第六話 生徒会会計
魔法の難易度は
(弱)初級<下級<中級<上級<帝級<聖級(強) となっています。
更新が久しぶりになってすみません。
一日目の授業を終えた俺とレイ、シリス、ユキさんの四人は昼食を食べるために食堂に来ていた。
俺たちは食堂の日替わり定食のBランチを注文すると席に着くとさっきの授業ついて話始めた。
「ねえ、ラフォスってさ~私やユキよりも強力な防御魔法も使っていたけど魔法もルリアさんに教えてもらったの」
「いや、魔法は父さんに教えてもらったんだよ」
「へえ~そうなんだ。じゃあルリアさんには武術だけを教えてもらったのね。普段のルリアさんってどんな感じなの」
授業が終わってからシリスは俺に母さんについての質問ばかりしてきた。
しかも似たような質問が多くあり、ユキさんに助けを求めて目線を向けたがユキさんも困った顔をして首を横に振るだけだった。
「おい、シリス。お前いつまで質問し続ける気だ。ラフォスも困ってるぞ。」
困りながらシリスの質問を受けていると、そんな俺をみてレイがシリスを注意した。
「あんたには関係ないでしょ」
それに対して相変わらずの喧嘩腰で返答するシリスに
「関係ないってなんだよ」
レイの反論によりいつものように言い争いが始まったのであった。
俺とユキさんはまだ入学二日目にも関わらず、見慣れてしまった二人の光景に傍観することを選択して大人しくすることにした。
「だってあんたには関係ないことじゃない。私はラフォス君にルリアさんのことを質問しているの。少しは大人しくできないの」
「そのラフォスが困ってるみたいだから位ってんだよ。お前のほうが大人しくしてろよ」
「いきなり話を中断させといて何様のつもりよ」
シリスからの質問も中断され、二人の言い争いが当分終わらなそうなので俺は昨日会長と約束していので生徒会室に向かうことにした。
「俺、今日用事があって生徒会室に行くからそろそろ行くね」
俺はそう言って椅子から立って言い争いをしていて気づいていない二人はおいといてユキさんに挨拶をして生徒会室に向かった。
生徒会室に着いた俺はノックのあとに「失礼します」と声をかけ生徒会室に入ると、目に入ってきた光景に驚きそのまま生徒会室の扉を閉めて閉まった。
(疲れて見間違いでもしちゃったかな)
そんなことを考えながら再び見た光景は変わらず、また扉を閉めようとした時、会長が走ってきて俺が扉を閉めるのを止めた。
何度見ても変わらない生徒会室の光景と言うのが書類の山に埋もれていると思われる人物が書類をさばき、そのさばかれた書類を子どもサイズのゴーレムが整理し、新たな書類を持ってきている。
その横では男性が向かいの女性と魔法の打ち合いをしながら言い争いをしていて、さらに少しはなれたところでは剣を持った二人が切りあいをしていて、破損されていく壁をまたもやゴーレムが直していた。
俺が戸惑って扉の前で立ち尽くしているといきなり中から扉が開けられた。
「ラフォス君、来てくれたのね。皆に紹介するから速く入って」
生徒会室から出てきた会長に声をかけられ、訳もわからず腕を引っ張られながら俺は生徒会室に入った。
生徒会室に入った俺が戸惑っているのを見た会長は
「ラフォス君。目を閉じて、耳をふさいでおいてね」
と言いながら手を天井の方へ向けた。
俺は会長に言われた通りに目を閉じて、耳をふさぐといきなり耳をふさぎながらでもきこえる“バン!”という音がきこえた。
音がきこえた後に俺は肩を叩かれたので恐る恐る目をあけて、耳から手を離すと、さっきまでの喧騒が嘘であったかのように静かでそしてひっくり返っている人たちとゴーレムがいた。
俺がこの事態を引き起こしたであろう人物に目を向けると、会長は笑顔を返すだけであったので、
「会長。これはいったい何をしたんですか」
俺が問いかけると、会長は笑顔のまま
「『フラッシュ』と『サウンド』を使っただけよ」
と答えたのっあった。
光属性下級魔法『フラッシュ』は光属性初級魔法『ライト』の強化版である。
『ライト』が光の球体を出現させる魔法なのに対して、『フラッシュ』はライトよりも強力な閃光を放つ魔法である。
フラッシュはライトよりも持続時間が短く、形状も球体ではないが、ライトよりも少ない魔力で強力な光を放つことができる。
無属性初級魔法『サウンド』は音を放つ魔法である。
使用者が放ちたい音を選んで放てるが、ほとんどのものが破裂音などの効果音を使う。
もちろん言葉を放つことも可能であるが、言葉を放つ際には魔法の難易度が格段に跳ね上がってしまうのであまり言葉を放つものはいない。
そしてこの二つの魔法の特徴は注ぐ魔力の量による威力の変化が他の魔法よりも大きいことである。
さっきの音を聞く限りかなりの魔力を注いでいたようなので被害を受けた人たちを心配し、会長のほうを向くと、
「皆なら大丈夫よ。いつも使っているから加減はわかっているしね。そろそろ皆起きるはずだから、そしたら皆にラフォス君のことを紹介するからね」
会長の言葉通り二、三分程するとじょじょに倒れている人たちが起き始めた。
「会長、仕事中なんですよ。邪魔しないでください」
書類に埋もれながら仕事をしていた男子生徒が顔をあげながら会長に向かって注意した。
「ごめんね。新人を紹介するのに皆がうるさかったし、呼び掛けても収まりそうになかったから手っ取り早く静かにさせてもらっちゃった」
会長の言葉に今まで書類の整理からか疲れきっていた男子生徒の顔が瞬く間に喜びの表情に変わった。
「前に話していた会計補佐の生徒ですか。いったい誰なんですか」
「少し落ち着いてね。今紹介するから。ほら、皆こっちに注目してね。この男子生徒が会計補佐を新しくつとめてくれるラフォス君です。ラフォス君は商会の手伝いをしていたからかなりの戦力になると思うよ」
「会長、お言葉ですがそこら辺の商会の手伝い程度の経験では我が学園の予算運営は厳しいと思いますよ」
会長の言葉に会計担当らしい先輩は落ち込んだ後に顔をしかめながら会長にそう進言してきた。
「それなら大丈夫よ。ラフォス君はあのトクソ商会の跡取りとして商会を手伝っているのよ」
会長の返答をきいていたと思われる生徒会室にいる先輩たちがいきなり
『ええ~』
と、驚きの声をあげたのだった。
俺がその声に驚いて周りを見渡しているといきなりさっき会長に進言してきた会計らしい先輩が俺の肩をつかんで俺を揺らしてきた。
「君があのトクソ商会の跡取りというのは本当なのか」
「本当ですから落ち着いてください」
肩を掴まれながら俺のことをゆらして質問をしてくる先輩を何とか落ち着かせて返事をしたが、周りの先輩たちも何かしらの質問をしようと近づいてきているようので、俺は急いで会長に助けを求める視線を送った。
「皆、落ち着いてね。ラフォス君が困っているでしょ。まだ皆を紹介していないし、仕事も体験してもらっていないから質問とかはまた今度にしてね」
会長が何とか他の役員を落ち着かせてくれたおかげで俺は落ち着くことができたのだった。
「それじゃあ一人一人紹介していきますよ。まずは今ラフォス君の目の前にいる黒髪の男子が生徒会会計役員のバジルよ。そしてあっちで魔法を撃ち合っていた二人のうち男子のほうがキリル、女子のほうがアウラよ。二人とも副会長をやってもらっているのよ。最後に剣で切りあっていた二人のうち男子がリガスで女子のほうがエレナよ。二人は書記なの。後は会計の子を一人探しているけれどまだ見つかっていないから欠員になっているわ。」
会長から次々と役員を紹介されていき、俺は一人一人と握手をしていった。
「じゃあ次は役員への紹介をするわね。彼はラフォス君よ。まあさっきの話で出た通りトクソ商会の跡取りで商会を手伝っている経験を生かして会計補佐の仕事をしてもらうつもりです。会計の席が空いているけど補佐のほうが良いっていう本人の意向があったから補佐になってもらうつもりです。ちなみに今日は仕事の体験をしてもらうからラフォス君への質問は極力しないように。ということだからバジル君、ラフォス君に仕事を教えてあげてね。あと、ラフォス君は一応許可をとってあるから生徒会室に私がいる間は魔法を使っても問題ないから」
今度は会長から役員に向けての俺の紹介が行われた。
そして俺に向かって言われたであろう魔法の使用許可に俺は会長の意図通りある魔法を使うことにした。
「では会長。召喚魔法を使用しても問題ないでしょうか」
「問題ないわ。まあ、今日は仕事に関係する範囲にしておいてね。キリル君やアウラさんのように喧嘩とかで魔法は使わないでね。後は役員の皆はバジル君以外は静かにしていてね。何でかなんてもきかないでよ」
前半は俺に対してだが、後半は役員の先輩たちに言ったらしく、会長のとても逆らえる気がしない笑顔に役員の先輩たちは静かに部屋の端のほうへ移動し見ていることにしたようだった。
「それじゃあ後はバジル君、お願いね」
「わかりました。会長」
会長から俺のことを頼まれたバジル先輩も直前に行われていたやり取りからか背を伸ばして返事をしたのだった。
「それではラフォス君、会計補佐の仕事の説明をするよ。よく聞いていてください。まず、補佐役員というのは正式な生徒会役員の仕事を助ける、つまり補佐をする生徒のことを指します。この補佐役員はその役職の生徒か会長が必要と判断した際に補充することができますが、原則として一つの役職に二名までとされているよ。現在は書記と副会長にそれぞれ一名ずついますが、会計にはいないんだよね。それで仕事内容だが、会計に回ってくる書類の処理になるよ。具体的には予算の申請であれば、予算の支出に問題はないかや前年度などと比較し、増減が可能かどうかの確認をします。また部活動や委員会が各々の予算から何か購入する際にそれが必要かどうかやさらに安く抑えられないかなどを確認したりするよ。今まで説明したことは問題ないか」
「問題ないです」
「それでは続きだけど、まあ今まで説明したのは主に生徒会の会計役員が行うので覚えておくだけで構わないよ。次からが本題になるが、補佐役員には主に会計に回ってきた書類の計算をしてもらい、計算があっているかどうかの確認をしてもらいたいと思っている。一応言っておくがそれだけだと思わないでくれ。実はこの仕事は会計にくる書類の八割を占めているんだ。今、俺の机を埋め尽くす量の書類があるが、あれはまだ全体の一割程しかないんだ。処理が終わった書類もあるが、日々増え続けているからまだまだあるよ。こんな感じだけど質問はあるか」
俺はバジル先輩の話をきいてかなり驚いていた。
というのもバジル先輩の机を埋め尽くす書類は椅子に座れば人を隠してしまうほどの量かあり、とても一人でまとめきれるとは思わなかったからだ。
そんなことを考えながら俺は今きいた内容を確認しながら何か質問をしたいことがないか考えていた。
「質問なんですが、あのゴーレムは先輩の魔法ですか」
「ああ、あのゴーレムは俺の魔法だ。書類の整理をする時間がもったいなくて処理し終えた書類はゴーレムに運んでもらっているんだ」
「そうなんですか。他の先輩たちに手伝ってもらうのでは駄目なんですか」
「前まではそうしていたんだが、手伝ってもらっていたある日にいきなり喧嘩をしだしてしかも魔法や剣を使ってだ。そのときに処理した書類が魔法で燃えたり、水で濡れたり、剣で切れたりしたんだよ。それからは手伝ってもらわないようにしているんだ。余計な仕事が増えるからな」
「そうだったんですか。大変だったんですね」
「まあ、喧嘩はよくあることだし、なによりその後に会長からのお叱りを受けていたからな」
(会長からのお叱りとか怖そうだな~)
バジル先輩の話を聞きながらそんなことを考えていた。
「ラフォス君、後は何か質問はあるか」
「いえ、後は特に質問はありません。ですが、仕事をする前に魔法を使っても良いですか」
「魔法は使ってもらってかまわないけど、魔法ってさっき会長と話していた召喚魔法か」
「そうです。仕事を手伝ってもらおうと思いまして」
「召喚魔法を使うことができるのか。それで仕事を手伝ってもらうってのは俺のゴーレムみたいにか」
「バジル先輩のゴーレムとは違う方法で手伝ってもらいます」
バジル先輩は俺の返答にどのような方法なのだろうかと考えているようだった。
「計算をしてもらうためですよ」
ますます訳がわからないという顔でバジル先輩は俺のことを見てきた。
「今から実践しますので見ていてください」
そう言って俺は腕にある腕輪に魔力を注ぎながら召喚魔法を使用した。
召喚魔法とは中級以上の空間魔法である。
この魔法は術者が契約した魔物を召喚するために用いる魔法であり、魔物のランクが上がるほど中級、上級、帝級、聖級と魔法の難易度が上がっていく魔法である。
魔物を召喚できる魔法として便利な反面、契約する魔物は術者自身が屈伏させなければならない上に基本の六属性魔法以外は使えるようになるまでに時間がかかり、さらに中級以上の魔法は基本の六属性に比べて難易度が跳ね上がることから使い手があまりいない魔法である。
召喚魔法が発動すると俺の前に魔方陣が現れ、光輝きながら一体の魔物、ゴブリンが現れた。
召喚魔法を使用する前の話からもっと強力な魔物が現れると予想していたと思われる俺と会長を除く生徒会役員たちはゴブリンが現れたことにがっかりしているようだった。
「えーと、ラフォス君。言いづらいんだけどこのゴブリンが仕事を手伝ってくれる魔物なのかい。とてもそうは見えないけど…」
言いづらそうにしながらバジル先輩は俺に問いかけてきた。
「そうですよ。まあ普通のゴブリンではなく変異種のシャドウゴブリンですがね。」
「シャドウゴブリン?」
「はい、俺が小さい頃に捨てられていたこいつを拾ったんですよ。それから俺と一緒に勉強したり武術や魔法の特訓したりしたおかげで魔法や武術はもちろん勉学もできるようになったんですよ。そういえば名前を教えていませんでしたね。こいつの名前はスキアって言います。それで仕事ですね。スキアいきなり呼んでごめんな。それで、スキアに計算作業を手伝ってもらいたいんだがお願いできるか」
「問題ありません。お手伝いします我が主」
「前みたいに気楽に話してくれて構わないんだけどな~」
「そういう訳にはいきません」
「仕方がないか。それじゃあバジル先輩、スキア仕事を始めましょう」
「ああ、わかった」
スキアの登場に俺と会長以外が戸惑っているのを見ながら俺たちは会計の仕事に取り組んでいった。
数時間が経過するとやっと書類の全体の六割ほどを終えることができた。
最初のうちはスキアが計算処理をかなりのスピードで正確にこなしていく姿やそのスキアの倍のスピードで処理する俺の姿に驚いていた先輩たちだったが次第に馴れていき騒がしくしない程度に自由に過ごしていた。
会長から終わりにするようにと告げられ今日の作業は終了となった。
「ラフォス君、今日はお疲れ様。会計補佐の仕事はどうだったかしら」
「会長、ありがとうございます。会計補佐の仕事は流石に多いですね。これを一人で処理しようとしたバジル先輩には感服します。仕事内容自体はいつもの商会の手伝いと変わりませんし、俺でよければ手伝わせてください」
「ということらしいけど、バジル君は問題ないかしら」
「特に問題はありません。というかこちらからお願いしたいくらいです。ラフォス君、今日はお疲れ様。そしてぜひこれからもよろしく頼むよ」
「わかりました。ではこれからもよろしくお願いします」
俺と会長、バジル先輩は言葉を交わしたあとに握手をしたのであった。
「あ、でもラフォス君は一年生だからこれから一週間ぐらいは忙しくて手伝えないと思うから、バジル君頑張ってね」
この言葉を聞いて固まってしまったバジル先輩と戸惑ってしまった俺をみて会長は少し慌てながら
「このことはまだ一年生には伝えられてなかったのね。じゃあ詳しいことは教えられないから忘れてね。あと、役員の皆はこの後にラフォス君を質問攻めにしないように。じゃあ皆お疲れ様でした。」
会長は早口で捲し立てるように言いながら解散のあいさつをし、他の役員たちが「お疲れ様でした」と口々に言うのを聞いてから他の役員とともに俺を引っ張りながら生徒会室から出て帰っていったのだった。
他の先輩たちにも聞いてみたものの、皆「すぐにわかるよ」「頑張ってね」などと口に出しながら帰っていったのだった。
結局この日はよく訳のわからないまま終わったのだった。
次回は今回より早めに投稿します。