2、タケちゃん
(……、寒い)
必ずなんて、簡単に口にすべき言葉ではないはずだ。
「必ず助かるから」
それなのに、そう言った父の眼差しには、強い確信が込められているように見えた。
だから、勧められるまま治療を受けることを決めたのだ。もう治らないと思って、半ば自暴自棄になっていたのにも関わらず。
麻酔を打たれ、意識を手放してから、一体どれ位の時が経ったのだろう。
しかし、それにしても寒い。瞼も重い。でも、意識はある。
生きていた。そう、私は助かったんだ。
そんな安堵と共に、一つ思い出すことがあった。
(タケちゃん……)
「もう、来ないでっ!」
そう、泣きながら叫んだのは、治療を受ける決意をした数日前だった。
あんなに、私を心配してくれていたのに。
心ない言葉だったと、今では思える。
(謝らなきゃ)
瞼を開く。部屋はあまりにも暗い。
鉛のように重たい身体を起こしたら、ゴツンと額に当たるものがあった。硬くて冷たい。硝子だろうか。力を入れて押し上げると、思いの外軽く持ちあがった。
立ち上がろうとする足がふらつく。長く床に伏していた所為だろう。これじゃあ、前より弱っているみたいだ。
でも、そんな身体に反して心は軽かった。
(また、タケちゃんに会える)
高ぶる気持ちのまま、暗闇の中で手さぐりに出口を探していると、後ろの方からギィッと音が鳴った。
振り返った先、射し込んだ光が酷く眩しい。眼を凝らすと、人の影が浮んできた。