6、遠い記憶
頭を撫でられるのが嫌じゃなくなったのはいつからだろう。
馴れ馴れしい奴、そんな第一印象だった。
女子の髪に気安く触るなんてありえない。正直割とムカついていた。
「いや、頭撫でられるとほっとしない? 嬉しがるかと思って……」
でも、彼からそんな言い訳を聞く頃には、触れられるのが嫌ではなくなっていた。
もう、好きになっていたのだ。
優しい子だった。私が落ち込んだ時、いつだって声を掛けてくれた。会話は少なくても、一緒にいる時間が愛おしかった。
それが当然であるように、気が付いたら私は彼と付き合っていた。
随分と遠い記憶になってしまった気がするのは、多分過ぎた時間の所為だけではないだろう。
「……、ありがとう」
呟いた言葉は、眼の前にいる少年に向けてだった。触れる手に込められていた感情に、今はもう気付けている。
今眼の前にいない彼と見上げた少年の姿が重なる。
「もう、大丈夫だから……」
そう、もう大丈夫だ。自分に言い聞かせるようにして弱り切った脚に力を込める。
(行かないと。行って謝らないと)
例えもう会えないのだとしても、そうしないといけないと思った。
気持ちほどに動かない身体がぐらりとよろめく。倒れずに済んだのは、支えてくれる腕があったからだ。
「なにしてんだよ」
きつい語調とは裏腹に、優しく響く声。