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夢は俺の中に  作者: 創造 一輝
第三部
3/4

夢は未来を


4.分からない


 俺はその後、怒りが収まらないまま、一組に向かった。

 宮本と話すためだ。無論、愉快なトークをする訳では無い。

「宮本。竹本とかいう女になんか吹き込まれただろ。内容を教えてくれないか」

俺はできる限り、優しい声を心掛けた。

「……嫌よ」

宮本は小さく、か弱い声で呟いた。

「わかった。ここで話さなくていい。放課後、喫茶店に来てくれ」

紙に集合場所の簡単な地図を書いた。

宮本はその紙を一瞥し、その後俺の顔を見上げ、小さく頷いた。

目元が潤んでいるように見えた。

 今日、俺は一度もノートを開かず、黒板をぼっーと眺めていただけで一日が終了した。

だが、学校が終わったと同時に活気を取り戻した。

背中に勝の声が聞こえたが、無視し、真っ先に目的の喫茶店に向かった。

 到着し待っていたのだが、宮本は思いの他早く来た。

宮本は無言のまま俺の目の前に座り、近くにいた店員にコーヒーを注文した。

俺も続けてそれにならった。

 俺らはしばらくの間、全く言葉を交わさず、互いに俯いていた。

はたから見たら、別れ際の恋人同士に見えたことだろう。

意外にも先に口を開いたのは宮本だった。

男としてダサいなとこんな時でも自分に嫌気が差した。

「約束通り話すわ…。」

俺は次の言葉を待った。

「……あの女に『上野くんにこれ以上近づくなら今以上に孤立させてやるわよ』って脅されたの。……それで私怖くなって……!」

宮本は後半にかけて、声を震わせ終いには泣いた。

俺は守りたいという思いに駆られ、思わず席を立ち、宮本を抱きしめた。

宮本は拒絶しなかった。

 俺達はその後、そのまま家に帰った。

家に帰ると、母が心配そうな表情を浮かべていた。

父はまだ帰宅していないようだった。

妹は漫画を読んでいる。

 夕飯は比較的ゆっくりと口に運んだ。

色々と考え事をしながら、食べているため自然とペースが落ちてしまうのだ。

やっとの思いで食べ終わり、直ぐに二階に向かった。

 部屋の電気も付けずに、疑問の整理を始めた。

勝の好きな人が竹本かもしれないということ、宮本が竹本に脅されて、辛い思いをしていること、そしてあの夢の謎についてだ。

とりあえず、これからの生活の中で疑問を整理することにした。

それが一番最良の案に思えたからだ。


 気づいたら、朝になっていた。

夢は見なかったが、この世界に何も無かったということを意味している為、嫌な気はしなかった。

 それから一週間、特になんの進展も発見もないまま、時は過ぎた。

ただ、宮本があからさまに俺と話すのを避けているようだ。

気まづいのかもしれないが、出来たら話したいもんだ。

学校が退屈なだけになる。

 その日の夜、夢がまた出てきてくれないかなと思ったが、期待半分諦め半分だった。


久しぶりの夢だ。勝の顔が酷く歪んでいる。

いや、怒りに震蕩しんとうし、何者かを睨んでいるようだ。

その何者かが歪んで見えない。

だが、男と女が向かい合い話しているようだ。


 俺は起きた。

早く夜になって欲しいと初めて思った。

 学校に到着し、勝を見てみたが、特に変化はないようだった。

竹本とのトラブルから、俺達の中は険悪化していたが、俺が竹本と勝の動向を観察するために敢えて俺から謝罪し、仲を緩和した。

 勝と放課後、共に帰りながら、俺は疑問を率直に問うた。

「なぁ。そろそろ勝の好きな人を教えてくれよ。親友だろ?」

俺はそう言って、誘惑した。

「んー。仕方ないな」

俺は唾をゴクッと飲み込んだ。

「竹本だ。竹本が好きだ」

勝はそう言うと、照れくさそうにそっぽを向いた。

俺はやはりそうかと思い、本当は反対だったが、勝の恥ずかしそうな表情を見ていると、とても本当のことなど言えなかった。

 夜中、夢に希望を託し就寝した。


きたぞ。続きからだ。

向き合っている女の方の歪みが取れていく。

あ、竹本だ。

まじかよ…向き合っていたのではなかった。

キスをしていたのだ。

だが、睨んでいるのが勝と言うことはもう一方の男は何者だ?

嘘だ……あれは…俺か?俺なのか…。

なんでなんだ!


 俺はそこで跳び上がるようにして起きた。

額を拭うと、冷や汗でベトベトだった。

今まで夢を早く見たいと思っていたが、昨夜の出来事のせいでその概念は覆された。

 俺はしばらくの間、ベッドの上で色々と整理していた。

だが正確に言えば、頭は働かずただぼっーと何もない壁を見つめていただけなのかもしれない。

 下に降りると朝飯が出来ていたがとにかく急いでいたため、それを食べず、よくアニメなどであるように食パンを口に挟みながら走った。

 だが、心境はアニメなどとは正反対だった。

昨夜、見た夢のことを勝に言うつもりだ。

まだあまり信憑性はないが、未来を示唆しているかもしれないこの夢をもう自分一人でかかえていくわけにはいかなかった。

 もう既に桜は殆ど散りかけていた。

とても儚く、閑散としてるなと感じた。

初日の入学式とは同じ道でも表情がかなり違った。

 学校につくなり、複雑な気持ちを抱えたまま勝を探した。

まだ時間が早いせいか、生徒は一人もいなかった。

 だが、物事はそう上手くはいかないらしい。

竹本が話しかけてきた。

「最近ね。梅宮勝って人がよく話しかけてくるんだけど、上野くん知ってる?」

 こいつは絶対に俺と勝が仲いいことを知っているはずだ。

知っていて、あえて言っているのだ。

「俺らが仲良いことはお前だって知っているはずだが。何を企んでる」

やはりこいつの表情には何とも言えない独特の嫌な雰囲気が漂っている。

「別に。ただ気になっただけよ」

そう言って俺の嫌いな笑みを浮かべた。

「トイレ行きたいから、ちょっとどけよ」

 俺はそう言って立ち上がった。

その瞬間、柔らかいものが俺の唇に触った。

理解するのに少しの時間を要した。

その時間が長く感じた。

 刹那、教室の扉がガタガタと音を立て開いた。

勝だ。不運にも程がある。

だが、これはその程をゆうに超えている。

俺から竹本の唇が離れた。

 勝の顔を伺うと、驚きのあまり声が出せず、口がポッカリと空いていた。

だが、状況を把握したのか、驚きの顔から完全に怒りの顔に変化した。

「おまぇ……!ふざけんな!」

勝が、聞いたことがないほどの声量で叫んだ。

そして、俺の方に走ってきた。

俺は顔に鋭い衝撃を受け、途端に白い天井が見えた。

 夢はこの場面を示唆していたのだ。

やはり夢は未来を示唆していた。

その事がやっと判明した。

俺は殴られながらも喜びを感じ、視界が真っ黒くシャットダウンした。


 これは夢か?いつもとは違う。

何故かテレビの砂嵐のようなものが夢にかかっている。

辛うじて見えるがよくは見えない。

ん?これはあの道の桜か?

 ただ、散り具合を見る限りもう少し後だと推測される。

人がたっているようだが、視点が遠すぎて、何者かは断定不能だ。

 ただ、髪が長いことから、きっと女子だろう。

 ん?もう一人女子がやってきた。

だが、桜を見ている女子の背後から迫っている。

 依然、二人の表情は読み取れない。

次の夢に希望を託すことにしよう。


 起床した。

だが、何か心に鉛が溜まったように体が重い。

加えて、頭が何かを訴えているのか頭痛が酷い。

 俺はまたそのまま気を失った。


 視界が真っ暗だ。何も見えない。

だが、その暗闇から徐々に映像が映し出されていく。

先程の夢の途中からのようだ。

表情も読み取れる!

桜を見ているのが、宮本だ。

背後から迫っているのが、竹本のようだ。

宮本は何か優越感を味わっているような顔をし、桜を眺めている。

対して、竹本は宮本を睨み、今まで以上の恐ろしい表情をしている。

何かをやろうとしているのは表情から推測できる。

おい……まて!

宮本が……川に落ちた。

竹下が川に向かって押したのだ。

これはまずい……


 俺はそこで体が反射的に起きた。

今まで以上に気持ち悪い胸騒ぎを感じた。

思わず、吐きそうになった。

たが、俺の体は俺の身体状況を無視し、自然と体が動いた。

 何も言わずに家を飛び出した。

もう既に体は汗まみれだ。

絶対に助けなければならない。

何故そうなったのかは分からないが、とにかく助ける。

それが最優先だ。

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