4、生きていたって
「生きてる人間なんて、あそこにはもういないよ」
そう告げられた時、彼が何を言っているのか、まるで理解が追い付かなかった。
隣街は、私が入院する前に暮らしていた街だ。生まれてから、一度も離れたことがない。
爆弾で全てが吹き飛んだ。家も、ビルも。……、人も。
いきなり信じられるはずもない話は、でも、目の当たりにした光景に事実と裏付けられていた。窓から望む変わり果てた景色は、確かに私が知る街並みの面影を残していたのだ。
辛うじて立てていた足が、膝から崩れ落ちる。今まで身体を支えていたものが、気持ちだけだったのだと改めて思い知らされた。
恐らく――
(タケちゃん)
頭を過るのは最も愛おしい名前だった。
会いたかった。会って、もう一度抱き締めたかった。最後に触れた体温が鮮明に思い出される。私が一番幸せだった頃の記憶だ。
失われてしまったかもしれない。そう考えが廻ると、ぼろぼろと涙が落ちてきた。
感情が渦巻いて叫びたいほどなのに、喉が詰まって上手く声は出てこなかった。鳴咽ばかりが喉から零れる。
私だけ生きていたって……。
暫く蹲ったまま泣いていると、そっと頭に触れてくるものがあった。
伝わってくる、随分と懐かしい温かさ。