第九話 作戦会議
「もう大丈夫です。皆さん離れていてください」
模擬戦後、シャルロットさんは魔力が回復したようですぐにでも魔法を使おうとしていた。
「ちょっと待ってシャルロットさん」
シャルロットさんが魔法を使う前にやりたいことがあった俺は魔法を放とうとしているシャルロットさんを止めた。
「どうしたんですか。ラフォス君」
「魔法を使う前に魔法の威力を確かめるために準備をするからちょっと待って」
「どのようにするんだ。ラフォス」
俺が訳を説明するとスティーブンが気になったのか質問してきた。
よく見たらアリアさんとシャルロットさんも気になっているようだ。
「魔法を使って障害を作るだけだよ。ちょっと見てて」
俺がそう告げると一先ず了承はしたようで三人とも少し下がった。
「メイク・クレイマン。メイク・アイスマン。メイク・アイスゴーレム。ロックウォール。これぐらいでいいかな」
俺は『メイク・クレイマン』、『メイク・アイスマン』、『メイク・アイスゴーレム』、『ロックウォール』を使って人形や壁を作り出した。
氷属性上級魔法『メイク・アイスゴーレム』は氷属性中級魔法『メイク・アイスマン』の上位互換の魔法である。
この魔法で作り出した氷の人形は二メートルを超え、さらにアイスマンに比べて強度が上がっているのが特徴的である。
「これに魔法を打てば威力がわかりやすいでしょ」
俺の言葉に最初はポカンとしていたシャルロットさんだが、理解したようですぐに笑顔で返事をしてくれた。
「ありがとうございます。それでは魔法を打ちますね。皆さん下がってください」
シャルロットさんに言われ、俺たち三人は結界からでてシャルロットさんの魔法をみることにした。
「いきます。疾風千刃」
俺は少しシャルロットさんを過小評価していたようだった。
シャルロットさんは攻撃魔法をほとんど使わないから『疾風千刃』の威力も弱いだろうと思っていた。
だが実際にシャルロットさんから放たれた『疾風千刃』は俺の造り出したアイスマンやクレイマン、ロックウォール、アイスゴーレムを細かく切り裂いた。
これはかなりヤバイ。
「なによ。この威力…」
「この威力はすごいな。予想以上だ」
アリアさんとスティーブンも俺と同じくかなり驚いているようだ。
「これくらいの威力なのですが、どうでしたか」
自信なさげな顔をしながらシャルロットさんが尋ねてきたがこれで攻撃魔法に自信がないのだろうか。
「十分すぎる威力だよ」
「私、この中で一番弱いきがする…」
「この威力ならすぐに実戦で使えるだろう」
俺とスティーブンからの返事は嬉しそうにしていたが、アリアさんからの返答にはどうすればいいかわからないという表情をしていた。
俺たちもこの言葉にはどう声をかけるべきかかなり悩んでいた。
「そうだ。ラフォス、この後のことなのだが、少しお前の部屋で明日以降の試合に向けて話し合いをしないか。ここを借りている時間もそろそろ終わることだし」
「それはいいですね。じゃあ、三人ともついてきて」
このままでは不味いと考えた俺たちの提案だったが、結果的にアリアさんとシャルロットさんを慌てさせてしまった。
「いきなり部屋じゃなくてもどこかのフリースペースを使えばいいんじゃないの」
「そうですよ。そんないきなり押し掛けるわけにはいきませんよ。どこかフリースペースを使いましょう」
二人して同じ提案をしてきたわけだ。
「フリースペースじゃまずいよ。明日からの試合の話なんだから他の人にきかれないようにしないとなんだから」
「そうだぞ。それにこの時間にフリースペースにいる一年生など12階聖しかいないのだからかなり目立つぞ」
「それに他の一年生にきかれたら意味ないしね」
「しょうがないわね」
「そうですね」
なんとか二人は納得してくれたようだ。
「なら行くか」
「そうだね。じゃあ三人ともついてきて」
俺の案内で演習場を出てから俺たちは俺の部屋に向かって歩いていった。
本来は授業中の時間帯なのに大丈夫なのかスティーブンに尋ねたところ、「12階聖は自由に動いて良いから問題ない」そうだ。
そんなわけで安心して学生寮の俺の部屋に俺たちは向かっている。
この学校には男女別の学生寮があり、ほとんどの生徒が利用している。
学生寮は学年毎に別れていて、一人一部屋与えられている。
そしてここでも12階聖の特権として、12階聖の部屋は他の生徒の学生寮の区画と違い、一部屋毎にそこそこの距離がある。
これは以前に犬猿の仲の二人の生徒がともに12階聖になり、部屋が近かったので会うたびに喧嘩をして学生寮に少なくない被害をもたらしたそうだ。
しかも12階聖の上位だったから止めるのが大変で止めるほうにも被害が出ていたらしい。
そしてその喧嘩の理由が互いの部屋が隣接していて隣の部屋の物音が原因だったらしい。
そのため学園側としても12階聖の上位なので簡単に12階聖から降ろせず、しかも階級が連番だったので部屋を動かせずにいた。
そこであるとき、長期休暇で学生寮に人がいないときを狙って学生寮の修繕も兼ねて工事をして、12階聖の学生寮の部屋の間隔を空けたところ二人の喧嘩が減ったことから12階聖の学生寮の部屋だけ間隔が空いている。
ちなみにたった一つの学年の問題だけでそうしたのかというと実はそうでもない。
その当時は各学年で似たような問題が他にも発生していて、さらに過去にも有ったことによる改善策だった。
その結果、学生寮の破壊が減ったそうなので学校側は安心したようだ。
そして、そんな12階聖の学生寮は実は他の学生寮と違い、広さはもちろんだが、生活に使う魔道具やキッチンなどもついていて、さらにお風呂も存在する。
他の学生寮にはシャワーはあるけどお風呂は共通の大浴場しかないらしい。
もちろんキッチンや魔道具もあまりないわけだからかなりの待遇である。
というか、12階聖には食堂の食事を回数に制限はあるものの無料で食べれるにも関わらず、キッチンがついているので実はほとんど使われていない。
何でも以前の改修工事の時にこれまた12階聖の一人が料理が好きすぎて調理実習室に籠りきりだったのでどうにか学生寮に戻ってもらおうと設置したらしい。
そんなわけで12階聖の学生寮はかなり便利で待遇もいいし、広い部屋になっている。
この学校の生徒数からするとかなりの費用と場所を使っているが、国営とはいえ大丈夫なのだろうか。
まあ気にしてもしょうがないことなので気にしないほうが良いだろう。
そんなことを考えながら皆としゃべっているとすぐに俺の部屋に着いた。
「おかえりなさいませ。我が主」
扉を開けるとスキアがお出迎えをしてくれました。
俺はいつものことだけど、後ろの三人、特にアリアさんとシャルロットさんが驚いて固まってしまっている。
「えっと、皆、大丈夫?」
俺の問いかけに他の二人はまだ固まっているので、スティーブンがため息を吐きながら返してくれた。
「どうなっているんだラフォス。前のスキアはこんなんじゃなかったと思うんだが、俺の思い違いか?」
残念ながら俺も同じ事をいまだに感じているので目をそらしながら答えた。
「一年くらい前まではこんな風じゃなかったんだけど…」
本当に一年くらい前まではこんな忠誠心たっぷりじゃなかったんだけど、ある日からいきなりこんなかんじになってしまい、こっちもどうすれば良いのかかなり困っている。
何度も元に戻さないかと聞いたけど、その度にスキアに断られてしまい、このままの状態が続いている。
「はぁ~。ねぇ、スキア、また前みたいなしゃべり方に戻らない?」
「これは自分が決めたことです。どうかお許しください」
このことをたずねるたびにスキアは今回のように頭を下げて俺に許しを求めてくる。
最初のうちはすぐに戻るだろうと楽観視していたが、いつまでたっても直らず、今となってはほとんど諦めている状態である。
「やっぱり直さないんだな。とりあえずお茶でも準備するか。三人ともテーブルに座ってて。スキアは準備を手伝ってくれない」
「我が主、そのようなことなら自分がやりますので座って待っていてください」
「俺も一緒に準備した方が早いでしょ」
「我が主がそう言うのであれば…わかりました」
「三人ともほら座って座って」
「すまんな、ラフォス」
「いいからいいから。ほら二人も座って」
三人を座らせると俺とスキアはキッチンにむかい、お茶の準備をした。
といってもお茶の準備なのですぐに終わり、スキアと一緒に三人のところにすぐに運んだ。
「お待たせ。苦手だったら他のものいれるから言って」
「相変わらずうまいなお前の茶は」
「これ、本当においしい」
「ラフォス君、ありがとうございます。とてもおいしいです」
のんびりとしたこの時間、落ち着くなぁ~。
「のんびりとしたとこでそろそろ本題に入ろうか」
「ちょっと待って。のんびりして忘れそうになったけど、あのゴブリンはなんなの」
このまま何もきかれずに済むかと思ったけどそうはなりませんでした。
「このゴブリンはスキアっていうんだ。俺が召喚契約をしている魔物で普段は俺の家にいるんだけど、この前生徒会の手伝いをするときに召喚したんだ。そのときに俺の母さんからスキアをこっちに置いておくように手紙を持ってきて、学校側にも許可をとっているからってことで今は俺の部屋にいるんだ。スキアも自分から頼んだみたいだったしな。いや~12階聖の部屋で良かったよ」
皆、微妙な表情で黙ってしまった。
「ところでそろそろアリアとシャルロットの戦闘について話をするべきじゃないか」
「そうだね。時間もないし、さっさと始めようか」
少し強引すぎる話題変換であったが、俺はスティーブンの話に乗って話し合いを進めることにした。
「まず、二人の魔法についてはさっきの模擬戦で話したことが大まかな弱点かな。アリアさんは攻撃力はあるけど、防御や妨害系の魔法が苦手みたいだし、シャルロットさんは防御魔法が得意みたいだけど、疾風千刃以外の攻撃魔法はほとんどないみたいだね」
「そうですね。私の使える攻撃魔法はあとは初級魔法だけです」
「私も言われたとおりね」
「なら二人には時間もないからそれぞれの苦手分野の強化をさせたほうがいいだろう」
「そうだね。俺はアリアさんは今ある防御魔法を強化してもらって、シャルロットさんは新しく下級の攻撃魔法を覚えてもらいたいんだけどかまわないかな?」
俺とスティーブンの考えを二人に話し、その上で二人に質問した。
「そうね。今からだとさすがにすぐに使える新しい防御魔法は無理そうだし私は問題ないかな」
「えっと、私は新しい下級の攻撃魔法を覚えるんですよね。その、そんなにすぐに覚えられるものなんでしょうか」
アリアさんは納得してくれたようだが、シャルロットさんは魔法を覚えられるか不安みたいだ。
「得意な属性であれば、今日中に一つか二つは使えるようになると思うよ。それに攻撃の幅もかなり広がるだろうし、疾風千刃も温存しやすくなるだろうから、余裕もできるだろうし。幸い水属性なら俺も得意だから教えられるしね。それでもダメかな?」
「そういうことなら私も頑張ります。ラフォス君、ご指導お願いします」
シャルロットさんも納得してくれたようだ。
「それじゃあ質問するけど、今使える水属性の初級魔法は何があるの?」
「アクアとアクアボールです」
水属性初級魔法『アクア』はただ単純に水を出す魔法である。
この魔法は使用している間水を出し続けることができ、若干であるが、水を出す威力の調節もできる。
ちなみに飲料水としても使える。
水属性初級魔法『アクアボール』は水の球体を作り出す魔法である。
作り出す球体の大きさはある程度調節でき、打ち出すこともできるが、打ち出す速度はあまり速くないので攻撃にはあまり向かない。
さらに大きくなるほど打ち出す速度も落ちる。
「ならアクアショットとアクアシュートあたりを練習してみない?」
「私は教えてもらう立場ですし、あまり攻撃魔法はわからないのでその魔法を教えて下さい」
アリアさんからきいて俺が『アクアショット』と『アクアシュート』を進めた結果、その魔法を覚えることになりました。
水属性下級魔法『アクアショット』は『アクアボール』をスピードに特化させた魔法である。
この魔法は『アクアボール』よりも小さい水の球体を作り出すが、そのぶんスピードはかなり速いため攻撃魔法としてよく使われる。
水属性下級魔法『アクアシュート』は『アクアボール』をより長距離に打ち出せるようにした魔法である。
この魔法は『アクアボール』とおなじサイズの水の球体を『アクアショット』には劣るが『アクアボール』より速く打ち出す魔法である。
ちなみに二つの魔法ともスピードや大きさを調整できる。
シャルロットさんの覚える魔法も決まったところで、休憩をしてから、俺がシャルロットさんを、スティーブンがアリアさんを教えることになった。
スティーブンたちは二人が得意な重力属性をやるみたいだ。