、本当に不審人物を見たからかもしれないでしょう? それで、シンたちは見張りをしていた所、犯人に逃げられたのかもしれませんしね……」

「全くもってその通りだべ!」

 シンがすぐにうなずいて返事をする。そんなシンの様子を見て、ハセワ先生がむっとしてにらみつけると、シンも負けじとにらみ返す。それを見て、シンジも先生をにらむ。

「それに、ハセワ先生。彼らは私の生徒なので分かりますが、そんな悪いことをしたり、嘘をつけるような子ではありません。むしろバカ正直で嘘がつけないというか……」

 レイロウ先生が続けてしゃべると、シンもぶんぶんうなずいて続ける。

「そうだべ! オラたちはかしこい、いい子だべよ!」

「自分で言うかな~」

 とガイ。

「なんか、褒め言葉をひとつも言われてない気がするけど……」

 シンの隣で、シンジが複雑な表情で首をかしげる。

「ともかく、正確な証拠がない以上、彼らを犯人と決めつけるのはやめましょうよ」

「その通りじゃな」

 レイロウ先生の言葉に続いて、突然みんなの背後から声がした。

 一斉にみんなが振り向くと――。

 ゆったりとした青みかかった黒の光沢が光る服、真っ白いひげ、目も見えないくらいたっぷり伸びた白い眉。その姿を見れば、誰もがわかる、このセイラン学校の校長だった。

「校長先生! 今回の件、もう聞かれたんですか?」

 レイロウ先生が、その姿を見て驚いた様子で声をあげると、校長は身体をゆらして笑って答えた。

「ほほほ……。なにぶん耳年よりでな」

「……耳年よりってなんだべ?」

 コソコソとシンはシンジに耳打ちしている。そんな二人をよそに、校長はひげをなでながら先生二人を見て続ける。

「今回の件は、ずいぶん不思議な現象のようじゃな。誰が犯人か分からぬが、大事な時計が壊されたことは事実じゃ。この二人は確かに怪しいが、犯人でないと言っており、また証拠もない以上、犯人扱いしては気の毒じゃ。今回の件はこのくらいにしておきなさい」

「しかし、校長」

 ハセワ先生が言いかけて、それを手で制して校長は続ける。

「校長命令じゃ。この二人はもう教室に戻しなさい」

「やったぁ!」

「よかった~、ホント心配しちゃったわ」

「やれやれだよ~」

「ありがとだべ!じっちゃん!」

 その言葉に、四人は顔を見合わせて喜んだ。となりでレイロウ先生もほっと安心した様子だ。思わず駆け出そうとする四人と一人の後ろから、校長は再び声をかける。

「あぁ、でも無断で塔に侵入した罰は与えねばならんからのう。放課後、掃除の手伝いに、校長室まで二人は着なさい」

「ええ~!!」

 歩みを止めて、シンとシンジが声を上げた。





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