光合成 II
夜勤が終わると、私誰にも挨拶せずに急いで帰路を辿る。
たった一人の大好きな彼が気になって仕方がないのだ。
多分、彼は今日も眠っていない。
私が隣に居ないと、彼は眠らないのだ。
多分、彼はまだご飯を食べていない。
私が作らないと、彼は食べないのだ。
多分、彼は昨日のまま裸で眠っている。
私が仕事に行くと、彼は服を着ないのだ。
いつからそうなった。
いつからこうなった。
いつから変わってしまった?
私の生活は何一つ変わらない。
穏やかに時が過ぎる。
平日は仕事にいく。
やすみの時は友達と遊ぶ。
そして夜は彼とひとつになる。
彼は私の心の半分で、彼の存在は私を占めていた。
アパートの三階まで一気に駆け上がり、息は絶え絶えになる。
カチャリとドアを開けると、彼はキャンバスから顔を離し、優しい笑みをこちらに向ける。
「お帰り、桃華」
「ただいま。ーー優希」
私は買い物袋をリビングのテーブルに乗せる。
何ひとつ変わらない優希。
私が出勤する前にご飯を食べて
私が出勤する前にひとつになり
私が出勤する前まで腕の中で眠りについていた。
太陽は高い位置で、私達をカーテンの隙間から覗いてくる。
光に晒されるのが恥ずかしくて、少しだけ服を手繰り寄せる。
「桃華、光合成しなきゃ」
「意味、わかってるの?」
「勿論」
優希の唇は柔らかくて甘い。
太陽に見守られながら、私達は光合成を続ける。
魂もひとつになるために。