1、眠っているように
透明なケースの中、彼女はまるで眠っているように見えた。血色が良いとは言えず、儚げな面持ちで目を閉じたその顔は、それでもなぜか今にも眼を覚まして起き上がるのではないかと思うくらい、安らかな表情をしていた。
人の死体というものはそう珍しいものでもない。新しいものから古いものまでそこらじゅうに転がっている。正直、よくこれだけの人が生きていたのだと感心するほどだ。
しかし、そんな沢山の死体の中でも、彼女だけは違っていた。こんなに美しい死体は今まで見たことがなかった。いや、生きている人間の中でも、こんなに綺麗な人は見たことがない。だって、今生きている人間には、こんなにも安らかな表情が出来る人はほとんどいないのだから。
だからこそ、彼女が死んでいるようには見えなかった。今にもこの容器の中から起き上がるのではないかと錯覚してしまうくらいに。
しかし、彼女は目覚めなかった。今まで何度もここを訪れていたが、彼女は一切その姿を変えずに、ずっとここにあり続けてきたのだ。
窓のないこの部屋からは外の様子を伺い知ることは出来ない。じきに陽も暮れるだろうか。だとしたらもう帰る時間だ。
名残惜しいところだが、それはいつものこと。最近、完全に日課となったここへの通いを今日も無事に終え、帰路に着く。
西陽が廃墟の影を遠くに伸ばしていた。